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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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【思考演算】

 それから二ヶ月が経った。夏季休暇が始まっても、セレーネ達は変わらずに開発を続ける。そして、セレーネ達の制御機構の試作もようやく終わりを迎えていた。


「ナタリアのおかげで、情報処理魔術が大幅に進化出来たから大分良くなったね」


 そう言うセレーネの前にはこれまでのコアよりも一回り大きなコアがあった。

 コアの中心には、【思考演算(しこうえんざん)】という魔術陣が封じ込められた魔術結晶が存在する。【思考演算】とは、【演算分析】【演算処理】【記録媒体】【魔術高速演算】【最適化演算】【制御術式】【並列演算】【成分分析】【構造分析】【運動分析】【熱量分析】【音響分析】の全てを合わせて作られた思考型魔術。セレーネが組み立てた魔術を分析する分析機や最適化する最適化機のコアと違い、本当に思考を続ける魔術。

 ただし、【思考演算】だけで扱うわけじゃない。これは他の魔術と組み合わせる事で、その真価を発揮する。

 加えて、ナタリアとの研究の末、【記録媒体】の保存出来る記録数が十倍の百まで増加した。これのおかげで分析機などの改良も出来るようになっている。そして、それ以上に積み込む制御型魔術道具が、より高性能なものになる。


「ちょっと予定外の魔術も組み込む事になったけど、先頭車両を大きく設計して貰ったのは正解だったかな」

「はい。ゆとりは無くなりましたが、寧ろこれで良かったと思われます」


 新しく組み込む事になったのは、【空間探知】だ。これにより車両の周囲を常に調べ続ける事で周囲の異常を察知しやすくなる。

 これの管理も【思考演算】が行っており、【投影結界】で状況を常に知らせるような仕組みになっている。更に【思考演算】の【音響分析】によって声による指示出しが出来るようになっている。


「それじゃあ、予定通り明日から積み込みだね」

「はい」


 完成した試作品の設計図と部品を回収して、翌日に開発部の製造工場に向かった。そこではジェニファーもつなぎ服を着て作業をしている。既に開発部の人間に認められているため、ジェニファーは大して緊張もせずに作業が出来ていた。


「あっ、セレーネちゃん」

「ジェニファー久しぶり。車両の開発はどう?」

「順調だよ。今は貨物車両の見直しをしているところ。冷蔵車両と冷凍車両も作らないといけないから、それに合わせた状態にするの」


 魔術的な処置でも冷蔵庫、冷凍庫のようにするが、それ以上に車両そのものを改良する事でより効果的にしようという話だった。


「なるほどね。先頭車両はあれ?」

「うん。今日は魔術道具の積み込みだったっけ?」

「うん。それじゃあ、早速作業に入るね」

「うん。お願い」


 セレーネは、ナタリア、カノンを連れて先頭車両の中に入る。既に操作系の一部が取り付けられているが、セレーネ達の魔術道具を積み込む関係上最低限必要なところで止まっていた。


「良し! じゃあ、始めようか」

「まずは下準備からですね。設計通りに作ってくれているので、そこまで時間は掛からないでしょう」

「うん。カノンは、【空間倉庫】から部品を取り出しておいて」

「はい」


 セレーネとナタリアは、手分けをして魔力線を引いていき、制御型魔術道具を設置するための下準備をしていく。その間に、カノンは最初に必要な部品を取り出して運び込んでいた。

 最初に設置するのは、魔術的ブレーキと速度調整に関する魔術道具だ。これら二つは同時に管理される。その理由は緊急時に作動するものだからだ。基本的な速度調整などは人力で行う。セレーネもナタリアも完全に無人で操作する事は考えていなかった。

 それだと制御型魔術道具が機能しなかった時に被害が出てしまう事になる。基本的な操作は全て人が操作し管理する。緊急時のみ発動する補助装置として利用するだけだ。


「ここにコアを乗せる。良し。次に行こう」

「はい」


 メンテナンスをしやすいように組み立てていき、設計通りに操作系も組み立てていく。【装甲結界】の管理。車両内部に展開する軟質結界の管理。車両全体の破損状態の確認。車両全体の【座標指定】の管理。周囲を調べるための【空間探知】の管理。

 これらを的確な場所に設置し、それら全てのコアを管理する統率用コア。多少狭くなるが、これによって安全は確保される。


「起動」


 セレーネは初期起動用の魔力を流して、全体に問題がない事を確認する。


「全体確認」


 セレーネの口頭による指示で【投影結界】に全てのコアの状態とコアから得られるそれぞれの情報が映し出される。


「簡易表示」


 セレーネがそう言うと、それぞれの場所で異常があるかないかだけが示されるようになった。全体確認で見ようとすると、セレーネ達には簡単に理解出来ても、運転手などは理解出来ない可能性がある。まずは、こうして簡易表示を出す事で異常箇所を特定し、その分野を詳細表示させる事でどういう風に異常があるかを確かめる事が出来る。


「音声認識も問題なし。まぁ、そもそも調べられない事があるから、そこだけ表示不可になってるけど」


 まだ装甲などは取り付けられていないので、【装甲結界】などの部分は表示が出来なくなっている。だが、しっかりと存在しない事実を確認出来ている事が重要だった。装甲が失われた場合に、それが表示されるという事だからだ。


「ひとまず問題はなし。もう一つにも積み込もう」

「はい」


 最後尾であり先頭にもなるもう一つの車両にも同様に積み込んでいく。その様子をランゲル達開発部の人間が時折覗きに来たが、何をしているのか半分も理解出来ていなかった。次代の賢者と呼ばれる程の人材と新たな魔術を次々に生み出している神童のコンビにより作られたもの。常人の理解の一歩外側を歩いているので、三割も理解出来れば良い方であった。


「よし! ランゲル。装甲は?」

「ああ、こっちだ」


 セレーネ達は置かれている装甲に【装甲結界】を刻み付けていく。セレーネ達は、魔術道具として一番重要な魔術陣の刻印を次々に終わらせる。セレーネとナタリアの技術力が高いため、作業時間はかなり短い。その手際の良さに開発部の人間だけで無く手伝いをしているアカデミー生も唖然としていた。


「取り敢えず、こんな感じかな。レールの方は大体終わってるよね?」

「ああ。何とか理解出来る範疇だったからな。こっちでもレールへの刻印は出来た」


 セレーネ達が問題視していた部分は開発部の中である程度解決する事が出来た。だが、それでも人員不足は続いている。セレーネ達の仕事が次々に溜まっている事が、それを証明していた。


「装甲はこれで良いとして、レールと貨物車両への刻印もしないとだね。まだまだやる事はいっぱいだぁ……」

「試験走行の予定日は再来月の頭だ。それまでにこの状態でも分かる問題点を洗い出したい。セレーネの嬢ちゃんも手伝ってくれるか?」

「魔術的なものだったら良いよ。それ以外だと、私には分からなかったりするし」

「寧ろそっちを頼みたい」

「了解」


 試験走行まで二ヶ月。それまでの間に試作品を最大限良いものにするため、セレーネ達は動き出す。

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