新しい輸送路作り
ガンドルフは、膝を叩いて前のめりになる。
「良し! お前に魔動列車の改良案の模索を命じる。この論文の著者も連れてくるとしよう。アカデミーに専用の研究室を用意させる。いや、必要な材料はラングリドを通して発注しろ。魔動列車の開発部の人間も入るからな。護衛は……ふむ。ベネット辺りが良いだろう。先の空間転移輸送事業の際も護衛をやっていたくらいだ。顔見知りである方が安心出来る。そうだろう?」
「それは……まぁ……でも、私みたいな子供にやらせて、その魔動列車開発部の人は面白くないのでは?」
ぽっと出の人間に仕切られるというのを面白くないと感じる人間はいる。だからこそ、セレーネはそこが問題になるのではと考えていた。
「そんなところを配慮するのか? まぁ、確かに先の事業で妨害が入るという事があったと聞いたな。連絡不足故のものだが、ああいった事を恐れているという事か。安心しろ。あいつらは、相手が子供だからと言って、やけを起こす程ガキではない。そもそも魔動列車開発部は、俺が主導しているものでもあるからな」
これにセレーネは少し驚いていた。まさか魔動列車の開発部を主導しているのが国王のガンドルフだと思わなかったからだ。
「それは……知りませんでした」
「国王らしい事をしろと言われて、あまり顔を出せていないのも事実だからな。優秀な者が引っ張るのは当たり前だ。それに年齢もくそもあるか。それが嫌なら、そいつよりも優れた案を出せば良い。そうして食いつきあえば、より良いものの完成だ」
「極論だと思います。現実には、嫉妬して相手を殺せば良いと思うのが人ですよ」
人の悪い側面を見てしまっているセレーネは、そういう点が心配になっていた。自分は死なないが、それでも一緒に研究するとなれば、論文の著者であるアカデミー生が被害に遭う可能性がある。それだけは避けたいのだ。
「なるほどな。確かにその通りだな。人の善性を信じすぎていると言えなくもないだろう。だが、この命令は変えるつもりはない。お前とこの論文の著者であるジェニファーが主導である事はな。理由は、この内容での研究を始めているのがお前達だからだ。この案を深く理解しているのは、他ならぬお前達だ。それならお前達を前に出さざるを得ないだろう? この事は俺の方からも伝えておく。問題は起こさせん。お前が恐れている事も、恐れている理由も知ってはいるからな」
ガンドルフもセレーネの事情は知っている。だが、それでも変える事の出来ない事は存在する。この論文の内容を知り、深く考え、実現に必要な事柄を全て把握しているのは、セレーネとジェニファーしかいないからだ。
「そうですか……陛下は、魔動列車による輸送網も作ろうとお考えなのですね。それも現在ある輸送網とは別に高速での輸送を目的としている。空間転移装置で集めた物資を方々に送るというところでしょうか?」
「よく分かったな。この輸送網に関しては、王都からの輸送ではなく他都市間での輸送を目的としている。現在の魔動列車の路線は、人員輸送に使う事になる」
「つまり、物資の輸送とは完全に分けるという事ですね。ゴールデンとかから伸ばす形と空間転移装置を使って物資を集めた中継都市から伸ばす形でしょうか?」
「ああ。少し待っていろ」
ガンドルフは立ち上がって部屋の扉を開けると、使用人に地図を持ってこさせた。その地図をセレーネに見せながら、地図に新しい路線を書き込んでいく。それを見ていたセレーネは、一つの考えが頭を過ぎっていく。
「戦争でもあるんですか?」
「そう思うか?」
ガンドルフは、面白そうに笑う。真剣な表情にならないので、セレーネとしては外れだったと考えていた。だが、それが一番に考えられる事だった。
「国の端である国境全体に広げるように路線が引かれています。物資を安定供給させるものですが、空間転移装置との組み合わせから考えると、戦争が起きた時の糧食等の物資輸送を想定しているようにも思えます」
「その通りだ。だが、それは戦争が近くあるからという訳では無い。もう数十年以上戦争はしていないのだからな。だが、魔物の脅威があっても戦争を仕掛けてくる国がないとは言い切れない。万が一の備えだ。戦争がなくとも、国の端まで物資を安定供給させるのは重要だからな」
「なるほど。浅慮でした」
「いや、その考えに気付いたのは見事だ。今言った通り、戦争になった時も想定している。浅慮ではないだろう。兎に角この一路線に一列車を用意したい」
「そうですね。往復で運行するという形ですが……整備するための施設を建造する必要があるかと」
「確かにこれまで以上に魔物との遭遇が考えられるからな。それは必要か。それらの設計は出来るか?」
「出来なくはないですが……そもそも魔動列車の改造なども含めて、年単位は掛かると思われます。本格的な設備や列車の量産は開発部に任せる事になるかもしれませんが、そもそも改造がどこまで可能かどうかも分からないくらいです。論文の著者であるジェニファー殿は、アカデミーの単位修得をしなければ卒業も出来ません。この開発に身を置きすぎれば、四年での卒業が出来なくなります」
「なるほどな。ここに来て単位制が邪魔になるとは。なら、特別単位で二十単位を出すとしよう」
ガンドルフがそう言うと、セレーネは何とも言い難いような表情でガンドルフを見ていた。
「何だ?」
「そんな簡単に卒業出来るだけの単位を出して良いのでしょうか? 地道に頑張っているアカデミー生から不満が出るかもしれませんが」
「いや、それはないだろう。これまでも何度かあるからな。それだけ大きな研究と俺が認めた場合にそうなる。言ってしまえば、空間転移装置の事業も論文にすれば、同じようにそれだけの単位を渡す事が出来る。国全体に関わり、俺が認める事が条件だ。そして、これはそれだけの価値がある」
「そうでしたか。論文にする気はないので、単位は貰えないですね」
「まぁ、お前は全ての単位を修得しているしな。取り敢えず、そういう事だ。追って令を出す。頼んだぞ」
「承りました」
「よし! 今日は帰って良いぞ」
ガンドルフはそう言って部屋を出て行く。セレーネもラングリドに連れられて王城を後にし、魔動車に乗り込む。運転手はカノンが務めていた。
「お疲れのご様子ですが」
「まぁ、国王陛下と話していたからね。それにとてつもなく長い作業を仰せつかったから。まぁ、良い経験にはなりそうだけど。基本的にお父様を通して連絡すれば良いんでしょ?」
「基本的にはそうなる。だが、まさか別の輸送手段もセレーネが担当するようになるとはな」
「元々計画はあったの?」
「改造はないが、魔動列車を使った物資輸送の拡充は考えられていた。大変な事だが、あまり気負うな。短期間で成功させろとは誰も言っていないからな」
「うん。分かった」
こうしてセレーネの新しい大規模事業への参加が決まった。




