【空間転移】魔術道具製作
陽射しが強くなり、気温も上昇した頃。シローナが大量の素材と一緒に帰ってきた。そして、リーシア、ミーシャと一緒に屋敷の実験室で素材の受け渡しをしていた。
「わぁ……またドラゴン?」
セレーネは見覚えのある素材を見て訊いた。
「うん。お母さんが無茶な注文ばかりするからね。これはお裾分け。セレーネちゃんにはこれだね」
シローナは【空間倉庫】から次々に大きな瓶を取り出す。素材を集める仕事をしているシローナは完全に【空間倉庫】を使いこなしていた。
「これがスライムの身体?」
「うん。ピュアスライムっていうより純度の濃いスライムの身体。酸性が強いから気を付けてね」
「うん。これで【空間転移】の魔術道具が作れるね。ミーシャちゃん、早速作って良い?」
「はい。理論上は、こちらで出来ると思いますが、もしかしたら出来ない可能性もありますので、先に調べておくのが良いでしょう」
セレーネはすぐに錬金釜の準備をして、他の必要な材料を調えていく。そこにミーシャが竜の角の粉末を置く。
「これも使うの?」
「安定剤だと思ってください。これによって内部の魔術陣をある程度安定化させます。竜の素材は安定剤としては、かなり優秀な素材です。成功確率が上がる事でしょう」
「ふ~ん……そうなんだ。どのタイミングで入れれば良いの?」
「魔術陣を含ませた段階で入れます。今回は平らな結晶を複数作り重ね合わせて一つの魔術道具として完成させるという設計です。魔術結晶の強度と厚さの調節をする際に魔術陣が崩壊してしまう事を防ぐという目的ですね」
「そっか。前に実験した時は魔術陣が崩壊したりして大変だったもんね。それを安定化してくれるって事か」
「はい。ですが削り出しは慎重に」
「うん」
この実験は、リーシアとシローナも見学していた。普段のセレーネがどのようにして研究をしているのか確かめるという意味もある。
材料を錬金釜に入れて、魔術結晶を錬金する。この際、魔術結晶の大きさを通常よりも遙かに大きく作る。魔術結晶は小さければ小さい程使い勝手が良い。だが、【空間転移】に関しては、この魔術陣の大きさが重要になるので大きく作る必要があった。
そして、ごつごつとした結晶となって出来た魔術結晶を平らに研磨していく。ある程度の形を決められても、的確に欲しい厚さに出来る訳では無いので研磨をして欲しい大きさにしていく。
「よし! ミーシャちゃんどうかな?」
セレーネはミーシャに最終確認を頼む。自分の中では良く出来ていると思っているが、魔術結晶や錬金術、魔術道具に関しては、ミーシャの方が何回りも上なので自分では気付かないような失敗にも気付いてくれるという信頼からだ。
ミーシャは、念入りに確認をしていく。
「……良いかと」
「やった! じゃあ、次々に作ろう!」
「はい」
セレーネとミーシャは、【空間転移】に必要な五枚の魔術結晶を作り上げた。後は、それを纏める箱作りである。だが、削り出しに時間が掛かったため、この日は作業を終えてミーシャとお風呂に入ってからリーシア達も一緒に夕食を摂る事になった。
「あの魔術道具って二対で機能するんだっけ?」
食事を摂りながらシローナがそう切り出した
「う~ん……ちょっと違うかな。【座標記録】に記入すれば、最大で十箇所に転移出来るよ」
「そうなんだ。結構多いね。輸送業でも営むの?」
「そこはお父様と相談中。これが完成したら、輸送革命が起きるから、色々と事前に準備するって。今はあの大きさだけど、将来的にはもう少し大きなものを作りたいかな。錬金釜の関係で難しいけど、そこもミーシャちゃんと解決の方法を見つけていってるところ。今のところ錬金釜を大きくする感じかな」
「なるほどね。軍事利用されそうだね」
「そこも対策を講じるってさ。私も戦争の道具に使われるのは、あまり良い気分じゃないから、色々と制限を掛けてるよ」
シローナの言う通り、【空間転移】は兵隊輸送に利用出来る。王都から地方へと簡単に人を移動出来るという事は戦力を集めやすいという利点がある。更に言えば、内戦において首都へと一気に仕掛ける事すら可能となる。
この辺りの懸念は、セレーネもラングリドも考えていた。ただ人の輸送もセレーネは利用したいと考えているので、そこの対策は一つだけ取っている。それは転移人数の制限だ。一度に転移出来る数を五として設計している。
そして転移するには、魔術陣の上に何もない状態でなければならないので、連続して転移しようとしてもタイミングを計る必要がある。一気に攻めるには利用しづらい仕様にしていた。
さらに、物資などの輸送用としてしか想定していないので、転送に掛かる時間を十秒と設定していた。連続発動しようとしても出来ず、転移そのものが起動するまでに十秒掛かるので、撤退にも利用しづらい。
これらにより軍事利用しにくい措置を施していた。
「そもそも【空間転移】自体の魔術もセレーネでなければ発動しにくいものですので、論文にする事自体は問題ないとクリムソン卿もお考えのようです。ただ、誰でも使いやすい魔術道具にする上では、対策が必要になると判断されました。
その上で、セレーネは論文自体もあまり詳しく書かないようにするようです。そうすれば、【空間転移】の技術自体がしばらくの間セレーネの独占状態になりますので、危険性が下がるという事です」
話を聞いていたフェリシアが少し詳しく補足した。
論文に記入する内容を制限する事で完全再現させないようにするという対策も取るようにしている。その制限は魔術陣の詳しい説明と魔術道具の詳しい構造に関する点だ。これにより完全再現する事が難しくなる。
論文を読んで研究が出来る者であれば、時間を掛ける事で再現する事が出来るだろうが、多重魔術陣への理解なども必要になるので、かなりの時間を必要とすると考えられた。
「セレーネは、どこに設置するか決めているのですか?」
リーシアは話の内容を別方向へと向けた。あまり暗い話ばかりをする必要もないだろうと考えたからだ。セレーネが笑顔でいる事の方がリーシアにとっては嬉しく重要な事だ。
「ううん。まだだよ。設置出来る場所の選定とかもしないといけないし。実験的にはレッドグラスの別荘にするつもりだけどね」
「なるほど。実験としては良い選択ですね。距離も丁度良いですし、レッドグラスであれば土地の権利者に許可を取る必要もないですから」
「その後はどうしようかなって感じ。輸送業をするとして繋げる街の選定は、色々候補があるんだけどね。そこもお父様と相談してる」
「なるほど。食料の輸送に上手く使えると良いですね。鮮度が大事なものも多くありますから。現状の魔動列車の輸送も革命的ですが、運行数の問題などがありますから」
「うん。でも、余所の運送業に迷惑掛けちゃうよね」
「そこは役割の分担である程度どうにか出来るかもしれません。【空間転移】を用いた輸送は、物資を集めるために利用し、そこからの輸送は他の運送業に任せるというものです。このくらいでしたら、ラングリドも考えていると思いますので、そこまで心配される必要もないと思いますよ」
「そっか。まぁ、まずは【空間転移】の魔術道具を作るところからだね」
「そうですね」
セレーネの【空間転移】魔術道具製作は始まったばかりだ。




