ナタリアに相談
翌日。セレーネとカノンは、総合研究室に来てナタリアに眷属化の研究に関して話していった。
「なるほど。確かに、この情報から考えると眷属にした人を元に戻すには、因子を侵蝕するしかありませんね。それも人族の因子にするためのもの……カノンに使えば獣人の因子すらも食らわれる可能性がありますね」
「だよね。一応、安全に眷属から解放するための方法を模索するつもりだけど、これを元にしないと進められなさそうでさ。これって、このまま進めて良いと思う?」
「個人的な研究なら問題はないかと。それにしても……真祖の研究が進んでいない事が本当に有り難いですね。亜人を毛嫌いしている者からすれば、喉から手が出る程欲しい情報でしょうから」
ナタリアもセレーネ達と同じ考えだった。亜人排斥派が少数派とはいえ、その声は大きく、行動も過激なものがある。セレーネはまだ見た事がない。王都では、そこまで活発に活動していないからだ。その理由は、王都内で活動をすると即座に捕まるからだ。ここら辺の取り締まりは厳しい。
「因子の研究となると、因子を取り出す必要がありますね」
「うん。そのための魔術道具を作ろうかなって思ってるけど、あまり優先して研究はしないから、少しずつ進める感じになるかな。ナタリアも何か思い付いたら教えてくれる?」
「はい」
「良かった。ユリーナも内緒でお願いね」
セレーネは、この場にいないユリーナにもそう言う。聞き耳を立てているユリーナの元にもしっかりと届く。
「それにしてもこれに関しては少々悩ましい点がありますね」
「今言った事じゃなくて?」
セレーネ的には亜人排斥派の動きが一番悩ましい点だと考えているので、他に悩ましいところがあると言うナタリアに首を傾げる。
「はい。悩ましい点は、これを陛下に報告するべきかという事です。実際に出来るかはともかく、真祖の因子を研究していった場合、そうした凶悪なものが出来上がる。この可能性を報告しておく事は、この先の規制などに繋がります」
「でも、陛下に報告したら、加速的に広がる気がする」
「陛下は箝口令を敷くでしょうが、王城の中にも亜人嫌いがいる可能性はありますので可能性はあります。その点が悩ましいところです」
今後の規制などを考えれば、ガンドルフに伝えておくのが一番なのだが、それをした場合王城内に広がる可能性があるためにナタリアも報告はするべきかを悩んでいた。
「陛下を呼ぶのは?」
「陛下を呼び出せるのですか?」
「やろうと思えば?」
セレーネが真面目にそう言うとナタリアは苦笑いしてしまう。そして、セレーネなら本当にそういう事をしそうという事が冗談ではないのだなと思わされた。
そして、その一分後ナタリアの部屋にガンドルフがやって来た。
「おう! やっているか!?」
ガンドルフが来た事でナタリアはセレーネを見る。セレーネは即座に首を横に振る。噂をすれば影が差す。セレーネが呼ぶ前にガンドルフはセレーネ達の様子を見に来ていた。側近が疲れたような表情をしているところから、セレーネはまた抜け出して来たのだと分かる。
「丁度良かったです。陛下だけにお話があります」
「ふむ。お前はしばらく別室に居てくれ」
「はっ」
側近は言われた通りに部屋を出て行く。それを確認したセレーネは、ガンドルフに例の話をしていく。興味深げに聞いていたガンドルフだったが、最後の方になると表情が消えていった。
「なるほどな……」
「実際に出来るかは分かりませんが、真祖の因子の特性を付与出来るのであれば可能性はあります。セレーネ様の研究が進めばそこら辺もはっきりとしてきますが」
「これの可能性がある事自体が、亜人排斥派を活気付かせるプロパガンダになるという事だな。俺にだけ伝えた理由が分かった。規制法の制定の準備だけ進めておこう。セレーネは、この研究を続けるのだな?」
「はい。誤って眷属にした時に取り返しが付くようにしたいので」
「ふむ。セレーネとナタリアのみ研究をする事を認める。しかし、これを世に放出する事は許さぬ。それで良いな?」
「はい。ありがとうございます」
「ふむ。総合研究室がどの程度稼働しているのか視察しに来たつもりだったが、このような話になるとはな」
「亜人排斥派って、今は活発に活動しているんですか?」
セレーネの質問に、ガンドルフは少し考える。
「そうだな……王都での活動は徹底的に取り締まっている。ここでは影響が強すぎるからな。他の街になれば、その領主から聞かなければ分からない。報告書を見る限りでは、そこまで活発には活動していないな。そもそも亜人はこの世界の至る所にいる。ここにいる四人中三人は亜人だ。そんな亜人を排斥するという事自体が無理筋だろう。加えて言うのなら、亜人だから何かが危ないという話もない。そこら辺の規制はあるからな。強いて言えば、吸血鬼族による吸血くらいだが、ここら辺は親しい者達との吸血で解決しているからな」
「他には何か問題はあるんですか?」
「そうだな……吸精族による被害は減少方向にあるからな。犯罪数で言えば、人族によるものが多い。これは人族が多いからというのがある」
「つまり、そのデータ自体はあまり役に立たないと?」
「使いようによるな。取り敢えず、亜人=危険という式は余り成り立たない。犯罪をされた時に獣人族であれば身体能力が恐ろしいというところだろうな。だが人族でも恐ろしいのは変わらん。
亜人排斥派の主張は、人族とは異なる化物を排除しろ。奴等は自分達と異なる存在を恐れているに過ぎん。だが、普通に暮らしていれば、亜人が特別危険な存在とは感じないだろう。国の中枢にも亜人はいる。そのくらいには、亜人を差別しようとは考えていない。とにかくお前達が暮らしにくいような国にはしない。少なくとも俺の代ではな」
ガンドルフはそう言ってセレーネの頭を少し乱暴に撫でる。
「さて、俺は城に戻る。その研究は慎重に続けるようにな」
「はい。分かりました」
本当に様子を見に来ただけのガンドルフは、そのまま去って行った。
「一応陛下にだけ伝えた形ですけど、大丈夫ですよね?」
「はい。誰かが聞き耳を立てて……ユリーナを除いて、立てていませんので問題はないかと。陛下も不用意に広める事の危険度は理解されていますので」
「じゃあ、私は遠距離連絡用魔術道具の研究に戻るね。話を聞いてくれてありがとう」
「いえ、この程度でしたら、いつでもご相談下さい」
セレーネはナタリアに手を振ってカノンと一緒に研究室に戻っていった。二人を見送ったナタリアは背もたれに寄り掛かる。
「ふぅ……中々に恐ろしい事を考える……これまで考えられてこなかったのは、真祖の少なさと眷属にする事に躊躇いを持つ人が少なかったからかな……出来る限り協力しないと」
セレーネが思い付いた事の危険性を理解しているナタリアは、そう決意して自分の研究に戻っていった。




