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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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ミュゼルとの顔合わせ

 翌週。ユイから手紙を受け取ったセレーネは、アカデミーに来ていた。ガンドルフの娘である第四王女ミュゼルとの対面だ。一緒にフェリシア、カノン、マリアも来ている。

 態々アカデミーで会うのは、アカデミー生となったミュゼルに合わせるためだ。ミュゼルは、講義の免除を受けていないので、講義を受ける必要がある。

 いつもの教室で待っていると、ユイが教室に入ってくる。


「お待たせ。アカデミーで会うなんて変な感じね」

「まぁ、私達がいないからね。ところで、ユイ一人なの?」

「え?」


 そう言われてユイは背後を振り返る。そこにあるのは、教室の扉のみで肝心のミュゼルの姿がなかった。即座にミュゼルの居場所を察したユイは教室を出てミュゼルの背中を押しながら教室に戻ってきた。


「顔合わせに来たのに隠れてどうするのですか!」

「だ、だって……」


 綺麗なストレートの金髪を背中まで伸ばしたミュゼルは顔を両手で隠しながらユイに押されている。


(何かシフォンみたい)


 おどおどとした性格からシフォンを思い出したセレーネは、自分からミュゼルに近づく。


「こんにちは。私はセレーネ・クリムソン。よろしくね」


 セレーネはニコニコと笑いながら自己紹介する。最初から畏まられずに、慣れ慣れしく接された事がないミュゼルは、戸惑いながら指の隙間からセレーネを見ていた。

 セレーネの後ろからフェリシアも歩いてくる。


「私はフェリシア・ウルトラマリンです。セレーネは、少し距離感がズレているところがありますが、純粋にミュゼル殿下と仲良くなりたいだけですので、あまり警戒しないであげてください」


 フェリシアは頭を下げつつそう言う。そんなフェリシアを見てから、ミュゼルは改めてセレーネを見る。セレーネは変わらずにニコニコとミュゼルを見ていた。


「殿下。殿下も自己紹介をしなくてはいけませんよ」

「あ、う、うん……」


 ユイからそう言われたミュゼルはようやく両手を顔から離した。だが、二人と視線を合わせるという事はなく、俯きつつ二人の身体や近くの黒板などに視線を移しながら自己紹介を始める。


「ミュ、ミュゼル・コロル・クローム……」

「じゃあ、ミュゼルだね」

「え……?」


 唐突に呼び捨てにされたので、ミュゼルは困惑していく。

 本来であれば、ユイやフェリシアが苦言を呈するのだが、今回はミュゼルに対等な友人を作るというガンドルフの目的があるので、二人とも何も言わない。だが、いきなりぐいぐい行っているなとは思っていた。


「ミュゼルは魔術研究科に入ったんだよね? 私と同じだね」

「あ、あなたに比べたら……私なんてゴミ同然……」

「何が?」


 セレーネは真っ直ぐミュゼルの顔を見ながらそう言う。その行動は完全にミュゼルが苦手とする人間の行動だった。そのためミュゼルは激しく目を泳がせる。


「だ、だって……あなたは優秀……わ、私は落ちこぼれだから……」

「じゃあ、私より下の人は全員ゴミって事? 仮にアカデミーの単位数が優秀さを表すとしたら、私よりも単位数が少ない人がほとんどだからアカデミー生は全員ゴミって事になるね」


 セレーネは笑顔でそう言う。笑顔でいる理由はミュゼルが怖がらないようにだ。逆にそれが相手の恐怖心を煽っている事には全く気付いていなかった。なので、ユイやフェリシアは、内心苦笑いしている。

 ミュゼルの理論から言えば、セレーネの言うとおりになる。なので、ここでは頷くのが正しいのだが、ミュゼルは自分以外の人達をそう思った事はない。そして、今の理論で言えば、自分の傍に居てくれたユイすらも否定するような事になる。

 それをミュゼルは良しとしなかった。


「ち、違うよ! そんなこと無い!」

「じゃあ、ミュゼルも違うね」

「え?」


 セレーネよりも優秀じゃない人間だから、自分はゴミと言ったミュゼルは、それを自分から否定してしまった。他の人間が違うのなら当然ミュゼルも違う。セレーネはそう言っているのだ。

 態々他人を見下すような発言をした理由は、これをミュゼルから引き出すためだった。ミュゼルが自己否定するのならセレーネはミュゼルを肯定する。本当にゴミと呼ぶべき人間を知っているセレーネは、ミュゼルが自分をゴミと言う事を許せなかった。


「ゴミって言うのは、ミュゼルのような人を指すものじゃないよ。自業自得な事ばかりしているのに、逆恨みで他人の命を奪うような奴等の事だよ。ミュゼルはそんな事をしたことないでしょ?」

「う、うん……」


 ミュゼルは戸惑っていたが、セレーネの隣にいるフェリシアが一瞬覗かせた悲痛そうな表情を見て、ガンドルフから聞いた二人の過去を思い出していた。


(そうだ。この二人は、爵位を剥奪された家の人間に……だから……)


 セレーネの真意を察したミュゼルは、口を真一文字に引き結んでから両手を前に組んでまっすぐセレーネを見た。そして、即座に滝のような汗を流しながら、ユイの後ろに隠れた。


「殿下……」

「ご、ごめんね……発言は撤回するね。でも、わ、私はセレーネちゃんの友達には……」

「友達に相応しいかどうかは私が判断する事だから、ミュゼルが決める事じゃないよ。そもそもミュゼルと友達になりたくないなら、陛下にお願いされた時に断ってるから」

「えっ……お父様に……そんな事を?」

「え? 言えるよ。第一、陛下からどれだけ無茶なお願いされてると思ってるの? 空間転移装置の置き直しって、割と面倒くさいんだよ?」

「そういえば……お父様も言っていたかも……国王相手にあそこまで堂々と嫌そうな表情をするのはセレーネちゃんだけだって……」

「とにかく! 私はミュゼルと友達になりに来たんだから、相応しいとか考えない! 私の友達として堂々としてて! 良い!?」

「は、はい!!」


 ミュゼルの言葉で、絶対にユイが何か言うと思ったセレーネは即座に話題を変えてミュゼルに語気を強めて言った。それに対して、ミュゼルは姿勢を正して返事をする。

 セレーネは誤魔化せたかと思いながらユイを見たが、ユイはにっこりと笑っていたので完全に誤魔化せていない事が確定した。


「セレーネ?」

「だって……」


 ユイが軽く説教しようとした瞬間、教室の扉が勢いよく開く。


「おっ! ちゃんと顔合わせが出ているな!」

「陛下!?」


 セレーネとミュゼルを除いた全員が膝を突く。セレーネは呆れたような表情をしていた。


「全員顔を上げろ。今日はミュゼルの様子を見に来ただけだからな。どうだ、ミュゼル。友人にはなれそうか?」

「う、うん……」

「そうか! それは良かったな!」


 ガンドルフはミュゼルの頭を少し乱暴に撫でる。そしてセレーネの方を見て、一瞬たじろいだ。


「いや、言いたい事は分かる」

「お父様が怒鳴り込んできても知りませんよ?」

「いや、ラングリドは別の仕事をしているから大丈夫なはずだ」

「側近の方はため息をついていますが?」

「まぁ、仕事の途中だったのは間違いないからな」

「全くもう……ミュゼルとは、仲良くなれそうですから心配しないでください。早くお仕事に戻らないと、お父様に言いつけますよ」

「くっ……俺の扱いが段々雑になっていないか?」

「して欲しくなかったら、ちゃんと王の仕事をやってください」


 セレーネの言葉に傍にいた側近が激しく頷く。味方がいないことを察したガンドルフはミュゼルの頭を撫でてから、肩を落として教室を去って行く。側近はセレーネに深々とお辞儀をしてから後を追っていった。


「セレーネ?」

「はっ!?」


 ついいつも通り接してしまったセレーネは、当然ユイから貴族としての説教を受ける事となった。

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