国王からの呼び出し
それから一ヶ月。セレ-ネは何故か王城に呼び出されていた。王城に向かうために、態々ドレスに着替えさせられたので、セレーネは少し機嫌が悪かった。そして、呼び出された部屋にはセレーネとラングリドしかいない。カノン達の同席は許されていないからだ。
「セレーネ。陛下の前では通常通りに装うんだぞ?」
「分かってるよ。でも、何で呼び出されたの? 空間転移装置は問題ないし、輸送路にも問題ない事は判明してるんでしょ? 本格稼働もしてるんだから、今更何かあるの?」
「空間転移の話ではないらしい。だが、それでもセレーネに直接確認しなければいけない事があるらしい」
「お父様も何も聞いてないの?」
「ああ」
「ふ~ん……」
今回の呼び出しはラングリドからしても心当たりはなかった。ラングリドが同席しているのは、セレーネ一人では国王陛下との会話は難しいだろうと考えられたための配慮だった。
セレーネ達が待っていると、ノックもなく扉が勢いよく開いて中年の男性が現れた。金髪と整えられた髭、厳つい顔付きが威厳を醸し出している。そして、その身なりから国王だという事がセレーネにも分かる。国王は紙束を持ちながら入って来て、セレーネを見るとニヤリと笑った。
「おお。お前がセレーネか」
セレーネは、すぐにカーテシ-で挨拶をする。
「お初にお目にかかります。クリムソン侯爵家当主ラングリド・クリムソンが次女セレーネ・クリムソンと申します」
「ん? ああ、クローム王国現国王ガンドルフ・コロル・クロームだ。ラングリド。お前の話だと次女はじゃじゃ馬という話だったが?」
「今は上っ面を繕わせていますので。下手をすれば、陛下に対しても普段と変わらずに話す恐れがありますので、強く言い含めております」
「ふむ。ここは非公式の場だ。普通に話せ」
そう言って、ガンドルフは椅子にふんぞり返って座る。ラングリドが深々とため息をつきながら椅子に座るのを見たセレーネは、同じく椅子に座った。そしてガンドルフは、傍付きを外に出してから話し始める。
「お前の論文には全て目を通した。面白いものを開発したものだ。危険なものもあるようだがな」
「論文を……ですか?」
「陛下は、国王であると同時に著名な研究者でもある。専門は魔術道具の設計だ」
「なるほど。私の魔術道具が気になるというお話ですか?」
「いや、気になりはするが、今日はそれが目的ではない。目的は、こっちだ」
ガンドルフはそう言って、紙束をテーブルに置く。それはセレーネも見覚えのあるものだった。アカデミーにて、相談を受けた魔動列車の改良に関する論文だ。ガンドルフが目で読めと言うので、セレーネは大人しく従って論文を読む。
その内容はセレーネがした助言通りに改良されており、問題点の提起など現実的ではない部分も含みながら実現可能とするために必要な事などの考察が書かれていた。
(あの時よりも練られてる。魔物に対する問題点とレールに関する問題は、現在も魔動列車に使われている方法を少し改良するだけで済ませられると。車両や車軸にはより強度を高める他に結界魔術で保護をするね……うん。出来なくはないけど、維持が大変。運行には複数の魔術師が必要になるという問題が出て来ると)
セレーネは面白いという表情で論文を読み進めて、最後まで読んでからテーブルに置いた。読み終えたが、セレーネにはこれで自分が呼び出される意味が分からなかった。
「こちらが何か?」
「その論文を書いた者は、お前と共同研究をした事にして欲しいと願ったそうだ」
「え? ただ助言をしただけなのですが」
「その助言が大元となっている以上、自分で作り上げたものとは言い難いという主張らしい。アカデミーは、それを受けて共同研究とする事を許可する事にした。まだ連絡は行っていないだろうが、すぐにその旨の連絡が届くだろう。話は、ここからだ。書き直されたそれを読んで、お前は製造が可能だと思ったか?」
ガンドルフは真剣な表情で確認する。それを受けて、セレーネは少し頭の中を整理する。
(問題点は残ってる。だって、具体的な解決策は考えられていないから。まだ未完成の論文だ。言ってしまえば、これが可能になれば物流革命等が起きるという主張を乗せたものでしかない。馬鹿馬鹿しいと切り捨てられていないのは、問題点が具体的に挙げられていて、それの解決策を考えられそうだから。
第一の問題は、レールのカーブ。そもそも魔動列車の最高速度は、通常の運行では使われない。現状の最高速度でも脱線の危険が高いから。これはあの後に調べたから知ってる。これは、レールを直線で組み立てる事で解決出来ると考えられる。
第二の問題は車軸などの問題。回転速度が上がる事により車軸や車輪への影響が考えられる。ちょっと考えてみたけど、そもそも車輪を無くすという方法が考えられる。ちょっと難しい方法ではあるけど、一考の余地はある。
第三の問題は車両への影響。これの解決は論文にもある結界を利用する事で解決出来なくはない。そもそも風除けが、そのまま安全確保に繋がる可能性は高いけど、人を乗せるのならもっと安全を確保しておきたい。
第四の問題は魔物に関する問題。これは、速度によって吹っ飛ばせるという試算が出てる。その分車体が不安定になる可能性があるから、あまり手段としては良いとは言えない。魔物がいない地域を通るのは、レールを直線にする関係上無理。魔物除けを作るのは長期的な使用が難しい点を考えれば別の案の方が良い。装甲で攻撃と防御を兼ねる? これが一番良い方法かもしれない。装甲列車って感じかな)
セレーネは、そこまで考えてから頷いた。
「問題は多いですが、解決出来れば良い可能です。解決自体は無理と断ずるようなものではありません。ですが、厳しいのは変わりません」
「そうか! 可能か! ふはははは!!」
ガンドルフはセレーネが可能と言った事で大笑いする。それは、自分と考えが同じだったからだ。
「問題点を上げろ」
そう言われてセレーネは、先程考えた問題点を全部出した。それを聞いたガンドルフは満足げに笑う。
「装甲列車は面白い案だ。通常の魔動列車にも流用出来るか」
「恐らくは無理かと。重すぎて出力を上げないといけませんから」
「重さか。その問題は大きいな。車体を浮かすというのは、どうやるつもりだ?」
「【座標指定】で物体をある物体の相対座標の位置で固定する事が出来ます。それを利用して車体を浮かせる事が出来ないかと」
「【座標指定】だと? あれは空間を指定するだけの……いや、それはこちらの思い込みか……魔術は使い方次第で大きく変わる。【座標指定】をただそれだけの魔術と断じていた。なるほど。面白い。それは重さによって効果が変わるのか?」
「そこは実験してみないと何とも言えません」
セレーネの正直な言葉に、ガンドルフは更に面白そうに笑っていた。




