ラングリドの訪問
セレーネは実験室に籠もって、【時間停止】を利用した魔術道具の開発を進めていた。箱の大きさは、自分が両手で抱えて持つ事が出来る最大の大きさ。意図的に中に入らない限りは、閉じ込められるような事はない。
蓋をする事で起動する条件起動を採用した魔術道具で、内部にある物質の時を止める事が出来る。
条件起動もしっかりと発動するように出来ており、中に時計を入れての実験でも成功しているが確認出来た。
「よし! これで完成だね! 【空間拡張】を付けると、ちょっと内部に閉じ込められる危険性が高くなるなぁ……まぁ、数を増やせば良いだけかな」
セレーネは、【時間停止】した箱の中に研究で使った資料などを入れていく。これで見返す時にも紙が劣化する恐れがなくなる。
セレーネが適当に紙を入れているところを見たカノンは、短くため息をついてから、中の紙を系統別に分けて紐で束ねていった。
セレーネは、時間停止保存箱の事をレポートに纏めていた。論文にするためのものではなく、個人的に見返すためのものだ。
「カノンもいる?」
「この箱をですか」
何を指しているのか分からない言葉だったため、念のため確認をしていた。それに対して、セレーネは頷く。
「うん。カノンも保存したい何かとかあるんじゃないかなって」
「そうですね……これと同じ大きさのものがあれば嬉しいです」
「じゃあ、作ってあげる。いつもお世話になってるもんね」
セレーネは鼻歌を口ずさみながら時間停止保存箱を作り始める。そんなセレーネを見守りながら、カノンは紙を纏めていた。
(保存箱があれば、お嬢様の小さな頃の服を保存出来る。防虫とかも気にしないで良いから、そこが有り難い)
カノンは秘密裏に保存していたセレーネの小さな頃の服を時間停止保存箱に入れる事を決めていた。
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そこから二週間程研究と空間転移装置の量産を進めていると、ラングリドが別邸にやって来た。セレーネは実験室で時間魔術、情報処理魔術、空間魔術の研究と分析機の改良をしている。具体的には、同じ魔術を分析機に掛け続ける事による新しい結果を探すという事だ。
後は魔術道具として使えるものと新しい魔術の開発である。その中で亜人学の論文を読んだり、魔術薬の論文を読んだりと色々なところに手を伸ばしていた。その結果実験室には、色々な論文が散乱している。カノンが定期的に片付けているが、それでもセレーネが何度も読み直すので、また同じように散乱する事になるのだ。
最近は、部屋よりもすぐに実験が出来る実験室に籠もる事が増えているという事もある。
ラングリドは実験室の状態を見てため息をつく。
「セレーネ……少しは片付けたらどうだ?」
「ん~、後でね。色々と考えないといけない事が多いから」
「【高速演算】を使っているのか?」
「うん。時間制限は付けてるけどね」
時間魔術のおかげで正確にインターバルを作る事が出来ていた。【高速演算】のオンとオフを制御する事で、【高速演算】を一々自分で掛け直さなくても良くなった。
「そうか。気分を悪くしないように気を付けろ。本題に入るが、ようやく場所の選定が決まり、建物の建設が始まった。既に空間転移装置を設置する場所は先んじて作られている。セレーネには設置をしてもらう事になるが、これが輸送元の街の場所で、こっちが輸送先の街の場所だ」
セレーネは紙束を二つ貰う。そこには街の場所が書かれていた。基本的な場所の名前は知っていても、その特産品などを全て覚えているかというそうではない。
「王都はもう設置して良いの?」
「ああ。構わない。【座標記録】は、後からでも記録出来たはずだな?」
「うん。そういう風に設計したからね。それじゃあ、明日から設置作業に入るよ。他の街の方はどうすれば良いの? 来週から移動して始めてくれ。最初は輸送元からだ。それぞれの領主には話を通してある。もしかしたら、設置する日に挨拶しに来る者もいるかもしれん。その時は」
「ちゃんと挨拶するよ。そのくらいは出来るから。私から挨拶に行く必要は?」
「ない。今はそれよりも輸送路の完成を優先するようにと王令だ」
「そっか。う~ん……割と遠いなぁ。基本的に魔動列車での移動になりそう。あっ、そうだ。この都市間での繋がりはどうするの? そこを確認してなかった」
セレーネが言っているのは、地方と王都との繋がりではなく地方同士の繋がりの事だ。【座標記録】には合計で十まで記録出来る。やりようによっては、それ以上も出来るが、現状で安定させられるのは十までだ。
なので、王都と地方だけでなく地方同士も繋がる事が出来なくはない。
「繋いでくれ。基本的には利用する事はないが、必要になる可能性がある」
「じゃあ、【空間転移】も沢山使うかなぁ……はぁ……大変そう。数的にはもう全部出来たから、順次設置していくよ」
「ああ。一応、護衛として騎士を一人付ける」
「えぇ~……信用出来る人?」
「セレーネも知り合いだぞ。ベネットだ」
「ああ、そうなんだ。なら、大丈夫かな」
「後は、スピカも付いて行く事になった。聖女としての巡行だな」
「それって、私達に付いて行って良いの?」
聖女としての巡行であるのに、スピカが自分達に付いていくのは良いのかセレーネは疑問に思っていた。
「問題ない。どちらかというと丁度良いとの事だ。地方にも行くことが出来るからな。それとセレーネがスピカの主という事が一番の理由だ」
「ん? 眷属だからって事?」
「ああ。セレーネが真祖である事はある程度知られている。セレーネに同行される事で、スピカがセレーネの眷属である事を強調させるのが狙いだろうな。全くどこから情報を得たのやら」
「ふ~ん、でも、私が真祖だって知ってるのって、本当にある程度だよね? 意味ある?」
「今後の布石でもあるんだろう。セレーネの屋敷に住み、セレーネの事業に同行する。聖女でありながら真祖の眷属でもあるという事実とセレーネが真祖である事が知られれば」
「自ずと私の眷属である事が分かる。私が真祖である事が真実であればあるほど、スピカが眷属である事も真実味が増すってこと。分かった。じゃあ、ベネットにはカノンから連絡を送って貰うね」
「ああ。頼んだ」
「うん」
ラングリドの方での選定などが終わった結果、セレーネの空間転移装置設置が始まる事になった。設置は王都から始まり、順番に巡っていく事になる。メンバーは、セレーネ、カノン、スピカ、ベネットの四人。今回、フェリシアとマリアは留守番となった。




