検証結果
それから二日掛けて、セレーネは【空間転移】の魔術道具を作り上げた。五枚の魔術結晶重ね合わせて、枠組みに入れる事で多重魔術陣として構築している。大きさは人一人が上に乗れる程度。大型化なども視野に入れているが、現状はこれで転移が上手くいくかどうかが問題となる。
屋敷の一室に設置し、もう一つを持ったセレーネはカノンと共にレッドグラスへと向かった。そして、レッドグラスの別荘にて、魔術道具を設置する。
「よし。これでオッケー。枠組みに魔力を集める力を持たせているから、向こうでも問題なく起動するはず。よし!」
セレーネは、二重三重にチェックを重ねてから魔術道具に乗る。事前に強度チェックをしておいたので、この上で跳びはねても問題ない事は分かっている。そもそも魔術結晶が壊れないように上に蓋を付けているというのもある。
「じゃあ、転移してくるね」
「はい。お気を付けて」
セレーネは魔力を流して、座標を屋敷に設定。そのまま起動させる。十秒の転移待機時間の後に、セレーネの姿は掻き消えて、王都の屋敷へと転移した。転移先には、フェリシアとマリアが待機していた。
「どうだった?」
「こっちでは問題ないわよ。セレーネが魔術道具を起動させた時に、こっちの魔術道具も呼応したかのように光っていたけれど、それは仕様よね?」
「うん。転移する時が分かり易いようにミーシャちゃんと改良したの。転移に掛かる時間も分かり易いでしょ?」
「うん。ぴったり十秒だったから、向こうの起動とのズレはあまりないと思うよ。セレーネの魔力はどう?」
「消費されてないから、周囲から魔力を問題なく集められてるね。こっちでもそういう問題は無かった?」
「うん。そういうのはなかったかな」
「了解。じゃあ、何度か転移して問題がないか調べるかな」
セレーネが往復で四回転移した瞬間、セレーネの足元でガラスが割れるような嫌な音が聞こえてきた。
セレーネが蓋を開いてみると、内部で魔術結晶が割れているのが分かった。
「四往復で割れた? 何で?」
「魔術陣が崩れたという訳ではなさそうですね。単純に結晶自体の耐久でしょうか?」
「結晶が割れる理由……魔力の枯渇……はないか。それで割れるようなものじゃないし。単純に転移そのものに耐えられる結晶じゃなかった?」
「削っているのが原因では?」
「あぁ……それはあるかも。それに層構造が駄目なのかな。でもなぁ……層構造は魔術陣への書き込みやすさを考えての方法だからなぁ。取り敢えず、もう一回同じ方法で作って確かめよう」
「はい」
一回だけの失敗では、原因を決めつけるのに情報が少ないので、もう一度同じ方法で作り検証をする事にする。これも四往復で割れれば、この製法に問題があるという事になる。しかし、これで割れるまでの回数が変わるのであれば、別の原因があるとも考えられるからだ。
セレーネ達は即座に王都に戻る。魔動列車を待つのが面倒くさいと思ったセレーネは、カノンを連れて【空間転移】で王都の屋敷まで戻った。
「セレーネ、こっちの魔術結晶も割れてる。全体が割れてるから、どの魔術陣が原因かは分からないよ」
セレーネが唐突に現れたのにマリアは一切驚きもせずに状況を伝える。セレーネなら【空間転移】で戻ってくるだろうと見抜いていたからだ。
「こっちも同じ。これからまた同じように作って同じように壊れるかの検証をするから」
「了解。素材が足りなくなりそうだから、シローナ様に注文してくるね」
「うん。ありがとう」
マリアはシローナに魔術結晶の素材を注文するために部屋を出て行った。セレーネは、レッドグラスから持ち帰った魔術道具とここで壊れた魔術道具を見比べて、どこかに相違点がないか確かめる。
「割れ方に統一性はない。全部バラバラだ。でも、魔術陣自体が崩壊したようなものはない。う~ん……やっぱり魔術陣に不備はなさそうな気がするなぁ」
セレーネはそう言いながら【空間倉庫】に魔術道具を投げ入れて、新しく【空間転移】の魔術道具を一式作りに向かう。二日掛けて同じように作った後、これまた同じように検証を行う。今回は魔動列車は利用せずに【空間転移】で移動して行う。
今回は五往復で魔術結晶が割れた。本格的に理由が分からなくなったので、そこから一週間掛けて、全部で四つ作ってから検証する。その結果、四往復と六往復で魔術結晶が割れた。
「う~ん……何でズレが生じるんだろう……距離は変わらないから、距離による変化じゃない。質量は私だから変わらない。後は……」
「転移頻度でしょうか?」
根本的解決のために呼びだしたミーシャがそう言うと、セレーネは大きく目を開いた。
「それだ! 五往復と六往復の時は、魔術結晶の状態を確かめるために少し時間が開いた時があった。でも、四往復は、ほぼ連続で転移してた。つまり転移する度に負荷が重なって割れた?」
「そうですね。転移する度に生じる負荷が次々に重なり合う事で、魔術結晶が耐えきれなかったのかもしれません。通常の魔術結晶では起こり得ない事です」
「でも、【空間転移】は魔力消費が激しい魔術。常に発動していて、いざという時に魔力結晶から魔力を回収出来る設置型【空間倉庫】とも条件が違う。同時に割れてるから、転移という現象そのものの負荷が大きいとも考えられる。通常魔術ならともかく、魔術道具として使うには、少し工夫が必要になるかな……」
空間を超えるという現象を起こすために必要な魔力。その量が多いという事が、今回の失敗に繋がっているとセレーネは考えていた。転移する度に魔力の大量消費が重なり、これが負荷となって魔術結晶を割ったという事だ。
また、次の仮説として転移という現象そのものが大きな負荷を伴っているというものあった。これに関しては、それがどのように魔術結晶へと負荷を与えているのかが分からないので、セレーネは最初の説が正しいものだと考えている。
「はい。これは私も想定外でした。素材的には最良のものだと思いますが、これ以上のものとなると……」
「そもそもコストが大きすぎって話ね。取り敢えず、現状のままで解決策を探そう。魔力結晶を付けるって言っても、毎回補充しないといけないんじゃコスト面での問題は同じになる。だから、魔術結晶を小型化して機能を実装出来ないか模索しよう。ミーシャちゃんは、大型の錬金釜の用意をお願い出来る?」
「多重魔術陣を完全に封じ込める訳ですね。分かりました。私の方でも色々と解決策を考えておきます」
「うん。お願い」
実際に作らなければ分からなかった落とし穴。セレーネはその落とし穴を解決すべく奮闘する。




