隙間時間に新しい研究
翌週。中継基地の建設待ちとなったセレーネは、眷属化の研究を細々とやりながら、新しい研究の内容を決めようとして、ベッドに座らせたスピカに抱きついていた。
ここ最近は聖女としての仕事と結界関係の仕事で大分空けている期間があったため、セレーネが甘えているという状態だった。
「セレーネ様の甘え癖は直りませんね」
「スピカ好きだもん。一番はフェリシアだよ」
「分かっているわよ。それじゃあ、私は魔術研究所に行って来るから」
「うん。いってらっしゃい」
「いってきます」
フェリシアは、スピカに甘えているセレーネの額にキスをしてから、マリアを連れて魔術研究所の方に向かって行った。
「新しい研究どうしよう。眷属化は、進めるのに因子を調べてる最中だし、遠距離連絡用魔術道具は中継基地待ちだし、空間魔術は新しい要素が思い付かないし」
「情報処理魔術の方は如何ですか?」
「う~ん……思考機の改良とか? もっと新しいものってなると思い付かないし……」
「そうですね……魔物のゴーレムを作れないでしょうか?」
「ゴーレム? それって石とか土で出来た身体のやつ?」
「はい」
ゴーレム。無機物の身体を持つ魔物。頭部の核となっている箇所を破壊しなければ倒せない上、基本的に巨体であるために頭部を攻撃しにくいという厄介な相手だった。スピカは、セレーネの情報処理魔術なら人工的に作る事が出来るのではないかと考えた。
「う~ん……出来なくはないけど、確かあれって滅茶苦茶大きいよね?」
授業で得た知識だけしかないので、実際にどのくらいの大きさなのかはセレーネも分かっていなかった。
「魔物としては、かなりの巨体を持っていますが、セレーネ様がお作りになるのであれば調整は可能だと思います」
「そっか。自分で外側を作れるから……戦闘に使うには色々と不便な部分があるから、何かしらの作業を頼むくらいかな。そうなると生産魔術で金属加工とかもしてしっかりとした身体を作らないと身体を動かす命令は何とか作れそうだし、コアは小型化していけば良い。思考機と同等の知能は要らないし。脊椎を制御系にしておえば頭が圧迫される恐れもない。うん。これなら出来るかも。でも何に使う?」
作れそうなイメージは湧いていたが、セレーネはそもそもそれを何に使えば良いのかが思い付かなかった。身の回りの世話はカノンとマリアが居り困らない。屋敷の仕事もメイドと執事とシェフが通ってきているので問題がない。
「【空間倉庫】の整理を頼むのは如何でしょうか? 物の配置を指定しておけば、ある程度整えてくれるのではないでしょうか? カノンも楽になりますよ?」
「むぅ……確かに……」
いつもはカノンが整理している事をゴーレムに任せる事で、カノンが楽を出来るようになるというのは、セレーネにとっても魅力的な話だった。カノンに時間が出来れば、それだけカノンに甘える時間が出来るという事にも繋がるからだった。
「素材選びと魔術陣作り。研究として予算降りるかな?」
「大分高級品になりますが、売る事は出来ると思いますので、ナタリアに相談するのが良いと思います。ですが、その前にある程度形にしておくのが良いでしょう。現実味を帯びさせておけば、予算を引っ張りやすいです」
「ふ~ん……じゃあ、そうする」
セレーネはそう言いながら、胸元を開けさせて肩を出す。そしてスピカの膝に跨がった。
「はい。飲んで。飲める時に飲まないと繋がりを強められないから」
「分かりました」
スピカはそう言って、セレーネを抱きしめながら血を飲む。遠出が多い、テレサ、ルリナ、スピカは、常にセレーネの傍にいる三人よりも繋がりが薄い。なので、こうして飲める時に血を与える事で眷属としての繋がりを強めている。
セレーネは作業に移る前に血を与えておこうと考えて飲ませていた。ある程度飲んだスピカは、傷口を舐めて止血する。それを確認したセレーネは、スピカの背中に手を回してぎゅっと抱きつく。甘えてくるセレーネの頭を撫でながらスピカも抱きしめ返す。
「やっぱり、セレーネ様は甘えん坊ですね」
「うん!」
セレーネはカノンが部屋に入ってくるまでスピカの膝の上で甘えていた。カノンが入って来た後は、カノンに抱きついて頭を撫でて貰ってから机に向かい、ゴーレムに必要なものを考えてメモしていく。
そんなセレーネの背中を見ながら、カノンはスピカの隣に座る。
「研究内容が決まったの?」
「うん。ゴーレム作りだね」
「ゴーレム? それって魔物の?」
「うん。セレーネ様の魔術なら人工的に作れるんじゃないかなってね」
「まぁ、確かに」
カノンもセレーネが開発している魔術を知っているので、ゴーレムを作り出す事が出来るかもしれないと考えた。そのための魔術的な材料は揃っていると言っても過言ではない。後はそれをゴーレム用に調整して繋げるだけだ。その調整が難しいのだが。
「【空間倉庫】の整理係として作ってみるのはどうかって提案したの。カノンが楽を出来るから」
「ああ、なるほど」
セレーネが意欲的になっている理由を察して、カノンは小さく微笑んでいた。
「お嬢様は甘えん坊だから」
「可愛いから甘えられたいけどね」
「まぁね」
カノンはベッドから立ち上がり、スピカにキスをしてから部屋の掃除に移る。セレーネが研究内容に迷っていた事もあり、今日はそこまで物が散らばっていない。テキパキと掃除を終わらせたカノンは、セレーネが書いているメモを覗きこむ。
「ねぇ、カノン。人間の頭って平均どのくらいの大きさ?」
「そうですね……大体ベネットくらいでしょうか。性別や種族にもよりますが、ベネットの頭は平均ぐらいだと思います」
「う~ん……案外小さいよね……完全な人型で考えてたけど、もう少し違う方向に考えるかな……」
「にゃ~にゃにゃ~」
専用ベッドで丸まっていたクロが頭を上げて鳴く。
「自分の頭はどうかと」
スピカにもカノンがクロの言葉を理解出来るという事は話しているので、三人しかいない状態ではクロの言葉を通訳出来る。
「クロは大きすぎるかな」
「にゃ~……」
クロは残念そうにしながら頭を下げる。そんなクロを見たセレーネは自分の膝を軽く叩く。それを見たクロは立ち上がってセレーネの元まで歩き頭を膝に乗せた。
「クロは身体も大きいからね。【空間倉庫】には狭いんだ」
「にゃ~」
「分かったと」
「にゃ~」
「もっと撫でて欲しいそうです」
「仕方ないなぁ」
そう言いながらセレーネは楽しそうに笑い、クロの頭を撫で回す。セレーネに撫でられているクロは嬉しそうな表情をしていた。
(ペットは飼い主に似るかな……)
カノンとスピカは全く同じ事を考えていた。そのくらいに今のクロの姿が普段のセレーネと重なっていたのだった。




