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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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試験報告

 それから二ヶ月の間、継続走行試験を行っていき、問題点の洗い出しを行っていった。十往復毎に、全体点検をしてすり減っている部品を調べて行くというものである。最初は一往復毎に行っていたが、変化が全く見られなかったため十往復毎になっていた。

 その間にセレーネ達は次々に魔術道具を作っていく。レールの魔術処理や制御型魔術道具の部品、装甲へ【装甲結界】を刻印するなど休む暇はなかった。一つ救いだったのは、テレサが帰ってきた事で人手が増えた事である。

 更に王令によりアカデミーの優等生に経験を積ませるという名目でレールの作業に人員が増えた。最初は苦戦していたが、少しずつ出来るようになっている。それでもセレーネがレール五十本を処理する間に処理出来るのは三本という遅さだった。そもそもセレーネとナタリアが作った魔術陣という事もあるが、アカデミー生達がそういった作業を行う機会が少なかったというのが原因だった。理論畑で成長していたアカデミー生には、この実践は良い経験になっていた。


「セレーネちゃん。昨日の試験結果だよ」

「うん。ありがとう」


 ジェニファーから試験結果を受け取ったセレーネは、その中身に素早く目を通す。


「う~ん……喜ばしい事なんだろうけど、ここまで異常なしだと逆に怖いよね」

「うん。部品も少し擦れている部分があったりするけど、全部想定内どころか、それ以下だからね。セレーネちゃんとナタリアさんが改良してくれた魔術陣が想定以上に強力みたい。【装甲結界】を張った状態での走行でも問題ないし、遠距離から魔術による攻撃を受けてもほぼ問題なし。【空間探知】が空間内の魔術も感知してくれるから、【装甲結界】がすぐに張られるみたいだし」

「基本的に【空間探知】から受ける情報を元に魔術を発動するかどうかを決めてるからね。制御もしっかり出来てるって事だから、これは良い事だね。衝撃試験は?」

「そっちの結果はこっち」


 もう一両作った車両を数人の騎士でハンマーを用いてボコボコに殴るという試験を複数回に渡って行っている。金属の塊を殴り続けるという事もあり、騎士団はかなり疲弊している。セレーネは、丁度良いからという理由で特にベネットに頼んでいた。


「やっぱり人力で殴っても無駄っぽいね。カノンの本気の一撃でも軽く揺れるくらいだったし。大型の魔物になったら、ちょっと心配だけど、ひとまずは大丈夫かな。これは同じ車両で定期的やっておこう」

「うん。私もそう思ってベネットさんを通じて騎士団の方々にお願いしておいた。でも、ベネットさんも凄いよね。他の騎士団の人達は凄く疲れているのに、一時間くらいずっと攻撃を続けられているし」

「カノンが言うには体力馬鹿らしいよ。まぁ、本当に馬鹿と言える程知能が低いわけじゃないから、体力が馬鹿みたいにあるだけみたいだけど」

「あはは……」


 セレーネがベネットに頼んでいる理由もここに詰まっていた。継続的に殴り続けられるというのは、耐久試験においてとても有り難いものだからだ。


「う~ん……後の問題は全部時間かな。十両編成分の部品を作るのに二ヶ月。組み立ては二週間くらいで出来る。レール敷設は時間が掛かる。後は整備工場を建設中。う~ん……本当に十年掛かりそう……」

「そうだね……部品の運び出しもあるからね」


 新型輸送用魔動列車は、最終的にそれぞれの整備工場で組み立てられる。開発部の工場で作るのは、組み立て前の部品だ。

 その整備工場の建設は、まだまだ時間が掛かる。その上、レール敷設。最初の試算通り、十年程掛かりそうな状況だった。これでも素材的な問題は錬金術により、ある程度改善はされている上でだ。


「お姉様が改良してくれたから、【流線結界】の精度も上昇したし、緊急時用の加速装置も出来た。本当にぶっ飛ぶから使いたくないけど」

「本当にね……」


 テレサが帰ってきた際に、魔物から逃げるために速度を爆発的に高める装置が出来た。簡単に言えば、最後尾車両で風の爆発を受けて加速するというものだ。それを使用した結果、あり得ない程の加速を受け、セレーネ達は派手に転倒した。

 そんな状態でも内部の貨物は緩衝材と固定具のおかげで無事だったのを見たセレーネ達は緩衝材や固定具が異常なのか自分達の踏ん張る力がなさ過ぎるのかと悩んだ程だった。


「ある種攻撃だよね」

「まぁ、実際お姉様は攻撃に転用して良いって言ってたしね」

「魔術と言えば、整備工場を守る結界は、完成しそうなの?」

「八割方完成してるよ」


 整備工場は街の外に設置されるため、それを守るための結界を作り出す事になっていた。その担当として、ナタリア、スピカ、フェリシアが選ばれている。そのためセレーネの負担が増しているのだが、セレーネはこうしてジェニファーから受け取った試験結果を読みながら、並行してレールに魔術陣を刻印していた。


(セレーネちゃんのマルチタスクが限界を超えている気がする……)


 同時並行で作業をし過ぎたセレーネは、その能力を大きく向上させていた。それこそ、他のアカデミー生が劣等感を覚える程に。それだけ経験に差が生まれているという事だ。


「よし。報告書は纏めておくよ」

「ううん。今はセレーネちゃんの方が忙しいんだから、私に任せて。これでも大分慣れていたし」

「まぁ、陛下が来ても気絶しなくなったのは進歩だよね」

「まぁ、あんな高頻度で来られたらね……」


 セレーネが報告書を提出する度に確認のために来る事に加えて、時折事前連絡無しに来る事もあったので、さすがのジェニファーも慣れていた。


「そのせいでお父様が激怒してたけどね。仕事しろって。お付きの人も同意見だったから、問答無用で連れ去られていったし。しばらくは来られないんじゃない」

「確かに……」


 国王としての仕事を溜め込んでまで視察に来る事が続き、ラングリドも堪忍袋の緒が切れた。その結果、ガンドルフは執務室に軟禁されていた。セレーネ達の報告書を読む度に、現場に行こうとするが、ラングリドにより止められるという事を繰り返している。


「それじゃあ、報告者はジェニファーに任せるね。私は説明書の製作をしてこなくちゃ。しばらくレールは任せるね」

『は、はい!』


 アカデミー生は、セレーネが侯爵家の人間であるため、年上であっても基本的には丁寧な返事をしている。最初こそ、親のコネで名前だけ載せているのだろうと陰口を叩かれていたのだが、最前線で圧倒的技術力を持って作業をしているのを見て、考えを改めさせられていた。


「カノン。お姉様から連絡は?」

「まだ届いておりません。レール敷設予定地は遠いので、報告が届くのも時間が掛かるものかと」


 テレサは、現在レールを敷設している現場で作業をしている。現場で魔術的な作業が出来る人材を置くことで、作業効率を上昇させる目論見だが、これが上手くいっている。人材がテレサという事も大きく関係しているが。


「そっか。なら、仕方ないかな。こうなると、遠距離で連絡出来る魔術道具を作った方が良さそうだね。時間余るかな?」

「現在の進捗ですと厳しいかと」

「はぁ……なら、頑張らないとね」

「はい」


 セレーネ達の王都での作業は大きく進んでいる。大きな問題も生じていない事から、残りは本当に時間を掛けるだけだった。

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