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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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危ない気付き

 翌日。セレーネは思考機に任せていた分析結果の確認を行う。約一ヶ月分析を続けさせたので、かなり細かく情報が整理されていた。それを紙に転写して部屋のベッドに寝転がりながら読んでいた。


「う~ん……完全に人族の部分だけが吸血鬼になってるで良いのかな。カノンとルリナは、獣人としての部分はちゃんと残っているから、本当に人族の部分を吸血鬼に変えるって事みたい」

「それで逆は可能なのかしら?」


 傍にいたフェリシアが確認すると、セレーネは難しい表情になる。


「どうだろう……変わった部分は分かったけど、これを元に戻せるかと言われるとなんとも言えない」

「まぁ、普通はそうよね。どういう変化かも分かる感じなのかしら?」

「吸血鬼の因子が入り込んで乗っ取るみたいな感じ。これで人の部分が残っていれば吸血鬼の因子を排除する何かを思い付けば良いんだけど。この状態だとこの情報をそのものが消えそう」


 セレーネが危惧しているのは、因子の排除をした場合、因子が入り込んで変質した人部分の情報全てを消し去ってしまうのではないのかという事だ。


「人の因子を注入する事は出来ないのかしら?」

「吸血鬼の因子は、人の因子に入り込んで変える事が出来るけど、人の因子にその機能はなさそう」

「でも、亜人と子を成す時、基本的に人の状態で生まれてくるわよね?」

「うん。遺伝子的には人族の方が強いのかもね。ただ眷属化に関しては関係ないよ。だって、あれで必要なのは牙を埋めて魔力を流す事だから」

「じゃあ、吸血鬼の因子を送り出しているのは、魔力という事?」

「多分ね。牙を通して魔力を流す事で因子が入り込む。もう少し簡単に考えれば、身体の一部を相手の中に入れた状態で魔力を流すになるのかな?」

「つまりやろうと思えば、手を相手に突き刺して魔力を流す事で眷属化出来るという事?」

「う~ん……それだと指を咥えて貰った状態でも成り立つ事になりそう?」

「まぁ、そうね」

「じゃあ、牙が鍵かな。ちょっと指咥えて」

「はい」


 セレーネが【水球】で軽く洗った指をフェリシアに向けて出すと、フェリシアはベッドまでやって来て躊躇いもなく咥えた。セレーネは、そのまま魔力を流すが、フェリシアは何も感じていなかった。


「どう?」

「魔力が出ているのは分かるけれど、何かを変わった事を感じるという事はないわね」

「う~ん……ちょっと舐めてみて」


 フェリシアは再びセレーネの指を咥えて中で舐める。それと同時にセレーネは魔力を流すのだが、それでもフェリシアの中で何かが変わる感覚などは一切なかった。


「どう?」

「魔力が出ているだけね」

「むぅ……やっぱり牙だね。ここはある程度確定と考えて良さそう」


 セレーネは手早くメモをする。


「フェリシアの血液の中にはもう人族の要素はないから、人族の因子の実験は無理かな。そもそも因子だけを取り出す事は出来るのかな? 魔術的に考える必要がありそう」

「そうね」

「まだ一歩も踏み出す事が出来てないよ」


 セレーネは、むくれながらフェリシアに抱きついていく。フェリシアはセレーネの頭を撫でていく。


「一歩は踏み出せていると思うわよ。そこから進む事は出来ていないけれど」

「むぅ……」

「牙を通す事で魔力に因子を与えて、身体全体の人の因子を侵蝕するというのが真祖の眷属化でしょう?」

「うん。そうなるね」

「人の因子に似たような効果を与える事が出来ないかが鍵ね」

「そうなると、カノンやルリナやナタリアも人族になれるって事?」

「そうね。理論上で言えば、吸血鬼だけじゃなくて、他の種族の因子も人族に変えるかもしれないわね」


 口にした二人は顔を見合わせる。その表情は研究を楽しんでいた数秒前とは打って変わり強張っていた。


「それってあまり良くないよね?」

「そうね。亜人排斥派にとっては、この上なく良い情報となるわ。何せ亜人を完全に排除出来るのだからね」


 セレーネは眷属化を解除する事が出来れば良いと考えていた。だが、今出た考えを実現するとすれば、亜人そのものがいなくなる。それを実現出来るだけのものがある。これはあくまで考えに過ぎない。それが実現出来るかは別だ。

 だが、そのような考えがあるという事自体が出回るのも問題だ。実現出来るかもしれないという事はそれだけで亜人排斥派などを活気付かせる事になってしまう。

 それは亜人であるセレーネ達にとっては歓迎したくないものであった。


「う~ん……この研究は封印かな……理論だけは纏めて【空間倉庫】に放り込んでおこう」

「そうね。ナタリアさんに相談するのも良いと思うわ」

「あぁ、ナタリアも亜人だしね。結局眷属化を解除するのは、出来るかもしれないけど危険過ぎるかぁ……」


 そうしてフェリシア胸に顔を埋めるセレーネの元にカノンがやって来る。カノンが来ている事に気付いたセレーネは、フェリシアに抱きついたままカノンを手招きする。


「カノン。来て来て」


 セレーネに呼ばれたカノンが近づいた後、セレーネはカノンに今の話を伝える。


「なるほど……確かに、それは歓迎したくないお話ですね」

「そうだよね。まだ考えとしてあるだけだけど、因子の操作が可能と分かったら実行させられる可能性は高いと思う」

「ですが、これは真祖の因子を研究する事が出来るというのが前提です。研究は発表出来ませんが、研究をする事自体に問題はないかと。幸いな事に、私達の周りにいる研究者に人族が少ないという事ですね。ナタリアもユリーナも亜人ですので、この事を広く伝えようとは思わないでしょう。陛下にも秘密裏に研究するのが良いかと」

「うん。内容は【空間倉庫】に仕舞っておけば良いよね?」

「はい。出来れば【空間倉庫】に倉庫を入れて仕舞いましょう。そこまで厳重にする意味があります」

「そっか。分かった」


 思わぬ事に気付かされて研究を諦める選択をするべきかと悩んだセレーネだったが、全てを秘密裏に進めて眷属化を解除する方法を確立する事にした。そして、その研究結果は決して外には出さない。下手すれば、亜人そのものを危険に晒す事になるかもしれないからだ。

 これらは、亜人で信頼出来る者のみに共有する。その中にはナタリアとユリーナが含まれている。例えラングリドやミレーユであっても伝える事は出来ない。そんな研究だった。

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