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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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役割分担

 翌週。セレーネとジェニファーは、少しずつ新型輸送用魔動列車の設計を進めていた。


「根本から変える必要があるって、結構難しい事なんだね」


 ジェニファーはため息をつきながら深く椅子に座って、背もたれに体重を預けていた。机の上には描き途中の設計図が広がっている。この設計図も何十回も描き直しているものである。


「まぁ、新しく作るものはこんなものだよ。特に魔動列車は異常に複雑なものだし」


 セレーネはそう言いながら、複数の魔術陣を同時に構築している。【高速演算】に加えて、セレーネが開発した【並列演算(へいれつえんざん)】により、マルチタスクを補助していた。そんなセレーネを見て、ジェニファーは、もう一度気合いを入れ直して設計図を引いていく。


「セレーネちゃんがもう単位を修得している理由が分かった気がする……」

「そう? 【並列演算】は一昨日完成させたものだから、あまり単位に関係ないけどね。それに下地があるから、割と簡単に作れるし」

「こっちも下地はあるのになぁ……」

「さすがに、魔動列車は今使ってるやつとは大きく変わるから無理だよ。使えるのは、構造の一部くらいだし」

「内側は木材で良いんだよね?」

「うん。内装まで完全な金属にする必要はないからね。水気のあるものを積み込むとしても、木材に疎水性を持たせるから。そのための魔術も作ってるから」


 今回使用する魔術は、全てセレーネが一から構築する事になっている。新型輸送用魔動列車に合わせて調整するためだ。


「装甲の形は、もう少し検討する?」

「う~ん……ジェニファーの案で良いと思うけどね。理論的には間違ってなさそうだし。試作して空気抵抗を確認してって感じで良いと思う」

「分かった。じゃあ、これで完成で良いかな」

「それじゃあ、開発部に提出しよう。カノン、どうやって行けば良いか分かる?」

「はい。こちらで提出して来ます。護衛には、ベネットがいますのでご安心ください」

「うん。分かった」


 カノンが設計図を受け取って開発部に提出しに向かう。ベネットは入口で警戒しながら待っている。セレーネもベネットへの信頼はあるので、カノンの言う事に素直に頷いた。


「セレーネちゃん。こっちの構造なんだけど」

「ん? 運転の方かぁ……魔術的に処理したいって事?」

「何かサポート的な事は出来ないかな? セレーネちゃんが言ってたでしょ? 安全面は重視した方が良いって。だから、速度制御に魔術的な要素を使えないかなって」

「なるほどね。情報処理魔術ならある程度は出来ると思う。条件起動を上手く使っていく感じかな」


 セレーネはそう言って、魔術陣を一つ増やす。新しい魔術を考えるためだ。


「あっ、今の作業が終わってからで大丈夫だよ?」

「ん? 別に大丈夫だよ」

「そう……なの?」

「うん。効率が下がる期間があるけどね」

「あ、【高速演算】は長時間使用が出来ないって話だっけ?」

「うん。慣れないと吐くから使わない方が良いよ」

「うん。私には、使いこなせなさそうだからやめておく」

「そんなに難しくないけどなぁ」


 セレーネはそう言いながら構築した魔術陣を紙に転写して、それをジェニファーに見せる。


「【強度強化】と【靱性強化】と【装甲結界】の魔術陣」

「この【装甲結界】って自分にも使えるの?」

「まぁ、元々カノンが使ってた身体強化の魔力圧縮を魔術に落とし込んだだけだけどね」


 【強度強化】と【靱性強化】は、車体全体と守るための追加装甲にも施される。その他に【装甲結界】を付ける事で、仮に脱線や魔物に襲われても車体を守る事が出来ると考えている。


「守るのは十分だけど、攻撃とかは付けないで大丈夫かな?」

「やっぱりこの速度自体が攻撃力みたいなものだから、全然問題ないと思うよ。横からの攻撃は、【座標指定】である程度問題ないと思うし」

「ああ……あれも凄いよね……」


 ジェニファーは、セレーネが即興で作った【座標指定】を利用した物体の位置固定を思い出して苦笑いしていた。何をぶつけても位置が動かなかったからだ。


「まぁ、あれは失敗だけどね。意味が分からないくらい動かないし。【座標指定】を相対座標で設定して、地面を【成分分析】【構造分析】して、【演算分析】に【演算処理】【魔術高速演算】【制御術式】を加えて、レールを感知して動くようにした。まぁ、地面にも適応させてるけど、そっちは条件でレールを感知出来なくなって五秒したらって風にしたよ」

「ああ……うん。理解出来たような気がする」


 まだ情報処理魔術への理解が浅いジェニファーは、セレーネが作った魔術がどのようなものなのかしっかりと理解出来たか不安だった。

 基本的には、レールを感知するようにして、車体の座標をレールから何メートルの位置かに固定するというものだ。だが、仮にレールが破壊されるという事が起こったときのために、条件軌道で地面を走るようにも設定している。ただし、地面のみを走るようになったら、時間で停止するように設定されていた。脱線している時点で、目的地に辿り着けるかどうか分からないからだ。

 この魔術に関しては、セレーネは屋敷で完成させており、既にその魔術陣を紙に転写して置いてある。まだ仮決定であり、現在も屋敷では分析機と最適化機に掛けて、最適化を進めているところだった。


「これで、運転の制御魔術に集中出来る」


 そう言ってセレーネは、三つの魔術陣を増やして運転の制御魔術の開発を加速させる。魔術陣の確認をしていたジェニファーは、そんなセレーネを見て、少し驚いていた。


「セレーネちゃんって、本当に並列処理が出来るんだね」

「ん? うん。まぁ、順番に考えてるだけだから、本当に同時に処理してるわけじゃないけどね。【並列演算】のおかげで、かなりやりやすくなってるけどね。まぁ、この魔術はかなり時間が掛かりそうだけど」

「ごめんね。複雑なものを頼んじゃって」

「ううん。私は新しい魔術を作れるから楽しいよ」

「本当に魔術が好きなんだね」

「勿論!」


 楽しそうに笑うセレーネを見て、ジェニファーも小さく笑う。セレーネが魔術を好きなように、ジェニファーも魔術道具が好きだった。なので、セレーネの気持ちがよく理解出来たのだ。

 そして、同時にセレーネと自分の知識差などを思い知らされている。だが、これにめげず、自分の知識不足を必死で補ってセレーネから知識を吸収するつもり満々だった。

 二人の魔動列車開発は、まだまだ始まったばかりだ。

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