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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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設置型【空間倉庫】

 それから一週間。セレーネは、魔術付与専用情報処理魔術【魔術高速演算まじゅつこうそくえんざん】を開発した。演算速度だけで言えば、【高速演算】の五倍の速度を誇る。

 その速度の分消費魔力が多くなるのだが、輸送用の【空間転移】として使う分には気にならない消費量だ。ダンジョンなどで実用する【空間探知】に使うには、少し重い。

 実験の結果、【空間転移】の発動速度は四分の一まで縮める事が出来ていた。それでもセレーネは不満足なのだが、輸送用としては十分な速度という事で、【最適化演算】に掛けながら論文を書いている。

 その中で、セレーネはミーシャと一緒に自分の実験室に来ていた。見守りとしてカノンも一緒にいる。

 そこで倉庫に使用する【空間倉庫】の魔術結晶を作るためだ。スライムの粘液と基礎魔力水で魔力結晶を増産していきながら、魔術結晶を作るための下準備をしていく。


「多重魔術陣を入れるのなら、もう少し大きなものにする必要があります」

「うん。シローナちゃんのおかげで、素材は十分だし、早速やってみよう」


 スライムの粘液と基礎魔力水を大量に入れていき、そこに設置型の【空間倉庫】の魔術陣を作って入れる。すると、魔術陣の周りに結晶が纏わり付いていき、魔術結晶が出来上がると思われたが結晶が割れた。


「う~ん……ちょっと詰め込み過ぎたかな」

「これ以上簡単に出来ますか?」

「う~ん……ギリギリかな。設置型なら切り捨てられる部分は多いから大丈夫だとは思うけど。魔力を吸収させるための魔術陣の最適化と付属する情報処理の最適化を進めるかな。ちょっと待ってね」


 セレーネは、【最適化演算】を二つの魔術陣に掛けつつ【空間倉庫】の魔術陣を自分で組み替える。その所要時間は五分だった。


「出来たよ。次やろう」

「はい」


 そこから三度の調整を行って、ようやく魔術結晶の生成に成功した。その大きさはセレーネの身長よりも少し大きい。ダンジョンコアよりは小さいものだった。


「う~ん……想定内の大きさだけど、やっぱり大きいよね?」

「いえ、この程度で済んだと考える方が良いかと。セレーネ様が最適化をしていなければ、これの倍以上の大きさになっていた可能性もございますので」

「う~ん……そっか。じゃあ、今度は入口を作ろう」

「はい」


 セレーネは【空間接続】の魔術結晶を四つ作る。こちらも多重魔術陣になるが、二重のものという事に加えて、先程までの経験の蓄積があるために失敗する事はなかった。


「これで四つ目。設置するための装飾を付けて……よし! ここから魔術道具にするだけだね。早速部屋に行こう」

「はい」


 セレーネ達は屋敷から出て、離れとなっている建物に向かう。倉庫にするためにセレーネが建てて貰った新しい建物だ。その中に入ったセレーネとミーシャは、入口の内側四隅に四つの魔術結晶を設置する。身長が足りないので上はミーシャが担当する。


「ちゃんと設置出来たかな?」

「そうですね……いえ、もう少し微調整しましょう」

「うん」


 失敗しないように細心の注意を払いながら、微調整を重ねて二人とも満足した段階で良しとした。四つの魔術結晶を繋げるようにして枠に魔力の導線を通していく。問題なく魔力が通る事を確認した後に次の作業へと移る。

 倉庫の中央に置かれた台座に【空間倉庫】に入れていた【空間倉庫】の魔術結晶を設置する。台座に固定して、台座の一部に魔力結晶を填め込んでいく。

 台座には既に魔術道具として製作済みなので、後は調整を重ねるだけだった。


「これで良し。どう?」

「問題はないでしょう。早速稼働しますか?」

「うん。もしもの時のために、ミーシャちゃんは外で待機してて」

「はい」


 ミーシャは外に出たが、カノンはセレーネの傍に残った。そんなカノンにセレーネを目を向ける。


「カノンも外に出てて大丈夫だよ」

「傍にいます。お嬢様に何かあれば困りますので」

「そっか。じゃあ、起動するね」


 セレーネは最初に魔力を通して魔術結晶を起動させる。起動したのと同時に填めている魔力結晶から魔力を吸収し始める。全ての魔力を座れた魔力結晶は次々に割れていった。

 この魔力を圧縮して、【空間倉庫】が発動する。倉庫内が本来の空間よりも遙かに大きく拡張されていく。

 セレーネが使用する【空間倉庫】とは違い、中央に魔術結晶を鎮座させているので、棚の数は、こちらの方が少ない。だが、同じように冷凍庫などが入っているため、倉庫としての機能は十分以上にあった。


「魔力結晶を入れ替えて……」


 セレーネは、魔力を吸い上げられて割れた魔力結晶の代わりの魔力結晶を填め込んでいく。初期起動に魔力を大量に使うので、予備用の魔力結晶も使う事になるのだが、これ以降は周囲から魔力を吸収する機構により基本的には維持される。


「魔術結晶に問題はなし。台座も全て正常。棚の強度は?」

「問題ありません」

「後は温度の確認と入口の確認」


 そう言ってセレーネが入口を見ると、ミーシャが扉を開けて確認しているところだった。セレーネはミーシャの元に向かう。


「どう?」

「問題はありません。魔術が破綻するという兆候も見えませんので十分に機能しているものと思われます」

「了解。じゃあ、温度確認ね」


 確認事項を次々に消化していき、全てが問題なしという結果を得られた。


「一番の懸念点だった入口の維持も本当に問題ないね」

「はい。内部の構造も想定通りなので成功で良いかと」

「やった! それじゃあ、後は経過観察だね」

「はい。入れる物は最低限にする方が良いでしょう」


 これからどうなるか分からないので、倉庫に入れる量は最低限にしておく。これによって、空間が崩れる等の事故が起きても被害は最小限で済む。


「カノン、それぞれの場所の保存状態を見たいから、全部に物を入れてくれる?」

「はい」

「ミーシャちゃんありがとうね。おかげで、起動は上手くいったよ」

「はい。私もしばらくは経過観察として見に来ます。今日はここら辺で失礼します」

「うん。またね」


 ミーシャに手を振って別れたセレーネは、部屋に戻る。この設置型【空間倉庫】を纏めるためだ。その間にカノンが倉庫に物を入れていく。後はこれらの保存状態が、セレーネ自身が使う【空間倉庫】と同一かどうかが重要になってくる。

 空間維持と合わせて、そこの観察もしないといけない。そのため論文の提出はまだまだ先になる。この間にセレーネは他の研究を進めていく事にした。【空間転移】の魔術道具開発と情報処理魔術の研究をしながら論文を仕上げていった。

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