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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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【空間転移】の開発

 セレーネは、開発中の魔術を【空間転移】と名付けた。他に相応しい名前が出来るかもしれないと先延ばしにしていたが、結局はこれが一番分かり易いというところで落ち着いたのだ。


「う~ん……やっぱり複雑過ぎるなぁ……」

「まぁ、多重魔術陣なんだから、複雑なのは当たり前じゃない?」


 セレーネの後ろで掃除をしていたマリアが、セレーネの独り言に反応してそう言う。


「でもさ、咄嗟に使えないとなると、本当にただの移動魔術でしかないんだよ。物資の輸送魔術としても優秀だけど、もう少し緊急時の回避とかに使えるようにしたいんだよね」

「そんな高望みしてたら、完成するものもしないでしょ? これまでがそうだったみたいにさ」

「妥協はするけど、諦めたくはない」

「何じゃそりゃ……というか、戦闘中なら【空間接続】の方が良いんじゃないの? 回避にも攻撃にも使えるでしょ?


 【空間接続】は、二点の座標を繋げるもの。なので、魔術陣を通ればその場所に移動でき、その魔術陣に向かって魔術を放てば、その先に魔術を飛ばす事が出来る。マリアからすれば、突然背後から飛んでくる魔術などの方が怖い。

 加えて、【空間接続】も【空間転移】も飛ぶ先に魔術陣が出来る。そのため、移動する先が予測可能となるのが弱点になる。それを考えれば、自分が移動するのか魔術が飛んでくるのか分からない【空間接続】の方が利点は多い。


「むぅ……じゃあ、【空間転移】で魔術を飛ばす」

「どっちの方が魔力の消費が少ないかなぁ?」

「むぅ……じゃあ、まずは輸送だけで考える」


 セレーネも少し無理があると感じていたので、ひとまずは輸送だけを考える事に決めた。どうしても頭の中をチラついてしまうのだが、それを意識しないように気を付ける事にした。


「うん。それがいいよ。でも、一番の問題は魔力の消費量でしょ? 魔力結晶による補助も厳しくて、魔術結晶として収めるとしたら素材が厳しいんだっけ?」

「うん。ミーシャちゃんと相談中。シローナちゃんが持って来てくれる素材でも厳しいから、本当にダンジョンコア並みのものが必要になるってさ。ただ【空間倉庫】を屋敷に作るって話をしてるでしょ?」

「そうだね」


 現在、【空間倉庫】を屋敷の一室に付けて物置を拡張しようという話が本格的に進んでいる。セレーネが魔術薬の実験などで作ったものが多くなってきているのが理由だった。


「魔術結晶を四つ作って、それを連結させる事で入口の維持をするんだっけ?」

「うん。本体となる魔術結晶とは他にね。入口の形成を他に任せる事で本体の魔術結晶の負担を減らすのが目的だね。本体の魔術結晶には、情報処理魔術で空間の維持を支持し続けるのと同時に周囲から魔力を吸って空間を維持する機構を取り付ける予定。魔術結晶への魔力補充が常に働くから、半永久的に動くよ」


 これらもミーシャと相談して詰めていった内容だった。ほとんどのアイデアはセレーネのもので、ミーシャはそれを実現可能にするために細かいアドバイスをしていただけだった。


「魔力を吸収させるっていうのも凄いよね。まぁ、魔術結晶の魔力補給しか出来ないみたいだけど」

「うん。自分の魔力にするのは無理だね。吸血した時と同じような感覚で出来ないかと思ったけど、あれは血に含まれる魔力を自分のものにしているだけで、魔力を吸っているっているのとは違うから。一応、予備の魔力として魔力結晶を置いておくけどね。緊急時にしか使わないように設定するけど」


 セレーネは、【空間倉庫】の維持のためにいくつかの備えも考えている。それが実現可能かどうかは、ミーシャのお墨付きだった。なので、細かいところを詰めていき、実際に作る事が出来れば良いというところまでは来ていた。


「成功したらレポートで出すの?」

「う~ん……そうだね。先生に相談したら、ここからは私の好きに発表して良いって言われたから。一応【空間接続】対策も考えてあるからね」


 これに関しては、セレーネ達が元気にしている確認するために遊びにきたレイアーに相談済みだった。ミルズと相談した結果をレイアーから聞いて、これから先の論文発表に関しては、セレーネの裁量に任せるという事になった。

 これらは、セレーネがレイアーに持ち帰らせた【空間接続】対策のレポートがあったのが大きい要因だった。


「単位になるといいね」

「うん。じゃあ、実験するから、マリアの部屋に行ってて」

「了解」


 マリアが自分の部屋の入口に待機していると、部屋の中央にセレーネが現れた。


「転移まで五秒……掛かりすぎだなぁ。魔術陣の構築時間も含めたら十五秒くらいだから、本当に戦闘に向かないなぁ。輸送するにももう少し早い方が良いよね?」

「まぁ、早いに越した事はないだろうね」

「発動までの時間が長いのは何でなんだろう……座標は事前に決めてるし……やっぱり転移そのものの特徴になるのかな……」

「前に話してた安全措置が邪魔してるんじゃない?」

「あっ……そっか。安全措置か……でも、外したくないんだよね……仕方ない。安全確認を手早く行えるようにしよう」


 【空間転移】には、一つの安全措置が付けられている。それは転移先の座標に異物がある場合に、【空間転移】そのものが発動しないようにするというものだ。座標上の空間を調べるために情報処理魔術で、空間内の分析を行って判別している。

 その判別の処理が遅いのだとセレーネは考えていた。


「分析速度を上げるとなると、【高速演算】の更に上を作るかな」

「処理速度を上げるって、そんな簡単に出来るものなの?」

「うん。私が使う事を考えなければ、上のものは作れなくないよ。【空間探知】の速度は普通の【高速演算】よりも少し早くしてるしね」

「そうなんだ。早くし過ぎるとどうなるの?」

「魔術が変な挙動をしたり処理した情報を表示するためにする処理がパンクするかな」

「結局そっちも合わせないといけなくなるって事ね。消費魔力を考えたら今くらいのが丁度いいんだ?」

「うん。今でも十分早いからね。分析結果で二択を出すだけだから、一つだけで十分っていうのもあるかな」


 処理した情報から地図を作り出すための処理というフタルの処理をしないといけない【空間探知】と比べて、空間上に何かないか調べて発動するか中断するか選択するだけであれば、最初の処理だけで十分だ。

 なので、セレーネは更なる演算速度を求めてマリアのベッドに寝転がって魔術陣の改良を始める。マリアは、特に気にした様子もなくベッドに腰を掛けて、セレーネの頭を撫でていた。

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