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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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時間魔術

 セレーネは、カノンを連れてアカデミーの図書館に来ていた。そこで魔術に関する本の中で、時間に関係するものを探す。


「う~ん……時間系魔術ってないのかな?」

「少なくとも私に聞き覚えはないです」

「論文で探してるけどないって事は、まだ見つかってないって事か隠してるって事だよね?」

「その可能性は高いかと。類似研究もありませんので、ここにいても情報は得られないかもしれません」

「だね。まずは、純粋に基礎化から始めようか。分析機と最適化機のおかげで、大分過程が省かれてるから、割と簡単に進められそうだし」


 時間停止魔術に関する論文は一つもなかったので、セレーネ達はアカデミーの図書館を後にする。そのまま屋敷に戻ろうとすると、ハイネンが前を塞ぐ。


「すまない。少し時間を貰えるだろうか」

「えっと……少しなら」

「良かった。アカデミーからの頼みがあるのだが、アカデミーで講師をしないか?」

「しません」

「そうか……」


 セレーネの即答にハイネンは少し落胆していた。セレーネの論文からアカデミーの講師陣が、是非講師として働いて欲しいという要望が多く出ていた。論文からも分かるくらいにセレーネの知識量は多い。なので、セレーネが講師をすればアカデミー生の学力向上に繋がると考えられていたのだ。

 それを即答で断られれば落胆するのも無理は無かった。


「理由を聞いても良いか?」

「忙しいので。色々とやる事があるんです。講師をしている時間は、すぐになくなるので」


 空間転移装置の設置が始まれば、セレーネは色々な場所に向かう事になる。その間講師をする事は出来ないので、ここでやると言っても無責任でしかない。

 そして、そもそもの話になるが、これらを抜きにしてもセレーネは講師をやりたいとは全く思っていなかった。


「それじゃあ、失礼します」

「あ、ああ。気が変わったら言ってくれ」

「はい。気が変わったら」


 セレーネは心にもないことをいいながらハイネンと別れて、カノンと一緒に屋敷へと戻った。


「講師なら先生にお願いすれば良いのにね。先生の授業なら行く気になるのに」

「レイアー先生は学園で教師をしていますので難しいかと」

「むぅ……まぁ、いいや。基礎化の作業するから実験室にいるね」

「はい」


 セレーネは実験室に戻って基礎化を進めていく。既に最適化案が書かれた紙を持っているので、そこから基礎化するのに必要な情報を抽出しつつ再び分析機と最適化機に掛ける事で、別の案や他に見落としている部分がないかどうかを確認していく。


「基本的に無駄は全部削ぎ落とす……最適化の過程で纏められた魔力線は【座標指定】によるもの。これは整理すれば良い。追加した対象指定は取り除ける。問題は時を止める方の調整かな。何がどこに位置しているのか……久しぶりの基礎化は楽しいな」


 セレーネは小さく笑いながら基礎化作業を進めていく。その中で分析機と最適化機から得られる分析結果と最適化案に目を通す。


「分析は厳しいか……最適化案も微妙な感じ。でも、このまま分析を続けて貰おう。何か新しい事に気付くかもしれないし」


 分析機と最適化機は常時稼働しながら、セレーネ自身でも基礎化作業を続ける。この作業は三週間掛かった。全く未知の魔術のために基礎化は慎重にやらないと行けないのだ。ただ、これでもかなり早く終わっていた。その理由は分析機に三週間も掛け続けた事だった。何度も思考させられ続けた事で、どんどんと学習していったのか、セレーネと同じ結論を出していたのだ。

 その分析結果を見たセレーネは、小さくガッツポーズをしながら跳ねて喜んでいた。

 そうして時間魔術と名付けられたその魔術の基礎は【時刻(じこく)】と名付けられた魔術。簡単に言えば、現在の正確な時間を知覚する魔術である。知覚系統の魔術だが、周囲の地形ではなく時間を知るだけのものである。セレーネがそう整えたという点もあるが。


「よし! 時間に関する魔術だからなぁ……正確に時限式の魔術とかも作れそう。こっちも整えて良い感じで魔術に出来たけど……使い道に困るんだよねぇ」


 懐中時計に刻まれていた魔術は【時間停止(じかんていし)】と名付けられた。系統的には【時刻】とは異なる。【時間停止】には知覚系の要素を全て抜いている。知覚する必要がない魔術だからだ。セレ-ネは停止系魔術と考えて、時間属性における停止系魔術の基礎魔術としていた。

 そんなセレーネは、自分の目の前に分析結果などを記した紙を停止させていた。【時間停止】には、【指定座標】が組み込まれている。そのため星との相対座標を維持する事が出来るため、自転による影響を受けない。


「これを人に使うと本当に危険なんだよなぁ……心臓が止まるだけじゃなくて、身体のあらゆる機能が停止。細胞の死滅とかも恐らく停止される。だから、停止していながら、私は死んでいなかった。時間で戻ったのは、時限式にしているからじゃなくて、単純に込めた魔力などから効果時間が決まるから」


 セレーネが言い終えた瞬間に紙が床に落ちる。


「これでも時間の調整は出来るようになった。最大で五分。でも、それは魔術陣を使った時だけ、これを魔術道具として利用すれば時間は延ばせる。でも、この懐中時計は駄目。懐中時計の機能は懐中時計自身の時間を停止する事。だから、お姉様達も気付かなかった。懐中時計自体、最初から止まっていたから。

 う~ん……やっぱり、これを論文にして提出するのは無しかな。危険過ぎる。【空間接続】や【空間転移】とはまた別の意味でも」


 しっかりと分析などを終わらせたセレーネだったが、これを論文にしようとは思えなかった。その内容は、テレサに提出するためだけに纏めた。


「一応、追加術式としては考えておこうかな。これ単体で存在出来るという事はバレないようにしないとだけど」


 セレーネは、こうして纏めた内容も分析機と最適化機の【記録媒体】に記録していた。これで次回時間魔術の魔術陣が来てもセレーネが思った通りに分析する事が出来る。


「【空間倉庫】の一室に付けるのは有りかな。条件起動で扉を閉めたら発動する……いや、間違って扉を閉めたらお仕舞いだ。【時間停止】を組み込むとしたら、人が入る事の出来ない箱くらいかな。大切な書類とかを劣化させずに保管出来るようにするとか。自分用になら作っても良いかな。【空間倉庫】に入れておけば盗まれる心配もないし」


 セレーネは論文には出来ないが、自分が個人的に使用する分には良いだろうと魔術道具作りを始める。そんなセレーネの独り言を離れた場所で聞いていたカノンは、小さくため息をつきながら苦笑いしていた。

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