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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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総合研究室での研究

 翌週。セレーネは総合研究室の研究棟に来ていた。カノンも登録されているので、セレーネが扉を閉じてしまっても出入り出来る。


「ユリーナ、おはよう」

「おはようございます。セレーネ様。本日はナタリアも来ていますよ」

「うん。ナタリアと話したい事があって来たんだ。検査用魔術道具は使えてる?」

「はい。特に大きな問題はありません」


 総合研究室の研究棟は、全体が魔術道具のようになっており、魔動列車にも採用されている破損具合を確認する検査用の魔術道具を設置している。これにより研究棟全体の破損具合を確認出来るというものだった。

 セレーネが提案しナタリアが採用した事によって処理を施されている。それの管理をするのは、ユリーナの仕事だった。


「私の耳も他の事に集中させる事が出来るので、結構有り難いです。これでセレーネ様が爆発させても分かりますからね」

「そこまで危険な実験の予定はないかな。魔術薬の実験の時はあり得そうだけど」

「その時は言って下さいね」

「うん。じゃあ、後でね」


 セレーネはユリーナに手を振ってナタリアがいる最上階に向かって行く。最上階までは階段を使う。引き籠もりがちになる研究者達に運動をさせる事が目的だった。クロと運動しているセレーネにとっては苦痛でも何でもなかった。


「ナタリア来たよ」

「セレーネ様。本日は何かお話があるだとか」

「うん。これなんだけど意見頂戴。詰まっちゃって」


 セレーネはナタリアに新型遠距離連絡用魔術道具に関する案を丁寧に纏めた紙束を渡す。


「なるほど。音の送信ですか。同期術式では、結局どちらでも音が出るという問題がありますからね。なるほど……魔力を使った音の送信……効果を発揮させずに属性を乗せてぶつかった先で振動させる……これ自体は出来るのですね?」

「うん。こんな感じ」


 ミュゼルにも見せた振動魔術を魔力に乗せて魔力のまま放ち着弾した場所で振動する様を見せる。近くの机を使っているので、やはり出て来る音は汚い。


「鳴らすものも選ばなければいけませんね。なるほど。これが問題の一つ障害物ですね」

「うん。魔力を予め設定すれば避けられるけど、それって障害物がそこにある前提の話でしょ? 設置型なら良いけど、持ち運びを想定してるから」

「……厳しいですね。障害物を避けるように設定するとなると、何を障害物とするかを選択しなければいけませんね」

「設定出来る?」

「やろうと思えばというところです。下手に設定すれば、魔術道具に届かないという問題と結局屋内では使用出来ない問題があります。壁も障害物ですからね」

「あぁ~……やっぱり壁をすり抜けるのが一番良いけど、属性を乗せたら難しいよね?」

「そうですね。これは受信側で誘導するというものも必要になるでしょう。それを考えると、専用の魔術を開発する必要がありますね。まずは理論から詰めましょう」

「うん」


 セレーネとナタリアはナタリアの部屋から下の研究室に移動する。そこには大量の黒板が置かれている。そこで書き込みをしながら話し合っていく。


「結局は、送受信が出来ないといけません。一方的な報告になってしまうので」

「うん。分けて作ったら面倒くさいもんね」

「はい。作るとして多重魔術陣が基本になりそうですね。特に送受信を司る部分は二つを一つとして扱いたいです。識別には識別術式を採用しましょう」

「うん」

「この識別術式を利用した送信先の選択は、道具側で出来ると魔術的な負担は減りますね」

「じゃあ、道具の方で選択出来るような識別にする必要があるって事? 番号とか?」

「そうですね……数字の組み合わせが一番良いかもしれません。数が増えても対応出来るので。問題は、前の連絡用魔術道具でもありましたが」

「それを覚える事が難しい事」


 すぐに問題を言い当てたセレーネに、ナタリアは頷く。


「これを登録するために【記憶媒体】を中心に組み立てるのが良いかもしれません。こちらは、セレーネ様にお任せしても良いでしょうか?」

「うん。情報処理魔術なら私の方が慣れてるから」

「問題は道具の設計ですね。数字を押した時に電気信号が出るようにして、その信号から数字を識別する機構……加えて【投影結界】による数字などの投影……この投影は科学で解決出来ると助かりますね。科学研究所を巻き込みますか?」

「手伝ってくれるかな?」

「このような面白そうな事を手伝いたくないというのは研究者としてあり得ないかと。セレーネ様さえ良ければ共同研究で申請し進めていきますが」

「お願い。個人規模じゃ無理そうだから」


 本来であれば個人で作ろうと思っていた内容だが、それを不可能に感じてナタリアに相談しに来たのだ。これを作る事が出来るのであれば、他の研究所を巻き込むという事に抵抗はなかった。


「はい。では、申請しておきます。上手くすれば魔術を使わずにという事も可能かもしれませんね」

「ふ~ん……でも、今は魔術有りで研究だよね?」

「勿論です。こちらで指定する内容を詰めましょう」

「うん。音声を拾う機構は?」

「ある程度はあちらに頼むのが良いかもしれませんね。こちらで用意するものは、音の送受信と識別術式とその記録というところでしょうか」

「なるべく小型が良いな。持ち運びを前提に考える形で注文しよう」

「酷な注文をしますね……最終的なものはそうするようにしましょう」


 科学研究所と国に申請するための情報を纏めていく。

 大事なのは、これの開発のために科学研究所の協力が不可欠であるという事を強調する事だ。魔術道具作りでは、工学も含んでいる科学研究所に協力申請する事は珍しい事ではない。なので、特に大きな問題がない限りは協力する事は出来る。

 ただし魔術研究所だけで出来ると判断されてしまえばおしまいという点は変わらないので、強調は必要になる。

 国への申請に関しては、共同でなくてもある程度構想が固まれば提出しなければならない。それは研究所内での研究内容を国が把握しておかなければならないからだ。今回はセレーネ個人の手から研究所主導に変わるので、どのみち提出が必要になる。

 共同研究となれば二つの研究所の人員が割かれる事になるので、しっかりと申請が必要だった。その辺りを心得ているナタリアが進めてくれるので特に問題なく申請は受理された。セレーネの研究はナタリアも巻き込んで進んでいく事になる。

 そして、セレーネの総合研究室における最初の仕事となっていった。

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