ゴーレム作り計画
翌日。ゴーレムに関する研究の許可を貰いに、セレーネは総合研究室に来ていた。
「ナタリア、ちょっと良い?」
「はい。中継基地の件でしたら、まだ進展は」
「ううん。新しい研究」
セレーネがそう言うと、ナタリアは書類から顔を上げてセレーネから紙束を貰う。今回のゴーレムに関する研究の概要を纏めたものだ。
「人工的にゴーレムを生み出す……ですか。制御する箇所を人が作るという事で魔物のゴーレム程の危険はないと。ですが、これは作る人によりますね」
「駄目?」
「いえ。つまり普通の魔術の研究と同じです。結局は使い手次第。多少の規制は必要になるかもしれませんが、研究としては良いと思います。お手伝いゴーレムという点が良いですね。図書館などに配置すれば本を戻す作業が楽になりますし、倉庫内に配置すれば物の整理が進みます。色々な場所で活躍出来そうなものですが、内容を見るに普通の人は作れませんね。情報処理魔術ヘの理解が必要そうですから」
ゴーレムの核は、情報処理魔術が多く使われている。加えて、情報処理魔術は基本的に多重魔術陣として使われる事が多い。多重魔術陣への理解もなければ作るのも一苦労という訳だ。
「大きさは人と同じくらいにで決定ですか?」
「う~ん……もうちょっと大きくても良いけど、建物の出入りとかが必要になったら困るよねって思って」
「なるほど。ゴーレムが出せる出力の調整なども考えた方が安全かもしれませんね」
「制限を掛けないと、危ないって事だよね?」
「はい。後は……」
ナタリアはそう言いつつカノンを見る。ナタリアの視線だけで何を言いたいのか察したカノンは首を横に振る。
「後は、見た目を人に寄せすぎないようにしましょう」
「ん? 何で?」
セレーネは、その必要がある理由が思い付かず首を傾げる。
「ゴーレムが襲われるかもしれません」
「襲われる?」
「はい。例えば女性型のゴーレムにする場合、形を女性に寄せていけばそれだけ欲情する人間が出て来るかもしれないという事です。考えすぎかもしれませんが」
そう言われて、セレーネはカノンを見た。その視線を受けてカノンも頷いて答える。
「可能性はあります。そういったお店であれば有りかもしれませんが」
「なるほど。ゴーレムが誘拐される可能性とかもある?」
「はい。その対策としてゴーレムに撃退機能を設けるとしても、それがまた別の問題となる可能性があります」
ゴーレムに欲情する人間がどのくらいいるか分からない以上、ナタリアもカノンも確実にあるとは言えない。だが、世の中色々な人がいるので、そういう可能性も考えていた。
またその解決策としてゴーレムに変態撃退機能を付けると、その撃退機能で死者が出るかもしれない。力仕事を前提として作るつもりなので、この事故が起きる可能性を完全に否定する事は出来なかった。
「それ専用に作れば良いって事?」
「そうですね。ですが、それはお嬢様がやるお仕事ではありません」
カノンは有無を言わせずにそう言った。セレーネに作らせるような物ではないと判断したためだ。
「う~ん……設計が難しそう……ジェニファーに協力して貰おうかな」
「協力を取り付けられたら報告して下さい。こちらでも色々と手続きがありますので」
「うん。分かった」
「では、ゴーレム作りの研究を認めます。細心の注意を払って行う事。良いですね?」
「うん」
ゴーレム作りの研究が認められたので、セレーネは早速ジェニファーの元に向かった。ジェニファーは、アカデミーで講義を受けていたので、アカデミー内で会うことが出来る。
「セレーネちゃん。どうしたの?」
「ジェニファーに相談があるの」
「私に? 何かの設計?」
「うん」
セレーネが自分を頼りにする時は、設計関係だと思っていたため、ジェニファーはセレーネの用事を一発で当てる事が出来ていた。セレーネの研究という事もあり、いつもの教室に入って内容を伝える事になった。
「どんなものを作るの?」
「ゴーレム」
「え?」
何かしらの魔術道具と予想していたジェニファーだったが、まさかの魔物を作り出すという予想外の事に困惑していた。
「これ読んで」
セレーネは、ナタリアにも見せた概要を渡す。ナタリア程の速読をする事は出来ないので、ジェニファーはゆっくり真剣に読んでいった。
「お手伝いゴーレム……確かに、情報処理魔術があれば複雑な動きも出来そうだから、成立はしそう。人型なのも動きのチェックがやりやすいから良いかもしれないね。う~ん……」
「何か問題ある?」
「問題というよりも……懸念かな? 二足歩行でバランスを安定させられるのかなって」
「バランス……」
「うん。私達だって無意識にバランスを保ちながら生活しているでしょ? 魔物も意識を持っているとしたら、バランスは無意識に取っているかもしれないし、人工的に作るとしたら、その辺りの調整も必要かもしれないよ? ほら、石像とかって割と台座とかで安定させているところがあるでしょ?」
「ああ……」
ここはセレーネも盲点だった。自分が普通に生活しているという事もあり、二足歩行でも問題ないと考えていた。
だが、それは生物だから出来る事。無機物となれば話は別だ。石像なども重心をしっかりと考えて立てるように作っている。ゴーレムにするとなれば、更に深く考える必要がある。
「歩くとなれば重心の移動もあるから、そこも考慮して制御しないといけないかも」
「ふ~ん……なるほど……重心を下に持っていく?」
「う~ん……そうなると横幅とかが想定よりも大きくなるかも。倉庫整理に向かなくなるかもだから、魔術的に制御する方法を見つけるか、そういう機構を作る必要があるかな」
「機構……う~ん……魔術的にも作っておいた方が安全そう……簡単に作れるかもと思ったけど、そこまで甘くはないって事か……重心……まずは重力を感じるようにするところからかな。そこから重心を計算して……うん。よし!」
「それじゃあ、いくつか案を作ったら持ってくるね」
「うん。ありがとう。じゃあ、総合研究室の研究棟にいるようにしておくね」
ジェニファーの協力も取り付けたので、ゴーレム作りが始まる。重要なのは、重心などを計算して身体の動きを制御する魔術陣を作る事だった。




