現場の意見
その日の夜。研究室で思考機の資料まとめを継続させながら、セレーネは屋敷に戻ってきた。そこで使用人達を集めて、倉庫の整理に関して注意している事を聞いていく。基本的に整理しているのは、メイドという事で聞き取りはメイドを中心に行われる。
セレーネは、メイド達の膝に乗って可愛がられながら話を聞く。
「セレーネ様の【空間倉庫】の棚は特別頑丈ですが、基本的に重い物は下に軽い物を上に置いていますね。仮に棚が崩れた際に重い物の下敷きにならなくなります」
「基本的には同じ分類の物を一箇所に集めるようにしています。どこに置いたかが分かり易いようにしています」
「食材に関しても、食材事に保存方法がありますので、それに沿って保存するようにしています。野菜は野菜、魚は魚、肉は肉という感じで纏めますね」
「掃除はしやすいようにしていますね。重い物は滑り止めを使いつつキャスター付きの台座に乗せたりしています」
「ふ~ん……そうなんだ。ゴーレムでも重い物には気を遣った方が良い?」
ゴーレムが出せる出力は、理論上かなり高い。なので、基本的には重い物でも問題なく持ち上げる事が出来るはずだった。そのためゴーレム一人で扱う時に何か必要な注意はあるかを確認する事にした。
「そうですね。重い物の中には衝撃に弱い物もありますので、扱いには気を付けさせた方が良いと思います。花瓶とかがそうですね」
「なるほど。確かに割られた困るもんね。慎重に運ぶのと重量によっての扱い……物によっての扱いを変えるようにしないといけないかな。他は?」
「う~ん……物を直接置くよりも箱の中に入れる方が纏まるとかですかね。カノンさんがセレーネ様の【空間倉庫】でやっているような感じですね」
セレーネは普段【空間倉庫】から取り出す時に箱から物を探っている事を思い出していた。
「あ~、確かにいっぱい箱があるかも。引き出しとかの方が良かったりするのかな?」
「仕舞うものの大きさが制限されてしまいますから、今の形が一番良いと思いますよ」
「そっか。場所の指定とかを細かくするのは難しそうだから、そこら辺は自己学習型にした方が良いかな。カノンが教えてくれれば覚えるようにすれば大丈夫だろうし。他に欲しいものとかある?」
ついでなので、セレーネは現場の意見を集めて次に作るものの着想を得ようと考えていた。
「洗い物や洗濯をしてくれるゴーレムとかは作れますか? 私達もあかぎれが酷い時は辛くて。セレーネ様が作って下さった保湿薬でもまだ出来てしまうので。カノンさんやマリアさんは、吸血鬼の再生力であかぎれにならないそうなんです。ちょっと羨ましいですね」
「洗い物は分かるけど、洗濯も? 洗濯機があるから大丈夫じゃないの?」
「セレーネ様やフェリシア様の下着は基本的に手洗いです。上質な生地を使っている事もあり、長持ちさせたいので」
「ふ~ん……防水型のゴーレムを作れば良いのかな。そうしたら、お風呂掃除もしてくれるよね……でも、力加減が難しかったりしそう」
「ああ~……下着の洗濯には向かないという事ですね」
「あっ! ゴーレムが駄目ならスライムはどうでしょうか?」
メイドの一人がそう提案して、セレーネだけでは無く他のメイド達も困惑していた。
「スライムって何でも溶かすあのスライム?」
「うん。何でも溶かすなら、汚れだけに制限出来ないのかなって」
「そもそもスライムって生き物でしょ? 無機物が動くゴーレムと違って作るっていうのは難しいんじゃないの?」
メイド達はそんな話をした直後、セレーネに注目する。結局作れるかどうかはセレーネ次第だからだ。
「う~ん……スライムねぇ……作るとしたら錬金術かな。魔術薬の調合で出来るか分からないし。皆のあかぎれを治すのは魔術でも出来るけど、結局予防が出来ないと痛いままだもんね」
セレーネはそう言いながら、膝に座らせて貰っているメイドの手を取って魔術で治していく。あかぎれになった後の対処はこれで良いが、そもそもならないに越した事はない。
「汚れだけを食べさせるとかの選択が出来るかは分からないなぁ。ミーシャちゃんに聞いてみる。溶かす機能を付けられたら、身体を保湿薬にしたり出来るかな」
「どういう事ですか?」
「スライムに手を突っ込むと手の古い角質を食べて手を保湿薬で保護してくれるみたいな」
セレーネがそう言うと、メイド達がキラキラとした目でセレーネを見る。
「それは欲しいかもです!」
「いっそ顔もやりたい!」
「それは窒息するんじゃ……」
「口と鼻だけ避けるようにパック型にすれば良いんじゃない?」
『それだ!』
「いや、まだ出来るか分からないから。でも、スライム型で色々と作れるなら、皆の手もちゃんと保護出来るかもね。洗剤の方を調整するのもありかもしれないけど、結局汚れをしっかりと落とす事が出来るようにしないといけないからね」
セレーネはそう言いながら、一人一人のあかぎれを治していく。
「う~ん……本当に酷いところは酷いね。皆の手が綺麗になるように保湿薬もクリーム型にしようか。調節したら出来るだろうし、保湿力も上がると思うから」
「つまり、クリーム状のスライムですか……」
「それはそれで面白そうだけど、スライムって言えるのかな……?」
「う~ん……微妙ですね」
そんな話をしながら、セレーネはメイド達の意見を纏めていく。
・手洗い並みに丁寧な選択をしてくれるもの
・保湿薬の保湿力の向上
・あかぎれ等の水仕事により生じる手荒れ対策
・スライムのように汚れなどを食べてくれる存在(希望)
スライム型にするかどうかに関しては、これから要検証だが、ちゃんと形になるのならスライム型に拘る必要はない。ミーシャに相談はするが、機能を持つ事が出来るのなら形は普通のものでも良い。
「スライムにしたら形が一定に保たれるのでは?」
膝にセレーネを乗せているメイドがそう言うと、セレーネは即座にスライム型にする事に決めた。形が一定であるという事は、保湿薬が溢れるという事もなく、底が深い入れ物などに入れる必要もなくなる。つまりどこでも使いやすくなるのではと考えたからだった。
「洗い場の横に置きやすいもんね。よし! ミーシャちゃんと相談してくる!」
そう言って飛び出そうとするセレーネに対して、メイドはお腹に手を回して膝の上に固定する。動くに動けない状態になっていた。
「?」
「セレーネ様。もう夜になるお時間ですよ。ここでお出かけしたらカノンさんがどれだけ怒る事か」
「…………むぅ」
「むぅじゃありません。お部屋に戻りましょうね」
セレーネはメイドに手を繋がれて、部屋へと連れて行かれる。セレーネの研究を手伝うために時間を割いていたメイド達は、それぞれの仕事に戻っていった。
今回の事があり、セレーネはこれから現場の意見を時々聞きに行こうと決めた。それが新しいものを作るのに一番良いと考えたからだった。




