セレーネの新しい研究
翌週。セレーネは【空間倉庫】の中で分析機や最適化機等の改良を行っていた。常に持ち歩くために【空間倉庫】に部屋を追加して設置していた。その分魔力の消費量が微増した。大幅に増えなかった理由は、魔術陣への理解が深まった事による魔術陣の最適化が進んだからだった。
記録出来る情報が増えている。さらに【思考演算】を積んだ思考機を取り付けている。無限に思考を続けるようになっているので、放っておいても魔術の分析を続けるようになっている。
「新しい魔術を作り出すようにしたいけど、そこまでの思考は無理かな……思考の記録は……特に問題はない。思考速度を上昇させるとなると、処理出来る情報量を増やす必要があるけど……そうなると追加のコアを設置する必要がありそうかな。コア同士の干渉を考えると、少し離した方が良いとして……後は設計機を作るかな。設計図の案を出してくれるだけで、色々な参考に出来るし」
セレーネはそう考えながら、追加で新しい【記録媒体】を積む箱を用意していく。記録出来る情報を追加しておく事で、記録したり参照したりする事が出来る情報を増やしていく事が出来る。
次いで、新しいコアを設置する場所を他にも作っていき、処理出来る情報量を増やしていく準備を進めていく。分析機と思考機の増産を行う事が、処理出来る情報量を増やす事に繋がる。
最後に設計機の設置場所を決めてから、全てをメモしていく。これを元にして必要なものの製造に入る。だが、その前にセレーネにはやるべき事があった。
「必要なのはこれくらいかな。眷属化の分析結果出して」
こちらにも【音響分析】を取り入れているので、音声で認識して起動するようになっている。【投影結界】に思考機が分析させた結果が表示される。
「う~ん……圧倒的に情報不足かな。皆の血液の分析を出して」
随分前にフェリシア、カノン、マリア、スピカ、マリア、ルリナ、リーシア、ミーシャ、ナタリア、ミレーユ、ラングリド、ライルから採血をして、血液内の情報を分析して貰った結果を表示させる。常に分析していたので、細かい情報までしっかりと表示された。
「フェリシアが貧血気味……まぁ、半年以上前の話だから、今はどうか分からないから置いておいて。お母様、お父様、お兄様、ナタリアと共通する情報を排除。これで人に共通する部分が消える。カノンとルリナだけで共通する情報は獣人族のものかな。こっちも排除。後残るのは、個人で持つ情報と吸血鬼で共通する情報。後は、ナタリアのエルフの情報かな。ナタリアと共通する情報はもうないから、皆がエルフに該当するものを持っていないのは分かる。個人の情報もある程度は排除して良いけど、取り敢えず残しておこう。
吸血鬼で共通する情報をピックアップ。この情報を分析に回して。通常の人間や獣人の身体のどの情報が変化したものかの分析を最優先」
思考機が分析機を制御して、分析を始める。それを見た後、セレーネは【空間倉庫】から出る。
「カノン。実験室に籠もるね」
「はい」
カノンに伝えてからセレーネは実験室に向かって必要な部品を揃えていく。この作業も慣れたもので、セレーネはテキパキと部品を揃えて組み立てていった。最低限の組み立てを終えたところで、【空間倉庫】に戻って設置作業に移る。
設計機を設置して思考機や分析機と繋げる。そして、新たなに作り上げたコアを設置して処理する情報量と処理速度を向上させる。
「全体確認」
全てが問題なく繋がった旨が【投影結界】に表示される。
「取り敢えずこれで良しかな。分析をし続けて貰うとして、遠距離連絡用魔術道具の改良を進めるかな。音声をしっかりと届けられるようにしたいし」
「それは良いですが、そろそろ夕食のお時間です」
「カノン。見て見て増やしてみた」
「はい。制御は出来ているのですか?」
「うん。制御するためのコアも増やしたから」
「なるほど。では、手を洗って食事にしましょう」
「うん」
セレーネはカノンと手を繋いで洗面所に向かい手を洗ってから食堂で夕食を摂る。今日はフェリシアが総合研究室の方に泊まり込みになるという話なので、カノンと二人での食事となった。
「現在は眷属化の研究を?」
「うん。本だけじゃ無理があるから、分析機で血液の検査をして貰ってる。最初の分析に時間が掛かったけど、詳細に分析出来たから、後は共通部分を調べて人から変化した箇所を分析中。こっちも時間を掛けて細かく分析して欲しいから、今は連絡用魔術道具の研究に集中するかな。お姉様とかスピカと連絡を取れるようにしたいし」
「そうですね」
王都から出る仕事が多いテレサ、ルリナ、スピカとの連絡手段は、基本的に手紙だけだ。各所の魔動列車整備場に置かれた連絡魔術道具を私的に使用するのは厳しいので、私的に使用しやすいように小型化したものを開発するべく、セレーネは設計から見直そうと考えていた。
「小型化するとして、どのくらいの大きさが一番良いかな? やっぱり手で持てるくらい?」
「理想で言えばそうなりますが、現状出来るのでしょうか?」
「う~ん……無理。音声を伝えるのに同期以外の方法が必要になるから。一々自分の声が返ってきたら邪魔でしかないし。ここら辺の確立からかな。手掛かりがない研究は楽しいから好き。適当に音に関する論文探さないと。明日は買い物に行って良い?」
「はい」
「やった」
現状離れた場所に音を送るという方法は有線による振動の伝達しか存在しない。新型魔動列車に取り付けてあるものも有線の管による振動の伝達だ。
テレサ達が王都に出る事を考えれば、有線である事は好ましくない。王都から管を持っていかなければならないというのは邪魔でしかないからだ。
「線で繋ぐだけなら、簡単に出来そうだから王都内での連絡手段にどうかって陛下に案を提出したけど、上手くいってるのかな?」
「便りがないのであれば問題なく進められていると思われます。お嬢様が主導したくないと仰ったので、極力関わらないようにしているのかもしれませんね」
「ふ~ん……まぁ、そもそもあれも問題だらけだから、そこを詰めないといけないんだよね」
「盗み聞きですね」
「うん」
有線で繋ぐという方法だが、結局振動を伝えている事に変わりはないので、その振動を掴めば何を話しているのかは伝わってしまう。その危険性は、セレーネも案の中に書いていた。現在、ガンドルフ達はその部分を解決して各所での連絡に使えるように出来ないかと話し合いを続けている。その中にはセレーネに開発を任せるという声も出ているが、全てをセレーネに頼む事自体が、技術者の技術力低下に繋がるとしてガンドルフとルージュ公爵家当主リンドの考えだった。
「だから、本当は【投影結界】を使った連絡手段が一番安全なんだけど、あれはあれで数が増えると管理が大変だしね。現状は新型輸送用魔動列車の進行状況を共有するために使っちゃってるから、尚のこと混乱は減らしたいし。やる事はいっぱいだね」
「一つずつ解決していきましょう。一気にやればセレーネ様もパンクしてしまいますから」
「うん。そうだね」
セレーネは、遠距離連絡用魔術道具の改良と小型化などに向けて動き出す。




