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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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空間転移装置の設置作業

 翌日。セレーネ達は王都にある輸送事業の建築現場に来ていた。スピカとベネットも同行している。


「王都にいる間は、別に護衛は要らないんじゃない?」

「俺が常に護衛しているという状況を知らせておくのも抑止力になるだろう?」

「ふ~ん……まぁ、それもそっか」


 セレーネとしては、王都内であればベネットは普通に騎士団の仕事をしても良いのではと思っていた。だが、ベネットはこうして近くに護衛がいる事を見せつけて、この大規模事業を妨害しようと画策している者達への抑止力になるつもりでいた

 セレーネもそれを理解した。


「でも、そんなに妨害したいと思う人がいるの?」

「いないと言い切れないだろう?」

「何のために?」

「利権に絡むための妨害、クリムソン家を恨む家による妨害、色々と考えられるだろう」

「利権に絡むのに妨害するの?」

「クリムソン家では駄目だと思わせれば、そこに割り込む事が出来るかもしれないだろう?」

「ふ~ん……くだらないね」


 セレーネがそう言うと、さすがのベネットも苦笑いをしてしまう。


「まぁ、普通の人からすればそうだろうな。だが、嬢ちゃんは貴族なんだ。そういう世界にも足を踏み入れる事になるかもしれないぞ?」

「この事業に携わっている時点で、ある程度は踏み入れてるでしょ?」

「まぁ、そうだな。護衛と言ってもぼーっと突っ立ているわけじゃない。これでも騎士だからな。力仕事があれば手伝うぜ」

「う~ん……まぁ、カノンだけで作業して貰うよりも安全かな。カノンはどう思う?」

「ベネットも馬鹿ではありません。力任せに作業するという事はないかと」

「そっか。なら、お願いするね」

「おう」


 そんな話をしている間に、セレーネ達は建設中の建物の前に止まった。その建物はセレーネが思っているよりも遙かに大きかった。


「大きすぎない?」

「一時的に物資を貯蔵する倉庫も兼ねていますので」

「それにしてもセレーネ様の大きいという感想は頷けますね。倉庫としての役割が強いのでしょう。常に輸送がスムーズに進むとしても、ここから輸送するための魔動車の積載量には限りが有りますので」

「そっか。転移にも限度があるけど、どんどん送り込むこと出来るから、倉庫がないと下手したら駄目になるかもしれないって事だね」

「はい」


 事業を進めるための建物でもあるが、それ以上に倉庫としての機能を優先させたものでもあった。食材は当然ながら工業用の素材にも温度を維持させておきたいものがある。輸送待ちになった際に、食材などが駄目にならないように一時的に置ける場所を用意している。

 更に余裕を持たせる事で、王都内での輸送に滞りが生じたとしても問題ないようにしている。この造りは地方都市で建設予定の建物でも同じだった。

 建物の前にいたセレーネ達の元に一人の建設員がやって来る。


「セレーネ様ですね。転移部屋の準備は既に出来ています。こちらへどうぞ」

「うん」


 案内されて着いた転移部屋は、他よりも一歩だけ先に進んでいる状態だった。


「屋根も出来てる。こんな建て方で大丈夫なの?」

「そこは腕の見せ所です。魔術があるおかげで、色々と無茶が出来ますので」

「そっか。じゃあ、設置するね。ある程度頑丈に作ってるけど気を付けてね」

「はっ!」


 セレーネ達だけが残され、ここで設置作業が始まる。パーツを出してベネットにも手伝って貰い組み立てていく。


「結構組み立ても地道なんだな」

「魔術的に組み立てられると思ったの? 魔術道具だから機械の整備と同じような感じだよ」

「確かに魔術道具の組み立ては、授業でもやらない事だからな。良い経験になるな」

「騎士団で使うの?」

「いや、騎士団では使い道はないだろうな。魔術道具の組み立ては仕事に入っていないしな。騎士団に魔術道具が導入されても、これだけ大がかりなものはないだろうしな」

「ふ~ん……騎士団って何か必要なの?」

「遠征時に、簡略的な小屋が作れれば良いくらいか。これも求めすぎだがな」

「テントじゃ休まらないからね。あのテントを量産したら騎士団に売れるかな?」

「そういった事は旦那様にご相談してから決めましょう」

「まぁ、そうだね」


 こんな会話をしながらも、しっかりと組み立てを行い問題なく起動する事を確認する。


「良し。良し。良し。良し。もう一周確認するかな」


 セレーネは、何度も丁寧に確認作業を繰り返す。確認作業までは手伝えないので、それを見ていたベネットは、カノンに声を掛ける。


「あの確認作業って、あんな何回もやらないといけないものなのか?」

「二回もやれば、基本的には大丈夫」

「なら、やる必要もないだろう」

「そこはお嬢様の性格かな。今回は色々な人が使うものだから、しっかりと安全を確保したいの」

「ほお……まぁ、大事な事だな」


 カノンとベネットがそんな会話をしていると、確認を終えたセレーネとスピカが戻ってくる。


「大丈夫そう」

「はい。では、もう一箇所の方にも参りましょう」

「うん!」


 輸送元から物資を集める方の空間転移装置を設置し終えたので、今度は輸送先に送るための方を設置しに向かう。


「そういや、さっきの嬢ちゃんの【空間倉庫】だったか? あれも魔術道具として作ってんだよな?」

「うん。よく知ってるね?」

「ああ、俺も読んだからな」

「へぇ~、意外」


 セレーネ的にはベネットはその手の論文を読まないと思っていたので、それを知っていた事に驚いていた。


「まぁ、偶々手に取った論文に嬢ちゃんの名前があったから読んだってだけだけどな。騎士団にも割とアカデミーの論文が流れてくる事があるんだ」

「ふ~ん……」


 この会話の中で、セレーネはベネットの言いたい事を理解した。設置型【空間倉庫】をあの倉庫にも付けないのかという事だ。


「でも、あれって割と危険なものなんだよね。下手したら、この世界から隔離された空間に閉じ込められるし。まぁ、その方がマシかな。本当にヤバい事だったら、空間が閉じて圧殺されるから」

「割と危ない道具って事か」

「まぁ、今のところそんな事故はないけどね。私達が管理出来るならまだしも、そこから離れて他人の手に渡る事を考えると怖いかな」

「なるほどな。そこら辺の安全確保も今後の課題って事か」

「うん。まぁ、色々な研究を進めてるから、あまり進んでないけどね」


 そんな会話を続けている内に、もう一箇所の設置場所に着いたので、同じく空間転移装置を設置する。こうして王都での設置作業は終わった。基本的には、組み立てと起動試験をしつつ座標を記録するだけだ。


「それじゃあ、来週からよろしくね」

「おう」


 ベネットと別れたセレーネ達は、屋敷への帰路に着く。来週からは、地方を移動し続ける事になる。忙しい日々の始まりだった。

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