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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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多少の行き詰まり

 翌週。助言教室を続けながらセレーネは、実験室の机に大の字になっていた。セレーネの屋敷に遊びに来たミュゼルは、その姿を見てぽかんとしている。連れてきた使用人はカノンにより別室に案内された。ミュゼルが望んだからだ。

 大の字になっていたセレーネは、首を横に向けてミュゼルに気付く。


「あれ? ミュゼル。研究で行き詰まったの? 私も~」


 行き詰まり方が自分と違うので、ミュゼルは唖然としていた。


「そ、そんな感じで思い付くの……?」

「う~ん……別に思い付かないかな。何も思い付かなくて、絶望しているところだから」

「そうなんだ……で、でも、机に寝るのは……良くないよ……?」

「むぅ……カノンみたいな事言うね。ミュゼルが行き詰まった部分は?」

「あ、ううん。今は特にないよ。セレーネちゃんに会いにきただけだから……」

「そっか。じゃあ、これ読んで」


 セレーネは紙束をミュゼルに渡してソファまで引っ張る。そして、そこに座らせてミュゼルの膝に頭を乗せる。


「私は寝る」

「え、えぇ~!?」

「読み終わったら呼んで」


 セレーネはそう言って、本当にミュゼルの膝枕で寝息を立て始める。ミュゼルは戸惑いながらも寝ているセレーネの頭を撫でながら、セレーネから受け取った紙束を見る。そして、そこにある情報量に驚いていた。丁寧に整えられている訳では無いので、その理解にミュゼルは少し時間が掛かった。


(音声を伝える連絡用魔術道具の構想かぁ……空気振動で伝える方法は、途中で妨害されるから無しなんだ。確かに途中に建物があったら、振動が消されそうだし。だから、何か物質的な阻害を受けづらい方法を模索している。

 一つは電気の信号を送る。でも、送る方法が分からない。有線なら銅線繋いで送る方法がある。これが実験済みだけど、信号の音声への変換方法を考えないといけない。ある程度出来てはいるけど、有線だから駄目なんだ。そういえばお父様がセレーネちゃんから新しいアイデアを貰って精査中って言ってたっけ。

 二つ目は、魔力を送る。魔力自体を有線のようにする。二つの魔術道具から魔力を出して繋げる事で声を届ける。でも、肝心の方法が分からないから絶望していたって感じなのかな。確かに、魔力で繋ぐという方法は良い感じがする。例え障害物があっても問題なさそうだし。魔力を繋ぐ……)


 ミュゼルは紙束を置いて、自分の人差し指同士を近づけて魔力を繋ぐ。そこから少しずつ間の距離を伸ばしていき、魔力を繋げたまま維持していく。しかり三十センチも話すと途切れがちになり始めた。


「集中力がいる……これを魔術道具で再現するのは難しそう。でも、魔力って離れても存在させられるから、魔術道具同士に特別な繋がりを持たせて、音を乗せた魔力を送るのでも良い気がする……」

「その特別な繋がりが難しいんだよ……」


 欠伸をしながらセレーネが目を開けて、ミュゼルを見る。


「同期術式は特別な繋がりにならないから、本当に特定の何かが必要になる。そのための魔術陣を考えたけど、まだ構築出来てないし。そもそも魔力に音を乗せる方法が難しい。振動魔術で効果を発動させずに属性を付与した状態を維持して送る必要があるの。属性を付与した魔力をそのまま維持する事がどれだけ難しい事か。実践してみるとこんな感じ」


 セレーネは振動魔術の属性を込めて魔力を飛ばす。それが机にぶつかると机が振動して気持ちの悪い声でミュゼルを呼んだ。


「机の振動だとあんな声になる。つまり、ちゃんと人の声として振動させる必要がある。それは鉱石から選べばどうにかなると思う。問題は今見た現象」

「え? う~ん……あっ……障害物にぶつかった瞬間効果が現れた……?」

「大正解。障害物のある場所では使えないの。だから、そこを解決させたい」

「なるほど……あれ? さっき音を乗せるのが難しいって言っていなかった?」


 難しいというわりに簡単にやっていたように見えたミュゼルは困惑していた。


「まぁ、出来るようになれば簡単だよね。こんな事ばかり上達して肝心の部分が完成していないんだけどね。技術よりもひらめきが欲しいんだけどね」


 据わった目でそう言うセレーネに、ミュゼルは苦笑いしか出来なかった。ミュゼルでは、独学で今の技術を身に付けようとしても月単位掛かるだろう。下手すれば年単位になってもおかしくない。


(私は、こういう技術力を持つ事が出来ているのが凄いと思うけど。セレーネちゃんからしたら、技術はいずれ身につくからひらめきの方が重要なのかな。寿命がない種族ならではの考え方なのかも)


 ミュゼルは、セレーネとの種族的違いを感じていた。セレーネ的には完全に無意識な事だが、実際技術は時間を掛ければ身につくという感覚は持っている。その体現者がリーリアとミーシャとシローナという形で傍に居るという事も大きかった。


「む、向きで言えば、指向性を持たせるとかでどうにかなるかもしれないよ……?」

「向きはね。指向性は、私も考えた。その方法もある程度考える事も出来たから。カノン」


 セレーネが呼び掛けると、少し時間を置いてカノンが実験室に入ってきた。そして、床などに散らばった紙束を回収していき、その中からセレーネが考えた指向性魔術道具の設計図をミュゼルに渡す。


「あ、ありがとう。これが指向性を持たせるための魔術道具?」

「うん。ある程度の窪みのある素材で逆方向を塞ぐ事である程度の指向性を持たせる事が出来ると思う」

「じ、じゃあ、問題は本当に魔術道具同士を繋げる方法と障害物を避ける方法……?」

「そうだね……音を届ける方法には滅茶苦茶改良の余地があるから、そこもだけど。そこから先に進めなくて机で寝てた」

「そうなんだ……でも、机で寝るのは駄目だよ……? お、お勉強するところだから……」

「は~い。よし! 気分転換のために遊ぼうか。クロ」


 セレーネが呼び掛けると、大きな足音を立ててクロが実験室に入ってくる。初めて大黒猫を見たミュゼルは、表情が固まっていた。


「クロ。遊ぶよ」

「にゃ~」


 セレーネの頭が膝に乗っている事でミュゼルは動く事が出来ずにクロの顔がどアップになった。セレーネの身体にクロが頭を乗せるので、ミュゼルは完全に固まっていた。セレーネはクロを撫でる。


「ミュゼルも撫でたら。可愛いよ」

「あ、う、うん……えっと……」

「にゃ~」


 クロはミュゼルに顔を擦り着ける。最初は緊張していたミュゼルだったが、少しずつ慣れていきゆっくりクロを撫でる。


「よし! カノン、ミュゼルに汚れても良い服を貸してあげて。私も着替えてくる。クロは、少し待ってね」

「にゃ~」


 そこからミュゼルの使用人にも見守られながら、ミュゼルは全力疾走する事になった。運動が苦手なミュゼルにとっては、かなり辛いことだったが、セレーネ達がいる事により終始楽しそうに笑っていた。その姿は、使用人達に密か涙を流させるような姿だった。

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