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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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どんでん返し

 セレーネから眷属化への大幅な条件付けを聞いたスピカは、目を丸くしていた。


「も、もう対策をしたのですか?」

「うん。もう構想があったから」

「なるほど……さすがは、セレーネ様です。ちゃんと対策を立てられて良い子ですね」


 スピカが頭を撫でると、セレーネは嬉しそうにスピカに抱きついた。


「あっ、そうです。セレーネ様にも報告したい事がありまして」

「何?」


 セレーネは少し緊張しながら訊く。これで教会から追い出されたなどとなったら、セレーネの責任でしかないからだった。


「聖女になりました」

「え?」


 スピカの軽い報告に、セレーネだけでなくカノンやフェリシアも驚いていた。それだけ重大な報告だったのだ。


「えっ!? 何で!?」


 スピカが眷属になったのは二日前。教会に報告したのは昨日。そして、今日になって唐突に聖女になったと言う。セレーネが驚かない理由がなかった。


「元々教皇様は、私を聖女にするつもりでいたようです。今回の出来事で、少々困惑と混乱をなされたようですが、聖女の条件を満たしており、現在聖女を必要としているという事もあって、今日任命されました」

「任命されるだけなの?」


 もっと大きな儀式があると思っていたセレーネは、ただ任命されるだけで聖女になったという事にも驚いていた。


「いいえ、略式ですが洗礼を受けています」

「略式? あ、そういえば、さっき聖女を必要としているって」

「はい。一週間程前になりますが、別の地域で災害が起こりました。現在救助活動などが行われているようですが、治癒師が足りないという事から、教会に聖女を派遣するように要請があったのです。なので、私を聖女として洗礼を施し派遣する事になりました。その他治癒師と共に向かいますので、明日出立します」


 大規模な災害が起きた際、怪我人の治療をするために複数の街から治癒師を派遣する事になる。だが、今回の災害では、それでも足りないと判断され、教会に大規模な治癒を行う事が出来る聖女の派遣が要請された。

 聖女は、絶対に一人しかいないという訳では無い。聖女が一人しかいないとなると、聖女が高齢になった際に遠くへの派遣が難しくなる。だが、聖女が多くなりすぎると、聖女の有り難みなどが薄れるため、最大三人と決められていた。

 ただ、それ以上に聖女の魔術を扱える者が圧倒的に少ないので、任命される者がほぼいない。これもあり現在は一人の聖女がいるだけだった。

 スピカが次代の聖女と呼ばれていたのは、この聖女の魔術を扱える可能性が高かったからだ。加えて回復魔術への適性が高いというのも大きい。


「明日出立……急だね」

「必要であれば、赴くのは当然です。私はそのために教会に入っているのですから」


 スピカは笑いながらそう言う。本音で言えば、今すぐにでも向かいたいところだが、こればかりは自分勝手に動いてはいけない。自分一人だけで向かう事でも状況を改善させる事が出来るかもしれないが、教会に所属する治癒師を連れていけば、それだけ改善出来る大きさが変わってくる。

 その日の夜はカノンと過ごし、そのままセレーネ達に見送られてスピカは被災地へと向かった。


「スピカ大丈夫かな……?」


 スピカの姿が見えなくなったところで、セレーネが呟く。


「大丈夫でしょう。既に災害は収まっているのだし」

「ええ。手紙によれば、ナタリアとベネットも向かっているようですから」

「そうなの?」

「はい。ベネットの部隊が復興に携わる事が決まったので、そのままナタリアも同行して災害の原因などを調べるらしいです」

「ふ~ん……カノンも行く?」


 セレーネは、スピカが少し危ない場所に向かっているので、恋人であるカノンは心配だろうと思い提案した。


「いえ、私はお嬢様の従者ですので。スピカもそれを望んでおります。お嬢様の側にいるという事を」

「そっか。分かった。じゃあ、スピカが無事に帰ってくるのを待ってよう」

「はい」


 セレーネ達は屋敷へと帰り、それぞれの研究を進める事にした。その中で、セレーネはフェリシアの研究を覗いていた。


「ふ~ん……氷の結界……結界で範囲限定して、その内側を極低温にする。その熱の一部を自分に送って体温を維持して、結界の外にも熱を逃がす事で極低温を実現。結界の物理要素を消す事で割られる可能性をゼロにする。本当に【低温空間】を進化させたんだね」

「ええ。マリアにも付き合って貰って出来たわ。まぁ、まだ温度調節が上手く出来ないから、色々と調整する必要があるのだけどね」

「でも、凄いと思う。私はまだ転移の構想が上手く出来ていないから、そこからやらないと」

「この二日で色々とあったものね」

「むぅ……悪かったよぉ」


 この二日やらかしたという事もあって、セレーネはスピカにくっついていた。そして、ずっと放置されていたフェリシアは、少し拗ねていた。

 それを詫びる意味を込めて、セレーネはフェリシアの膝に乗って抱きついて過ごした。

 その翌日から、セレーネは本格的に転移の研究をしていく。


(【高速演算】で何度か考えていたから、割と構想の仮組みくらいは出来てるんだよね。まぁ、どう考えても実現不可能な仮組みだけど。問題はダンジョンで見た魔術陣。あそこに転移の秘密があるはずだけど、改めて見て見ると前面に出ているのは情報処理魔術。そのせいで奥の転移魔術陣が見えなかったんだよね……空間を移動する。それは接続でも出来る。そして、置換だと色々と問題が起きる可能性がある。理想は送り出し。

 まぁ、こっちもこっちで問題がある。送る先に物体があった場合にどうなってしまうのか。物体同士が融合するという事もあり得る。それが人だった場合、本当に凄惨な事故になってしまうから、そこら辺の安全措置が必要。やっぱり、魔術道具として作るのが安全で良いかな。移動の始点と終点を分かりやすく決めれば、事故を起こす可能性は格段に減る。そこから私が自分で使えるように改良していけば良いかな。魔術道具でも需要はかなり大きくなるだろうしね。

 問題は消費魔力か。魔術結晶にするとしても、必要となる魔力が大きすぎる。魔力を貯蔵出来るような何かが必要になる。魔力結晶でどうにか出来るかな。まぁ、そこら辺は追々考えて、魔術陣から組み立てていこう)


 セレーネはクロを背もたれにしながら魔術陣の開発を始める。この時も【高速演算】は使っている。

 セレーネの大失態により、色々な面で大きな変化はあったが、セレーネはまたいつも通りの日常を送り始めていた。

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