ひとまずの暇
それから一年が経った。アカデミー三年生の日々も基本的に輸送網の構築に費やす事になった。空間転移装置の追加設置と魔術陣更新という作業も重なったため、セレーネは自分の研究を進める時間がなかった。
だが、この一年で新型輸送用魔動列車の組み立ては全て完了し、いくつかの輸送網は完成している。その結果、地方の物流が充実していた。生鮮食品や手に入りにくかった材料が格段に手に入りやすくなったので、街でも活気が付いて行った。
ただし、これにより暴利を貪っていた悪徳運送業者が炙り出された。通常の運送業者は、この運送の一部に入って貰う形になっている。そもそもこの輸送網は様々な商会に連絡が通っており、そこからいつも利用している運送業者に連絡が回り、人員募集の知らせを聞いて申請するという事になっていた。
だが、この悪徳運送業者は、商会に所属しておらず特定の顧客を作っているというよりも、わざと物流を乱して困り果てている店などに多額の手数料などを乗せて請求するという方法を取っている。そのため、人員募集の知らせなどを受けておらず横暴だと言って訴えていた。
全て説明しても納得せず、暴動を起こしたので即座に騎士団に捕らえられた。通常の物流も阻害した事が明らかになっており、悪質な行為だとして裁かれる事になった。
そんなこんなで、後は大きな問題さえ起こらなければ、セレーネ達の作業は終わりとなる。レールの作業は他のアカデミー生や学園の生徒にやって貰う事になった。これにより経験を積むという事にしたのだ。その分工期などが遅れる事が予想されたが、既に大幅に工期を短縮しているため良いだろうという事になった。
そうしてようやく空き時間が出来たセレーネは、屋敷の自室でフェリシアに膝枕をして貰っていた。十五歳になったセレーネは、身長もある程度伸びていたがフェリシアは更に成長していた。そういう事もあり、セレーネはフェリシアの身体にくっつく事が多くなった。
「ようやく終わったぁ!」
「まだ終わってはないでしょう? 何か問題があったら行かないといけないのよ。レールの敷設には後五年は掛かると言われているし、まだまだ大変じゃない」
「まぁ、お姉様とナタリアは、まだ作業が続いてるわけだしね。魔術研究所でも人員を割いていくって話だし。もしかしたら、もう少し早く終わるかもね。そういえば、ユイも入学してるんだっけ?」
「もう一年前よ。来月で三年生ね。私達は四年生だけれど。私は魔術研究所の氷属性研究員として所属が決まったけれど、セレーネは?」
氷魔術の論文を多数出していた事もあり、フェリシアは魔術研究所の氷属性研究員として採用されていた。属性研究室が出来ており、それぞれの属性に特化した研究をしていき、更なる魔術の発展と国の繁栄に繋げるという業務内容だ。
「う~ん……色々なところから勧誘は来たけど、陛下が全てを却下して新設する研究室に入るようにってさ」
「初耳ね」
「昨日手紙が来た。名前は総合研究室。魔術とか魔術道具に限らずに色々な研究をして良いらしいよ。一定の成果を出したら、予算が出続けるみたい。室長はナタリアだってさ」
「まぁ、今回の一件で新しい賢者と言われているくらいだから、知名度からしても当然ね。セレーネは賢者の卵と言われているらしいわよ
「ふ~ん……まぁ、どうでもいいや。私はフェリシアと一緒が良かったなぁ」
セレーネは手を伸ばしてフェリシアの頬に触れる。その手をフェリシアは慈しむように取って、自分の頬に軽く押し付ける。
「さすがに、ここではそういう訳にもいかないでしょう。こうして家で一緒に居られるのだからいいじゃない」
「むぅ……結婚出来るのも後二年先だし……早く結婚したいよね」
「そうね。でも、仕方ないでしょう」
フェリシアは、もう片方の手でセレーネの頬を撫でる。撫でられたセレーネは身体をひっくり返すと、フェリシアの身体にのし掛かった。ベッドにフェリシアはベッドに押し倒される。
これはセレーネがよくやる事なのでフェリシアに戸惑いや驚きはない。そうして、セレーネはフェリシアにキスをする。十五歳になって、セレーネ達はキスをする事が多くなっていた。
「セレーネ、そういう事は私が部屋から出たらしてねぇ?」
部屋の掃除をしていたマリアがにっこりと笑いながら言う。二十二歳になったマリアは、二十歳で身体の成長が止まった。身体の発育は良く、身長もそこそこ高くなっている。
「むぅ……」
セレーネは頬を膨らませながらフェリシアに抱きつく。耳が心臓の前に着いているので、フェリシアの心臓の音が聞こえている。
「全く……隙あらばイチャイチャするんだから」
「なるほど……ヤキモチだ!」
「別にヤキモチではないけど。ヤキモチって言ったら、私にもしてくれるの?」
「ん? う~ん……まぁ、良いけど」
「そうなんだ。じゃあ、ヤキモチしたら言うね」
「うん」
そう言いながらセレーネはフェリシアの胸から顔を上げて首にキスをする。
「血?」
「飲みたい」
「はいはい」
フェリシアは身体を起こして胸元を緩くし、セレーネが血を飲みやすいようにする。フェリシアを抱きしめながらセレーネは血を飲んでいく。その間にマリアは手早く掃除を終わらせていった。
そこにカノンがやって来る。二十六歳となったカノンは、特に何も変わっていない。それこそが眷属である証だった。
「お嬢様。ユイ様からお手紙が」
「ふいはあ?」
「セレーネ。血を吸いながら返事しないの」
フェリシアに怒られたセレーネは、吸血をやめて傷口を舐めて止血してから、フェリシアにキスする。唇に血が付いていたので、フェリシアも紅を差したようになっていた。
そして、小走りでカノンの元まで行くと手紙を受け取る。
「何々? お茶会の招待だって。私達が暇になったのをどこかで聞いたのかな?」
「そうかもしれないわね。お返事の手紙を出しましょうか」
「うん」
セレーネはすぐに机に向かっていった。久しぶりに元の日常が戻ってくる。




