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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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魔術陣転写機試作

 それから三週間。空き時間にカノンによる講義を受けたミュゼルは、魔術道具の設計に関する知識を手に入れていた。その知識を使って、ミュゼルは少しずつ設計図を作っていった。セレーネも少しずつ助言を出していき、試作品を作るところまで来た。

 今日は、そのために研究室を借りて作業を始める。作業と言ってもやるのは組み立て作業だ。部品の製造はセレーネがやっていた。


「ぶ、部品まで作って貰って……ごめんね……」

「ううん。私も作りたかったし。それじゃあ、楽しい組み立て作業だよ。ちゃんと汚れて良い服にしたよね?」

「うん……」


 そう言うミュゼルは、かなり良い服を着ていた。カノンの常識では、普通に高級品だ。それはセレーネも同じだが。


「はい。これが工具ね。一応作ったのは部品だけだから、組み立てながら魔術道具にしていくよ」

「う、うん……」


 ミュゼルは慣れない作業に苦戦していたが、セレーネとカノンがサポートに入っていき組み立てていく。


「はい。これが本体ね。ここに魔術陣を刻んで」

「う、うん……そ、そういえば、セレーネちゃんの魔術道具は、魔術結晶が主体になっているのが多いよね? これはそうしないの……?」

「うん。私が作る魔術道具は、多くの魔力を必要とするから魔術結晶と魔力結晶と外部から魔力を吸収する機構に、エネルギーの循環で成り立たせてるの。これにその必要はないから」

「そうなんだ……」


 そんな話をしながらミュゼルは新調に魔術陣を刻んでいく。その作業を横目で見ながら、セレーネは他の部分を組み立てていく。


「やっぱりミュゼルの作業は丁寧だね。細かいところ以外、私は転写で済ませちゃうし」

「そ、そうかな……私は転写で済ませられる方が凄いと思うけど……」

「フェリシアとかもそうだよ。よし。次はこっちね」

「う、うん……」


 そうして三時間掛けて魔術陣転写機の試作品が出来上がった。試作品という事もあり、その大きさは、頑張れば両手で抱えられる程度のものだった。


「よし。魔力の通りに問題はなし。上手く出来たね」

「う、うん……」

「じゃあ、上手く使えるか試験しようか。カノン」

「はい。記録します」

「ミュゼル」

「わ、私がするの……?」

「当たり前でしょ。ミュゼルが作ってるんだから」

「う、うん……が、頑張る……」


 ミュゼルは、耐水紙を魔術陣転写機に通して、【水球】の魔術陣を転写させる。転写する際には、自分で魔術陣を魔術陣転写機に登録する必要がある。この辺りは、情報処理魔術で制御している。

 登録した魔術陣を魔術陣転写機で耐水紙に転写する。転写する時間は、大体十秒程。これは【水球】が単純な魔術陣だからだ。複雑になれば、更に時間が掛かるものと考えられる。


「ど、どうかな……?」


 耐水紙を取り出したセレーネは、その魔術陣を確認する。


「う~ん……転写自体は上手くいってるけど……何だかなぁ……」

「少しぼやけてる?」


 セレーネとミュゼルの認識は同じだった。魔術陣が少しぼやけたような印象を受ける。そこから現状では失敗という事になる。だが、ここで改善すれば良い。


「うん。紙の中心を捉え続けるっていうのが難しいのかもしれない。認識はしていてもどこかが中心なのかを常に更新し続けるからかな。認識を転写機の中心に設定して紙をそこに固定しようか」

「う、うん……」

「じゃあ、改良してね」

「えっ!?」

「何でもかんでも私がやったら意味ないでしょ? これも経験だよ。失敗から学んで成功に繋げないと」

「う、うん……」


 ミュゼルは、セレーネの案を採用して、その案に沿った造りに改良していく。慣れない作業になるので、ミュゼルは少し手こずりながら進めている。


(紙の認識が甘い。【空間探知】を狭い範囲に使用する……? いや、それだとコストが大きくなる。【空間探知】は魔術結晶が必須になるし。もう少し大型にする前提なら、マシかもしれないけど……う~ん……効率は良くならないけど、この状態で進めるのが一番かな)


 セレーネは他の改善案も考えたが、それだと製造コストが跳ね上がる事に加えて、セレーネが製造する事が前提のものになってしまうので却下する事にしていた。

 その間に、ミュゼルは少し涙目になりながら頭を悩ませていた。


(ミュゼルは突発的な行動が苦手っぽいなぁ。こういう時にパッと思いつけると良いんだけど)


 セレーネはそんな事を思いながら、ミュゼルに軽く助言を出して道を教える。そうして形にしていきながら、改良して転写すると、今度は綺麗に転写する事が出来た。

 綺麗に出来た事もあり、ミュゼルは輝かんばかりの笑顔になる。


「や、やったよ!」

「うん。後は、これを転写して……」


 セレーネは、転写した魔術陣からさらに転写して魔術を発動させる。


「うん。魔力の通りも上々。成功だね」

「う、うん!!」

「じゃあ、ここまでの情報を纏めて論文にしようか。カノン」

「はい」


 セレーネは、カノンから受け取ったメモ用紙を受け取ってミュゼルに渡す。そこにはしっかりと失敗した事とその理由まで書かれていた。


「参考にして」

「う、うん。ありがとう」


 完成した試作品を作った際に問題になった事なども含めて、ミュゼルは論文にしていく。内容は、魔術陣転写機と魔術書の二つだ。論文にするに当たって、ミュゼルはセレーネの教室に通う。基本的には、自分が書いたものを読んで貰い、何か間違っているような箇所がないかの確認をして貰う。

 ミュゼルが真面目に取り組んでいた事もあり、手直しするべきところは少なく、足りないと思われる要項などの指摘が主となった。

 その中でセレーネは魔術陣転写機の改良案を纏めていた。魔術書の大量生産に繋がる事になるが、これを実行するかは魔術書への評価が分かってからだ。

 次いで、多重魔術陣を魔術書に記載出来ないかという実験も行っていた。だが、多重魔術陣という三次元的な魔術陣を紙という二次元に閉じ込めるというのは不可能という結論になった。

 ページを複数枚重ねる事で実現するという方法も考えられたが、少しでもズレれば発動する事はない事に加えて、魔術陣同士の繋ぎを作る事が難しいという事になり諦められた。


 この二つの論文は、どちらも最大まで評価されて、どちらも二単位を与えられた。これはセレーネとの共同研究という事になっているので、最大でも二単位しか貰えない。

 さらにミュゼル個人の研究もセレーネの助言を受けて進めた結果、三単位を修得する事が出来ていた。こちらは、九割九分をミュゼルが単独で研究していたために一人でのものと認識された。

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