試験走行
それから二ヶ月。セレーネ達は試験走行の前日まで最終調整を施して、今日試験走行の日を迎えた。作られた魔動列車は六両編成。本来であれば、もう四両追加した十両編成の予定だが、今日は全ての機能が正常に作動するかの試験なので、六両で行われる。
「試験走行用レールの敷設は終わってるなぁ!?」
『はい!!』
ランゲルの確認に開発部の人々が大きな声で返事をする。敷設されたレールは五十キロ程。この敷設には騎士団の見習い達も動員された。見習いには良い筋トレになるからという理由だった。
「最高速度で走ったら十分くらいだよね?」
「ああ。最初から最高速度で走る訳じゃねぇから、もう少し掛かるけどな。乗りてぇ奴は客車に乗れ!」
貨物の出し入れのための人員を運ぶ車両も一両だけ用意されている。そこに開発部の人間達が次々に入っていく。セレーネ、ジェニファー、ナタリア、ランゲル、カノン、ベネットは、先頭車両と最後尾車両に乗り込む。セレーネ、ジェニファー、カノン、ベネットが先頭、ランゲル、ナタリアが最後尾だ。それぞれで制御型魔術道具が機能しているかの確認を行うためだ。
先頭車両に乗り込んだセレーネは、備え付けのマイクに手を伸ばす。これは最後尾と客車に声を届けるものだ。基本的には最後尾との連絡に使われる。
「あ~、聞こえてる?」
『はい。問題なく』
「それじゃあ、出発するね」
セレーネの気の抜けるようないつも通りの合図に、客車でも笑い声が漏れる。そして、セレーネが操作を行い、新型試作魔動列車が走り出す。最初は車輪による移動から始まる。
「問題はありそう?」
「ううん。普通の魔動列車と同じ感じ」
「全体確認」
セレーネが指示を出すと、一面にそれぞれの状態が映し出される。セレーネはそれらに素早く目を通していく。
「問題は無さそう。ナタリアの方は?」
『こちらでも問題ありません』
同じように全体確認で状態を確認していたナタリアから返事が返ってくる。返事の音質などにも問題がない事を確認したセレーネはメモに現状問題が無いことを書き込んでいく。
「それじゃあ、浮遊走行に移るよ」
『はい』
セレーネが操作すると、魔動列車全体が浮かび上がる。セレーネは逐一【投影結界】に映し出される情報を確認しながら速度を上げていく。魔動列車に組み込まれている【流線結界】が発動する。魔動列車を包むように流線型の結界が張られる。
これは、風魔術との複合魔術であり、結界の表面に風が流れていくようになっている。これにより正面から押し寄せる風の抵抗を全て受け流す事が出来る。この結界には物理的な面が一つもなく、風を受け流す事だけに特化した結界である。
「問題なし」
『こちらでも問題はありません』
「それじゃあ、速度を少しずつ上げるね。何かあったら報告して」
『はい』
セレーネも【投影結界】を見つつ、他にも異常がないかを確認し続ける。
「揺れが全くない……」
ジェニファーは、これまでの魔動列車には必ずあった揺れが全く存在しない事を確認する。加えて、自分達がバランスを崩さない事から、車両全体のバランスも問題がないと分かる。
「最高速度到達。車両に破損はないし、【空間探知】も問題なく発動してる。【座標指定】に狂いも生じてない。ジェニファーは何か問題ある?」
「ううん。何もないよ」
ジェニファーは魔術的な部分では無く車両への負担などを確認していたが、どこでも異常は見られなかった。
「何度も調整をしたのが活きていそうだな」
「走行中はね。問題は減速して車輪をレールに降ろす時だよ。【座標指定】に異常は見られないし、レールもしっかりと捉えられているけど、実際に降ろした時の衝撃は、ベネットも体感したでしょ?」
【座標指定】による浮遊とそこからの着地試験は、既に行われている。停止中に行われたそれでも少し気になる揺れが生じていた。少しずつ調整をして問題ないようにはしているが、走行中に降ろすとなると話が変わってくる。
「降ろすよ」
『はい』
セレーネも少し緊張しながら、車両をレールに降ろす。少し蹌踉めくセレーネを素早くカノンが支える。
「問題は!?」
『……ありません。全車両無事にレールに降りました。成功です』
「ふぅ……」
安堵するセレーネの耳に、客車から漏れ出てくる歓声が聞こえた。これらが上手くいった事による喜びだ。
だが、試験しなければならないのはこれだけじゃない。
「次に速度調整とブレーキの作動試験を行うよ。倒れないように捕まっていてね」
主に客車にいる全員に向けてそう言ったセレーネは、緊急ブレーキを意図的に作動させる。前に向かう慣性を受けるセレーネをカノンがしっかりと支える。同様にベネットはジェニファーを支えていた。
カノンに支えられながら、セレーネは【投影結界】に表示される内容に目を通していた。
「運動エネルギーを魔力に変換して補給する循環機構も問題なし。生じているロスは試算通り。私達の運動エネルギーも取り除いて欲しいって事以外は問題なしかな」
『こちらでも問題は確認されません。軟質結界の発動も確認されました。車両を降りて貨物車両の確認をしましょう』
「うん」
完全に停止したところで、貨物車両の確認を行う。客車にいた開発部は、車両全体の状態確認に向かって行く。
貨物車両に入ったセレーネは、固定具の確認も含めて貨物の状態を確かめる。
「緩衝材を詰め込んだ野菜は無事かな。逆に緩衝材がないほうは、箱に叩き付けられて割れてるのがある」
「運ぶ際には緩衝材が必須となりそうですね」
「うん。メモしておいて」
「はい」
カノンにメモを任せたセレーネは貨物車両の内部の確認をしていく。
「今の緊急ブレーキで生じた問題はそれくらいかな。どのくらい駄目になってた?」
「三分の一程」
「さすがに多いね。緩衝材必須は絶対に書いておこう。緩衝材を入れなかった場合の損害は、積み込ませた方の責任になるようにして良いよね?」
「そうですね。そうすれば緩衝材は必ず付けるようになると思います」
「固定してない方の貨物車両も見に行こう」
「はい」
セレーネ達は固定具をわざと付けなかった貨物車両の確認に移る。すると、積み荷の箱が積まれた状態から滅茶苦茶になっている事が確認出来た。
「うわぁ……箱自体は壊れてないけど、慣性で前に吹っ飛んだのがよく分かるね。でも、壁に激突はしてないみたい。軟質結界が問題なく作動しているのは確実。中身は……まぁ、見るまでもなかったかぁ」
中を確認したセレーネは割れている果実を見てそう言った。大体予想通りの状態だ。
「固定具も必須だね。こっちも貨物車両自体に問題はないかな」
「そうですね。中身は三分の二程駄目になっています」
「了解。後はナタリアが確認してくれてるし、ジェニファーが車両全体の確認をしてくれてるはずだから、報告を待とうか」
「はい」
セレーネは貨物車両の入口に腰を掛けてナタリアとジェニファーを待つ。すると、五分程でナタリアがやって来て、確認の結果を紙で渡してくる。セレーネがそれに目を通しているのを確認しながら口頭でも報告する。
「緩衝材の有無と固定具の有無で結果が大幅に変わりますので、どちらも必須にするべきかと」
「うん。こっちも同じ意見。責任は荷物の持ち主側で良いよね?」
「その方が徹底するでしょう」
「中の運動エネルギーも変換出来たりしないかな?」
「中身が常に変わりますので、演算に時間を要するようになるかと」
「だよねぇ……取り敢えずは、これで良しにしよう。車両の方はどうかな」
セレーネがそう言ったのと同時にジェニファー、ランゲル、開発部が集まってくる。
「車両自体に問題はなかったよ。車輪とか車軸とかサスペンションとかも問題なし。衝撃にしっかりと耐えているよ」
「了解。それじゃあ、最後に【装甲結界】の確認をしようか」
セレーネはそう言って遠隔で【装甲結界】を発動させる。セレーネの離れ技にその場の全員が唖然としていたが、セレーネなのだからこれくらいはするかと納得もしていた。
そして、全員で魔動列車を一周回って、【装甲結界】に問題がない事を確認する。
「良し! じゃあ、後は何度も往復して部品の損耗具合の確認だね。これが一番大変だぁ……」
「だな……」
セレーネの嘆きに、ランゲルも同意した。ここからは魔動列車を走らせ続けて、どの部分の損耗が激しくなるか等を検査していく。そこで得られた情報を元に、修正出来ればしていく。完成のゴールはすぐそこまで来ていた。




