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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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研究のアイデア

 ユイの説教が十分くらいで終わり、ようやくセレーネはミュゼルと対面で座るところまで来た。ミュゼルは相変わらず視線を合わせようとしないが。ただセレーネはそんな事を気にしない。シフォンも似たようなものだったからだ。ここからは自分に慣れさせれば良いだけだ。


「ミュゼルは、何の研究をするの?」

「えっと……属性……かな?」

「属性全体って事?」

「う、うん……全部の属性に共通する術式を纏めているの。繋げ方は違っても共通する形はあるから」

「高等部の頃からそこを中心に研究していらしたのよ。共通項の論文を読んでいたでしょう? そこの研究室よ」

「ああ、あれね。結構面白いけど、割と無駄の多い魔術陣だったなぁ」

「む、無駄って……?」


 ミュゼルが食いついたので、セレーネは【空間倉庫】を開いて、その論文を取り出そうとしてどこにあるのか分からなくなった。


「カノン」

「はい」


 カノンが【空間倉庫】の中に入り、論文を持ってくる。整理をカノンに任せているので、即座に見つけるのが難しいのだ。


「ありがとう。例えば、ここの共通術式は、この形よりもこっちの方が簡単になる」

「予備魔力線は……?」

「無詠唱のための予備線なんていらないよ。その形を覚えれば良い。寧ろ、無詠唱を使うのに邪魔。予備線を含めて覚えていたら、無駄に予備線も描かないといけないでしょ? これが出来ないなら、そもそも無詠唱を使うべきじゃない」


 予備魔力線は、仮に一部の魔力線などを描き忘れても魔術が発動するようにするためのものだ。不発を避けるためのものだが、その分魔術陣が複雑になるので、セレーネは要らないと判断している。


「……で、でも、詠唱でも描くよ?」

「そこだよね。私が詠唱を使わない理由は、魔術陣を覚えられるからっていうのもあるけど、普通に無駄が多い。形を描く詠唱は、決まった形しか描けない。自由度が狭すぎるんだよ。無詠唱なら咄嗟に魔術陣を変えられる。詠唱するにしても結局覚えるのだから、魔術陣を覚える方が良いと思わない?」

「……で、でも……形を覚えるのが苦手な人は?」

「言葉を覚えるのが得意でって事なら、詠唱で良いと思うよ。あらゆる詠唱を覚えれば不測の事態に対処するための選択肢も多くなるし。でも、どっちも覚えられないって言うのなら、魔術師は向いてないかな。研究員としている事しか出来ないと思う。まぁ、それで良いと思うけどね」

「それでも……魔術師になりたい人は?」


 ミュゼルは初めてセレーネの目を真っ直ぐ見た。その目に込められた想いをセレーネは理解出来ない。まだミュゼルとの付き合いは短すぎる。相手を理解するには、まだ時間が必要だ。だから、セレーネに出来る事はミュゼルが望む言葉を言うのではなく、自分の考えを正確に伝える事だけだった。


「頑張るしかないんじゃない? 本当に目指しているのならね。後は……いっそ魔術陣を載せた本を持ち歩くとか」

「見ながら戦うの?」

「ううん。空中に転写すれば良いよ。転写だけを鍛えれば、それで魔術は使えるようになる。そのために本に載せる魔術陣は魔力を込めて刻む必要があるかな。後は自分の魔力量と相談して載せる魔術を選定するとか。出来ると思う?」


 セレーネは、カノンに確認する。


「転写により魔術陣を空中に描くという事なら出来なくはないでしょう。試しにやってみては?」

「だね」


 セレーネは白紙の紙を取り出して、【水球】の魔術陣を転写する。そして、それをユイに渡した。


「実践するのは私なのね」

「私だと無意識に自分で描いちゃうかもだし」


 ユイは、セレーネの描いた【水球】の魔術陣に手を翳す。そして、それを空中に魔力で転写した。その際、【水球】を自分で発動するよりも少しだけ多くの魔力を消費して【水球】が発動する。


「少し魔力の消費量が多くなるわ」

「そっか」

「それって、普段ユイが使う魔力量よりも多くなっているのかしら?」

「そうね」

「ちょっと貸してくれるかしら?」


 ユイはフェリシアに紙を渡す。そして、フェリシアも同じく【水球】を発動させた。


「……一定じゃないわね」

「使い手によって消費する魔力が違うって事?」

「というよりも転写への慣れかしらね。セレーネは良く転写を使うでしょう?」

「うん。紙に描いた方が分かり易くなるし、論文も転写した方が正確な魔術陣を載せられるから」

「私も同じように転写を使っている。でも、ユイはそうじゃないわよね?」

「そうね。どちらかというと文字で纏める事が多いから」

「そういう事。私はユイよりも少ない魔力量で発動出来たわ。恐らく転写する時に無意識に魔力を多く込めているのよ。転写に魔力割きすぎているという状態ね」

「なるほどね。なら、転写に慣れれば問題ない。後は、魔術陣を最適化して消費魔力を減らす事が重要になるかな。どう? これならミュゼルへの答えになると思うけど」


 最低限の確認が出来たところでセレーネはミュゼルに微笑み掛ける。それに対して、ミュゼルは唖然としていた。セレーネに出来ない事はないのかと少し意地悪で訊いた事が十分以上の答えで返ってきたからだ。


「ミュゼル?」

「あ、ううん。良いと思う……ねぇ! その研究、私にやらせて! セレーネちゃんとの共同研究なら私も参加出来るでしょ?」


 ミュゼルは、真っ直ぐセレーネの目を見て頼んだ。その目は本気だった。本気でその研究に取り組みたいというミュゼルの意思をセレーネは感じ取っていた。それは同じ研究者故のものか。


「良いよ。特に優先して研究するつもりもなかったし」

「え?」

「主導はミュゼルね。何か聞きたい事があったら、屋敷かここの教室か総合研究室に来てくれれば良いから」

「え?」

「魔術書って事になるのかな。これの研究で独自の魔術陣とか生まれると面白いね。そうだ。魔術陣に関するアイデアなら、私の論文とかもあるからあげるよ。ミュゼルの良い刺激になると思う。カノン」

「はい」


 再びカノンが【空間倉庫】の中に入って、セレーネが魔術陣について書いた論文のメモを持ってくる。


「ちょっと読みにくいかもだけど」

「あ、ううん。ありがと……」

「どういたしまして。でも、属性研究と同時並行になるけど大丈夫?」

「う、うん。頑張る」


 そういうミュゼルに、セレーネは楽しそうに笑う。研究の事になった途端、ミュゼルは積極的に話すようになった。それでミュゼルがどういう人間なのかセレーネは理解した。誰かのために研究したいと思う人間。それなら研究に協力して距離を縮めれば良い。

 セレーネは、ミュゼルと協力する気満々だった。だが、あくまでサポートとして。

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