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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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大規模事業への参加

 夏季休暇が終わる頃。セレーネは空間転移装置と【空間転移】に関する論文を提出した。いくつかハイネンより質問をされたが、セレーネは【空間転移】の危険性からぼかす必要があるという風に説明すると、ハイネンも納得した。

 最低限の理論などは書いてあるので、論文としては認められる。その結果、六の単位を貰う事になり合計二十一の単位を獲得したセレーネは、無事卒業要件を満たした。歴代でも最速である。これは、セレーネの研究分野が珍しい空間魔術に関するものであったり、まだ研究者が少ない情報処理魔術に関するものだったりする事が大きい。魔術の歴史を何歩も進める事になるので、評価せざるを得ないのだ。それでもセレーネが研究を止める事はない。

 単位に追われる事がなくなったセレーネは、本邸に向かってラングリドに輸送事業についての話をしに来た。話し合いには、ミレーユも同席する。


「まずは卒業要件を満たした事を嬉しく思う。それで前から話していた輸送事業に関する事だな?」

「うん。これが論文ね」


 セレーネは論文をラングリドに見せる。ある程度は報告書で読んでいるため、ラングリドは流し読みをして必要な部分だけを確認する。


「危険性は限りなく低いようだが、必要な土地が大きいな。一応王都の場所は確保しておいた。残りの場所については陛下や農業大臣と商業大臣、運輸大臣との話し合いを行い決まった。基本的には食料の輸送と工業製品用の材料の輸送などがメインになる。生鮮食品を広く届けるための手段だな」


 ラングリドは執事に地図を持ってこさせて、テーブルに広げる。セレーネもしっかりと地図が見える位置に着いた。


「街にはある程度大小がある。極端な話で言えば、大きな街が王都、小さな街がレッドグラスだ。レッドグラスよりも小さな街もあるが、分類上レッドグラスも小さな街となる。大きな都市ともなる街は、要所要所にある形だからな。この空間転移装置は、座標が異なれば良いのだろう?」

「うん。王都内で二箇所に作って片方を王都への輸送。片方を地方都市への輸送にするって事?」

「そういう事だ」


 同じ王都内に設置しても、座標は異なる場所に設置すれば転移装置が干渉し合う事はないという事になる。ラングリドはそれを利用して、それぞれの転移装置で違う場所に輸送を行う事を考えていた。


「食品と工業用素材で完全に分けたい。全部で四箇所に作る事になる。それは大丈夫か?」

「う~ん……素材的な問題があるけど、設置する分には大丈夫だと思う。万が一を考えると、お父様が思っているよりも離す必要があると思うけど」

「そこからの輸送手段が必要になるという事だな。そこは魔動車で行う。問題はない。個人事業で解決する事は難しいからな。国家事業として進める事になった。管理などは国が行うが、この空間転移装置を使う限り、セレーネに永遠と代金が流れていく事になる。この部分に変わりはない」

「そっか」


 国王陛下との相談などもあり、これらは国家事業とする事が決まった。食料の安定供給ラインの確保に加えて工業用素材の安定供給など、国の第二産業を支えるための大事なラインになるので、国で管理しておきたいと考えられていた。

 この際に生じる利益の一部をセレーネに還元するという事で空間転移装置を利用する事が決まっていた。既に論文でも発表しており、セレーネが開発した代物という事が情報として登録されているからだ。


「思ったよりも大がかりになりそう?」

「そうだな。だが、前にも言った通り悪用を避けるために、色々な安全措置を施して貰う。論文に書いてある通りなら、ある程度は大丈夫だと思うが、出来れば転移のスパンは一分にして欲しい」

「そんなに長くて大丈夫? それと、転移するまでの時間で一分十秒になるけど」

「ああ。大きな問題はない。早いに越した事はないが、それ以上に悪用防止を優先する事で話はまとまっている」

「分かった」


 セレーネは作る転移装置の内容をメモしていく。

 そこからは場所の選定だ。一箇所は決まっているが、もう三箇所は決まっていない。王都内で設置可能な場所かつ干渉の恐れがないと考えられる距離で考えなくてはいけないので、ここはしっかりとセレーネとラングリドで話し合う必要がある。


「なるほどな。大体分かった。次は輸送元輸送先の街に関してだ。これが現在の候補となっている」


 セレーネはラングリドから紙束を貰う。そこには街の名前と産業などが書かれたものだった。ここら辺を読んで知っておけというラングリドからの命令に近い。


(後でカノンに教えて貰おっと)


 こういうときに頼りになるのがカノンである。分からないと思えばカノンから教えてもらえば良いのだ。


「それと……この事業はうちで行う事になった」

「へぇ~、頑張って」

「…………」


 国家事業になったが、これを進めていく上で役人が担当者となる必要がある。開発者が娘にいて、空間転移装置を管理する上での情報を得やすい立場という事もあり、ラングリドに白羽の矢が立つのは当たり前だった。


「セレーネも会議に出席して貰う事になるかもしれないぞ」

「えぇ~……」


 本気で嫌そうな顔をするセレーネに、ラングリドは深々とため息をつく。


「お前は開発者だ。ある程度会議に出席して貰わねば困るだろう」

「むぅ……」

「セレーネ。論文では不明瞭な部分をある程度説明すれば、それだけで済むから。開発者であるセレーネからしか得られない情報が多すぎるの。安全面の説明とかをしっかりとして、使い方のマニュアルの製作までしないといけないの。事業にするという事はそういう事」


 ミレーユからそう言われると、膨らんだ頬が元に戻りつつ嫌な顔をしていた。ミレーユの言う事がその通りなので反論しようにも出来ないのだった。


「マニュアル……うん。それは作っておくよ。後は、空間転移装置の生産だけど、数が多いから時間が掛かるよ? 特殊な錬金釜が必要だし」

「ああ。今すぐに転移装置を作る必要はない。こちらでも職員を集めて転移装置以外の輸送路と輸送手段の確保、冷蔵庫などの保管設備の設置等々とやる事が多い。ゆっくりで構わないが、なるべく早めに作ってくれ」

「は~い。単位に追われないで良いから時間はあるしね」


 こうしてセレーネの大規模事業への参加が決まった。セレーネ自身の意思によるものであり、セレ-ネのお金にもなるのでしっかりと仕事をこなすつもりでいた。

 まずは、その一番の問題である材料問題を解決するため、シローナと相談する事になる。

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