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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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視察と移動時間に研究

 二ヶ月後。セレーネはレールや魔動列車の部品作業ではなく、整備工場の視察に赴いていた。同行しているのは、ジェニファー、カノン、ベネットだ。既に結界も張られている。


「これが魔物だけに通用する結界なんだね」

「うん。仕組みは前にも説明した通り。【空間探知】で魔物を判別。その魔物だけを弾くように結界が生じるって感じ。私達は人だから、すり抜けられる。判別は生きている魔物だから素材もすり抜けられるってね。【対魔物結界(たいまものけっかい)】は、魔術道具として利用する事が前提の魔術で、魔術結晶にして使うしかないんだよね。常時展開型だから。範囲も最大がこの整備工場よりも少し大きいくらいだから、街には利用しづらいし、諸々の問題を今後解消する予定らしいよ」

「なるほど。整備工場は割と大きいけど、街はもっと大きいもんね」

「そういう事。この整備工場の少し手前に駅が出来る予定。陛下からの要請で【対魔物結界】は、駅にも付ける事になったから、スピカとフェリシアが頑張ってるしね。おかげで、フェリシアも沢山単位を貰えてるけど。一応国家事業の一環になるみたいだし」

「色々と大がかりになってるねぇ……」

「まぁ、仕方ないよ。国全体に関わる事だもん。それじゃあ、工場の視察をしよう」


 セレーネ達が工場の中に入っていくと現場監督が、即座にセレーネ達の元に来る。


「セレーネ様ですね。こちら、現在の進捗です」

「ありがとう」


 セレーネはジェニファーと一緒に進捗が書かれた報告書を読んでいく。


「ふ~ん……一応予定通りみたいだね」

「ええ。結界のおかげで、作業出来る時間が増えているので」

「ちゃんと休まないと駄目だよ?」

「はい。順番で休んでいるのでご安心下さい。現在八割方が終わっています。セレーネ様の魔術道具の設置をお願いします」

「うん」


 整備工場には、セレーネとナタリアで作った制御型魔術道具を利用した破損確認のシステムを配置する。魔動列車本体からも確認出来るが、整備工場に入ってきた段階で、整備員達が認識出来るようにするためだ。

 ジェニファーが全体的な視察をしている間に、セレーネはカノンに手伝って貰いながら魔術道具の設置をしていく。ただ単に破損状態の確認用魔術道具なので、魔動列車に乗せているものよりも簡単に組み立てられる。


「……うちの工場にも欲しいな」


 現場監督は稼働試験をしているところを見て、そう口にした。


「魔動列車の情報が入ってるから使えるだけで、色々な場所で色々なものに使うとなると一々その情報を取り入れないといけないよ。新しいものを作ってる最中とかはあまり利用出来ないと思うけど」

「なるほど。本当に整備用に特化したものなのですね」

「そういう事。良し。起動試験終わり。一応、【対魔物結界】の方の破損状態も出るようにしておいたから。魔力結晶の交換とかの参考にして」

「ありがとうございます」


 本来であれば、魔動列車のみのものになる予定だったが、【対魔物結界】の管理も人力でやるには割と難しい点があるので、参考までに管理の範囲内に入れる事にしたのだった。

 この間に、ジェニファーが視察を終えて戻ってくる。


「セレーネちゃんが用意したチェックリストは全部合格したよ」

「良かった。全体的な強度もこっちが提供した魔術陣でやってるから大丈夫そうだし、取り敢えず、ここはオッケーかな。この調子でお願いね。問題があったら、王都の開発部に連絡して」

「はい。ありがとうございました」

「ううん。こちらこそ、ありがとう。頑張って」


 セレーネはすれ違う作業員に声を掛けて励ましながら工場を去って行った。


「後何十箇所も回らないといけないんだよね?」

「はい。本日は、このまま魔動列車での移動です。移動先の街で一泊した後に視察です」

「う~ん……途中でお姉様に会えるかな?」

「テレサ様が作業されている場所は、整備工場から少し離れていますので、タイミングが合わない限りは難しいでしょう」

「むぅ……仕方ないか。まぁ、この間だけは自分の研究が出来るから良しとしようかな」


 いつも通り貸し切り車両で次々にメモ書きをしていく。研究内容は遠距離連絡魔術道具だ。眷属化に関する研究も細々と続けている。大きな進展がないので、進展に繋げられる情報を集めている最中だ。


「う~ん……これが良いかな」

「同期魔術?」

「うん。片方が発動したら、もう片方も発動するって魔術。これで声を送ったり書類を送ったり出来るかなって。片方で書類を読み込めば良いってやつ。魔動列車には、風魔術で振動を送る事で声を届けてるけど、それだと近距離でしか扱えないからね」

「問題はこの同期が全体に共有されてしまう事かな。出来れば、それぞれで選べるようにしたい。【座標記録】とかと同じように同調させられる相手を選べれば良いんだけど……その選択をどうやってやれば良いかなって?」

「選択……そっか。空間転移装置だと【座標記録】から選択する感じだけど、これだと座標の問題じゃないから選択のやり方自体が難しいって事だね」

「そういう事。個別に識別出来るものが必要になるけど、あまり変なものだと、数が増えた時に困るから、どういう風に作れば良いんだろうってね」

「個別識別用の魔術陣を作るにしても、いくつ作れば良いのかで色々と変わってくるって事だね。確かに……安易に考えるなら、数字かな」

「うん……魔術陣に数字を付けるのは有りかな。管理が大変だけど。しばらくは個人的に使うだけになるだろうから、あまり気にしなくても良さそうだけど」

「まぁ、その話を聞いたら陛下が導入しようと考えるだろうしね」

「ね。まぁ、まだちゃんと設計出来てるわけじゃないから報告も何もないけどね。よく出掛けるお姉様とか、離れちゃってるフェリシアとかと連絡が取りたいだけだし」

「セレーネちゃんらしいね」


 自分のために作りたい物を作るというだけなので、セレーネは進んで報告しようなどは考えていなかった。これがあれば、各街間での繋がりが強くなるという事と、魔動列車に関しては運休などの連絡が上手く出来るようになるというメリットがある事は、セレーネも考えているので、なるべくなら全体に出せるようにしたいとは考えていた。

 それでも、重要な点である識別が上手く出来なければ意味がない。全体共有用に置いても良いが、それだとセレーネが個人的に使いたい時に干渉する可能性があった。

 なので、考えられる問題を解消してから、論文にして提出しようと考えている。

 セレーネは、久しぶりに個人的な研究が出来るという事で移動時間と宿での時間を楽しく過ごしていった。

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