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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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ミュゼルと実験

 翌日。講義の空き時間にミュゼルは、セレーネの元に来ていた。魔術書作りのコツを聞くためだった。ユイはセレーネから頼まれている教育に関する論文を書いているところなので、ここにはいない。


「ユイがいなくて大丈夫? フェリシアも仕事に行ってるし」

「だ、だ、だ、大丈夫!! と、とと、友達だもん!」


 カノンが一緒にいるが、基本的にカノンは干渉してこないので、実質二人きりと言える。そのため、ミュゼルはかなり緊張していた。


(まぁ、丁度良いか)


 ミュゼルと仲良くなるのに丁度良い機会だと考えて、セレーネは自分の研究をしながらミュゼルに助言していく。


「つまり、魔術陣の転写に必要なのは、繊細な魔力操作になるわけ」

「少しでも、魔術陣が歪んだら魔術の発動に影響するから……だよね?」


 研究の話になった途端に、ミュゼルの緊張も少し解れていた。


「正解。そもそも無詠唱をするのも大前提魔力操作が一定以上出来ないと駄目だから。これもある意味では無詠唱と同じって考えて良いと思う」

「く、空中に転写するコツは……? わ、私、あまり上手く出来なくて……」


 そう言ってミュゼルが【水球】の魔術陣を紙から空中に転写する。その魔術陣は少しだけ歪になっていた。セレーネは、その魔術陣を隅々まで見る。


「魔力の操作が下手」

「うっ……」


 真っ向から否定されたミュゼルは一気に涙目になる。こうまで真っ直ぐ否定される事自体あまり経験のない事というのもある。


「魔力のムラが凄いよ。ここは多いのに、こっちは少ないから。全体に均一。これが絶対。これも魔術陣の歪みの一種だよ。ミュゼルは、均一に広げるのが苦手みたいだね。【水球】を使ってみて」

「え、う、うん……」


 ミュゼルは言われた通りに【水球】を作り出す。それを一目見たセレーネはすぐに指を向けて指摘する。


「ほら。【水球】の表面に揺らぎがあるのが分かる?」

「えっと……うん」


 ミュゼルの【水球】には、全体に広がるように波紋が広がっていた。本当に小さな波紋だが、揺らぎである事に間違いはない。

 セレーネは、自分の【水球】を出す。一切の揺らぎはなく真球の状態になっている【水球】だ。


「これを無意識で維持出来るようになると良いかな。最初は常に意識して真球を維持。維持出来るようになったら、数を増やしていく。そうしていけば自然と魔力の操作が上手くなるよ」

「なるほど……」

「まぁ、それはミュゼルの技術力向上として、研究は別だよ。ミュゼルの論文とか読んでみたけど、転写が苦手なら自分で描くのもありだよ。ミュゼルは魔術陣とかを綺麗描けるみたいだから」


 セレーネはミュゼルの高等部時代の論文に目を通して、ミュゼルの武器に気付いた。それは正確で綺麗な図形を描ける事。それが転写ではない事は即座に分かった。


「でも……どうやって?」

「はい、これ」


 セレーネはそう言ってミュゼルに一本のペンを渡す。見た目は普通のペンなので、受け取ったミュゼルも少し戸惑っていた。


「ペン……?」

「ただのペンじゃないよ。これは魔力で描くペン。作るのに魔力圧縮が必要だけど、まぁ、私は自由に作れるからあげる。ある程度改良してあるから。ミュゼルでも使えると思うよ」

「い、良いの?」

「良いよ。私専用のはあるし。小さな魔術道具を作る時に線を引くとかでも使えるから。空中にも書けるけど、戦闘では使えないから。こっちはコンパス型ね」


 セレーネは様々な種類の魔力補充型ペンを出してミュゼルに渡す。もしかしたらと考えて、念のために昨日作っていたのだ。


「まぁ、これでひとまずは良いとして、結局転写が上手く出来なかったら意味ないから練習はしておいた方が良いよ」

「う、うん! そ、それとこの魔術書なんだけど、紙は特殊にしないでも大丈夫かな……?」

「紙を特殊に?」

「う、うん。これの利点は魔術陣を覚えなくて良い事だけど、雨の日とかに使ったら、ふやけちゃうでしょ?」

「ああ……なるほどね……耐水紙って高いっけ?」

「通常の紙に比べればいくらか」


 カノンに教えてもらったセレーネは少し考え込む。


「う~ん……この手のものは安価である方が良いよね……載せる魔術によって値段も変わりそうだし。ただの魔術事典じゃなくて、実戦に利用する魔術事典だから」

「そ、素材費を抑えるって事?」

「うん。国家事業じゃないから、国からお金が出る訳でもないしね。いずれは、どこかしらの企業に渡すとして、製造コストは抑えないと渡す事すら出来ないから。ちゃんと利益を出せるようにしないと……って、ミュゼルはあまり関係ないか」

「う、ううん。いつ出るか分からないから……しゅ、収入はあった方が良いと……思う」

「ふ~ん……なら、素材費を抑えようね。魔術的処理は干渉しかねないから、魔術薬で耐水性を高めるかな」

「お嬢様。魔術薬は通常高額です」

「……そうだった」


 リーシアによる指導があり、ある程度の魔術薬であれば自作出来るようになっているセレーネは、通常の魔術薬の値段を失念していた。


「私が素材を出すか……面倒くさい。そうなると、魔術薬を作れる人材が必要かな。リーシアちゃんに紹介……は無理か。リーシアちゃんも同じだし。そうなると、企業から探すのが一番になるかな。いや、そもそも魔術薬を浸した状態で魔術陣が転写出来るのかを調べないといけないか。もう教室離れて良いよね?」

「はい。お時間は過ぎています」

「ミュゼルは? 講義ある?」

「う、ううん……午後までないよ」

「なら、実験室借りて実験しようか。カノン」

「はい」


 カノンが申請しに向かっている間に、セレーネは必要な材料の在庫を確認する。


「そ、そんなにすぐに材料が分かるの?」

「まぁ、ある程度はね。そういう授業を受けてたから」


 セレーネ達は、カノンが申請して取ってきた実験室に移動して、耐水性を高める魔術薬を調合する。そうして調合した魔術薬に紙を浸す。魔術薬を吸い取った紙を乾燥させて魔術陣を転写する。

 そして、その転写した魔術陣を利用して魔術陣を空中に転写し魔術を発動させる。


「発動自体を阻害するような事はなし、ただし、魔力の使用量が増えた。魔術薬が干渉しているって感じかな。干渉しないように調整をするか、純粋に耐水紙を使うか。耐水性のテストをしよう。カノン、耐水紙ってあったっけ?」

「【空間倉庫】に」

「お願い」


 カノンに耐水紙を取ってきて貰い、それを水に浸ける。そんなセレーネの実験を見ていたミュゼルは一つ疑問が浮かんだ。


「……これも魔術研究?」

「うん。結局魔術研究と言っても魔術だけを研究する事ばかりじゃないんだよ。魔動列車もそうだけど、魔術道具は工学と合わせたりするし。純粋に魔術だけを探求していたら、あまり触れないかもね。でも、こういうのも楽しくない?」

「……楽しい」

「でしょ。魔術の研究をするからって、魔術だけを知っていれば良い訳じゃないよ。それだけだと視野が狭まるからね。言っても、私も視野は狭いけどね。魔動列車の時には設計で役に立てなかったし。魔術道具の種類によっては、私も設計出来るんだけどね」

「せ、専門性が高いとセレーネちゃんも厳しいんだね」

「まぁね」


 一時間程して水から引き上げると、通常の耐水紙はふやけてしまい、魔術薬によって作り出した耐水紙の方は染みこんでいなかった。


「魔術薬の方が染みこみにくいね」

「い、一時間も水の中にいる事あるかな……?」

「水中で戦う事になったらね。戦闘に使うなら、色々な状況は想定しておかないと。いざって時に使えなかったら意味ないよ」

「そ、そうだね……!」


 昼が過ぎ、ミュゼルが講義に行っている間もセレーネは実験を続けて最適解を探し続けた。

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