保湿スライム
翌日。セレーネは必要な材料の手配するために書類を書いてナタリアに提出。ナタリアはそれを確認して王城に提出し、予算をどのくらい引っ張る事が出来るか話し合いが行われる。ナタリアとセレーネの実績を見れば、ある程度は引っ張れるとナタリアは踏んでいるので、セレーネの大量発注にも笑顔で応じた。
その話し合いが終わるまでの間は、セレーネが個人的に研究する。仕事の一環としてではなく、個人の自由に基づくものなので出費は自分のお金からだ。
空間転移装置や新型輸送用魔動列車、情報処理魔術などの利用料などでセレーネは大量のお金を手に入れている。なので、このくらいの出費はあまり痛くなかった。
適当に材料を集めたセレーネは、屋敷の実験室でカノンと一緒にいた。
「さてと、今日はスライムの核作りの実験だね」
「目処は立っているのですか?」
「ううん。行き当たりばったり」
「なるほど……だから、付きっ切りでいるようにと指示されたのですね」
「うん。まずは、魔術道具型で作ろうと思う。やる事は思考機とかと同じなんだけどね」
セレーネは【水球】を改良した魔術結晶を中央に配置した核を作る。【思考演算】と【座標指定】で持ち主登録した人に付いてくるように設定する。出来上がった核は、拳大の球体になった。
「……大きい?」
「そうですね。ジャイアントスライムが生まれそうな大きさです。ご存知の通り通常のスライムの核はこのくらいですから」
カノンは指でOKサインを出してそう言う。通常のスライムの核と比較すれば三倍近くの近くの大きさがある。それでも範囲をしていて通常のスライムの大きさにしかならないようにしているので、核が占める体積が大きくなっていた。
「取り敢えず、これでちゃんと機能するか確認と」
セレーネは保湿薬を出して核を起動させる。すると、保湿薬が瓶の中から浮き上がっていき核の周りに纏わり付いた。
「保湿薬の登録をせずとも纏う事が出来るのですね」
「うん。一々【水球】をそういう風に調整したからね」
「そうなると、他のスライムが持っている保湿薬にも干渉するのでは?」
「……確かに。つまり専用の保湿薬を調合する必要があるって事?」
「かもしれません。ひとまずはもう一つ作って確認してみるのは如何でしょうか?」
「だね」
そうしてもう一つ作り出して実験をした結果、保湿薬の取り合いが始まってしまった。二つの核がぶつかり合うように取り合う姿をセレーネとカノンはジッと見ていた。
「どう思う?」
「核がぶつかり合っているのは、保湿薬の取り合いにより核が引っ張られているからかと。現状ただの保湿薬の維持だけをしている状態ですが、ここからスライムの捕食とそこの栄養を保湿薬に変える機構を付けた場合核同士を捕食する恐れもありますね」
「核はスライムに消化出来なくする予定だけど、干渉はなくさないと。生物的動きを取り入れる必要は特にないから、この状態でも大丈夫。専用に調合しないといけないのは大変かな……そこら辺の機構も考えよう。取り敢えず基本的な設計はこれで大丈夫だから、次錬金術だね」
魔術道具として作る事は可能だと判明したので、今度は錬金術により作る事が出来るのかを確かめる作業に移る。
「う~ん……錬金術で考えるのって結構大変なんだよね」
「そもそもどうすれば成功するのか分かりませんからね。今回使用するのはスライムの核の粉末との事でしたが」
「うん。ミーシャちゃんは危険って言ってたけど、あれは核をそのまま利用する事だと思うんだ」
「なるほど。核の粉末を利用する事でスライムの身体のように液体を維持する能力を持たせられるかもしれないという事ですね」
「うん。問題は、粉末だけじゃ駄目って事。消化液の要素は残しつつ人の手は食べないで古い角質だけを食べさせる。身体は保湿薬の要素も取り入れる。都合の良い部分だけを抽出して一つに纏めるって感じだね」
「錬金術の本質でもありますね」
「うん。使うのは、スライムの核の粉末。スライムの粘液。保湿薬……う~ん……問題の手を食べさせないための制限……魔術陣を入れてみるかな。制限の術式……うん。出来なくはなさそう。危険そうだったらお願いね」
「はい」
セレーネの最初の試作は失敗した。ただの潤ったスライムになってしまい、セレーネに襲い掛かったからだ。即座に魔力の鎧を纏ったカノンが核を蹴り砕いたので、問題は無かった。
次の試作は、スライムの身体が液体状になってしまい、見た目の悪さから処分になった。核が剥き出しで転がっているため壊れやすいという事も処分の理由の一つになる。
次の試作は核が上手く構築出来ず手を溶かす保湿薬という意味の分からないものが出来上がった。使い道がないので、カノンが焼却炉で処分した。
次の試作は保湿薬としての機能がないただのスライムが出来上がった。当然処分である。
「材料的には良さそうだし、術式の調整と比率を見つける作業の繰り返しだね」
「比率に関しては、大分整ってきていると思います。術式に関しては、私よりもお嬢様の方がお詳しいと思います」
「う~ん……良い感じだと思うんだけどね。【思考演算】を加えて識別をしやすくしてるけど、肝心の制限部分が杜撰なのかな。軽くしようとせずに、丁寧に織り込むかな。そうなると、【思考演算】の一部を軽くして……」
セレーネは魔術陣を調整して、再度試作を続ける。そうして十回目の試作でようやく完全な保湿スライムを錬成出来た。セレーネやカノンを見ても襲ってくる事はなく。無差別に周囲のものを消化する事もない。形もスライムのように保っている。
「私に付いてきて」
セレーネがそう指示を出すと、保湿スライムはぴょんぴょんと跳びはねて付いてくる。その際に地面に保湿薬が付着する事はなく、保湿スライム自身も汚れていない。
「埃と汚れも食べるようにしたけど、これも成功かな。後は手を溶かさないか」
「そちらは私が確認します」
セレーネの手を溶かすわけにはいかないので、カノンがスライムの中に手を突っ込む。すると、保湿スライムの身体の中でカノンの手から小さな気泡が出始める。
「どう?」
「溶かされるという感覚はありません。すぐに手が無くなるという事はないでしょう。この気泡も古い角質を消化している証拠なのかもしれません」
カノンの報告をセレーネは簡単にメモする。
「保湿は?」
カノンが保湿スライムの身体から手を引き抜くと、保湿薬を塗られた手となって出て来た。その分保湿スライムの体積が減るはずだが、手に付着させたくらいでは大して変わりない。
「少し付きすぎな気がしますが、保湿薬としても機能しています」
「そっか。取り敢えず、機能面では成功かな。後はどれだけ生きていられるか。実際に使って貰いながら確かめよう」
「そうですね」
実地試験を行うために、カノンはスライムの発想を出したメイドを呼び出す。
「──というわけ。しばらくこの子を使って、その使用感とか問題とかを細かくレポートにして提出して。結果次第で製品化するかもしれないから、ちゃんと嘘はなしね。どのくらい生きるかも調べたいから、ちゃんとお世話してね」
「はい!! でも、この子って持ち上げられますか? 持ち運びが難しい気が……」
「ちゃんと付いてくるようにはなってるけど、持ち運びも出来た方がいっか。じゃあ、これ」
セレーネは適当に大きな瓶をメイドに渡す。
保湿スライムはスライムなので、手で持ち上げるという事は出来ない。なので、核がしっかりと中に入れる大きさの口がある瓶に入れる事で持ち運ぶ事になる。
「ありがとうございます! セレーネ様!」
「ううん。レポートよろしくね」
「はい!」
メイドが保湿スライムを持っていったので、セレーネは簡単に実験結果を纏める。
「さてと、核の大きさが普通のスライムと変わらないから、作るなら錬金術だね。比率と魔術陣はこれで……後は実地試験がどのくらい上手くいくかかな」
「そうですね。私も仕事の際に少し気に掛けます」
「お願い」
保湿スライムの試作品が開発出来たので、後はこれを製品化するための作業を行っていく。




