封印の改良
落ち着いたセレーネは、朝ご飯を食べる前にスピカに対して、改めて謝罪した。
「本当にごめんなさい」
「はい。許してあげます」
頭を下げるセレーネの頭を優しく撫でるスピカにセレーネは眉を寄せる。
「スピカは、もう少し怒っても良いと思う……」
「悪意があれば怒りますが、セレーネ様には悪意がありませんから。自分が駄目な事をしてしまったという自覚を持ち、反省する態度も示しており、これから対策も取ろうとしているのを知っていますしね。それなら私からこれ以上言う事はありません。私が言いたい事は既にお伝えしてありますから」
「うん……」
顔を伏せるセレーネをスピカが抱きしめる。
「これからは気を付けてくださいね」
「うん」
「それでは、私は教会にいってきます」
「いってらっしゃい」
スピカは笑顔で手を振りながら教会へと向かっていった。それを見送り、セレーネはフェリシア達と食事を摂り、部屋に戻った。そしてすぐに机に座って、自分の考えをメモしていく。フェリシアは、自分の研究の実験のためにアカデミーの実験室を借りているのでそちらに向かった。それにはマリアが付き添っている。
カノンは、洗濯などの仕事を他のメイドに任せてセレーネに付き添っている。
(眷属化は、対象の身体を吸血鬼の真祖に準ずる存在に変えるもの。だから、皆、日の光に弱くないし、魔力の総量が多くなってる。ここまでは良い。問題は、ここから人に戻る方法がないという事。それを探る……のが難しいなら、眷属化を防ぐ手立てを考えるのが良い)
セレーネは、眷属からの解放を考えるのではなく、これから眷属を無闇に増やさないようにするための手段を考えていた。
「ねぇ、カノン。カノンは獣人としての部分は残ってるんだよね?」
「はい。聴力も身体能力も残っています」
「変化するのは、人としての部分だけ。カノンは、猫人族だから猫の部分が残って他が吸血鬼になってる……だから、猫吸血鬼みたいな状態……人の部分を破壊して吸血鬼に変えていく。だから痛みがある。この破壊と組み替えの部分を考える形かな……封印……リーシアちゃんの封印の分析からしよう」
セレーネはリーシアが施した封印の分析を始める。前々から進めていたので、分析自体はすぐに終わる。
「魔力を封印するためのもの……吸血衝動を起こさないための封印……封印自体はゆとりを持たせてあるから、最悪封印してある魔力も使える……私が見るべきは、封印の魔術陣かな。身体に刻む事で自分の身体に永続して適応している……違う。これは条件起動か。常に発動する必要はないから、これを元にするのが良いかな。吸血時に相手に魔力が流れないようにする。牙を経由した魔力の移動を阻害する。リーシアちゃんに相談したいな。カノン」
「呼んで参ります」
カノンがリーシアを呼びに向かっている間に、セレーネは自分に対する封印の魔術陣を仮組みする。
十分程すると、カノンがリーシアとミーシャを連れてくる。
「セレーネ」
「リーシアちゃん。これって出来る?」
セレーネは、すぐにリーシアにメモを見せる。リーシアは、セレーネの頭を撫でながらメモを見ていく。
「なるほど。条件起動で魔力を渡す事を封じるですか……魔力を牙から送らなければ、眷属化は進みません。それを利用するつもりのようですね。私に見せているのは、私が施した魔力の封印に干渉しないかの確認という事ですか。この構想は、私の封印に加える形で進める形ですね」
「うん。出来そう?」
「そうですね……少し時間を下さい。改良します」
「うん」
リーシアが組み立てている間に、セレーネは眷属から解放を考える。
(人の因子を吸血鬼の因子に変える。その逆をすれば良いだけ……でも、それを魔術的にする事が難しい。これは真祖の力で魔術の力じゃないから。魔術で変えているのなら、まだ方法を見つける事は出来ただろうけど……因子の破壊そのものが魔術としてどう組み立ててれば良いのか分からないから、そこを見つける必要がある。
スピカは、回復魔術で抵抗出来たと言っていた……破壊は細胞を破壊している? ううん。細胞の破壊が吸血鬼への入れ替えになるというのはよく分からない。細胞の入れ替え? 違う。因子があるのが細胞と考えるのが一番かな。でも、細胞を観察した話で因子がある事を見つけたという話はない。
つまり、目視出来ないもの。細胞内に存在する魔力の変質? でも、それだと人の部分が変わるという話がよく分からない。この考え自体が間違い? 因子の入れ替え……植え付け? 人の部分破壊している訳では無く、人の部分に寄生させている? いや、違う。人の部分とかじゃなくて、身体の全てに吸血鬼の因子が共存している状態が眷属なのかも。
だから、人族は、これといった特徴を持っていないから完全に吸血鬼になったみたいになるし、カノンみたいな獣人とかの因子を持つ人は獣人の要素を持ち合わせた吸血鬼になる。そっちの方があり得る? そうなると、吸血鬼の因子だけを取り除く手段を見つけるだけで良い……って、それが分かれば苦労なんてしないか……)
取り敢えずのメモをしていると、リーシアが封印の改良を終えた。
「セレーネ。ここで封印してしまいます。まずは服を脱いで下さい
「うん」
セレーネがカノンに手伝って貰って服を脱いでいる間に、リーシアは自分の手首に刃物を突き刺して血を流す。そうして流れていった血が魔術陣を形成していった。
「どうやってるの?」
「血液を操っているだけです。水を操るのと同じですよ。その中央に立って下さい」
「うん」
セレーネは言われた通りに中央に立つ。
リーシアが血液に魔力を通すと、血液が光ってセレーネの紋様も光り始めた。直後に紋様が崩れていきなくなる。そして、なくなった紋様があった場所をなぞるように魔術陣を形成していた血がセレーネを縛り上げた。
「っく……」
実際に縄で縛られたような感覚を覚えながら、セレーネは立ち続ける。セレーネを縛る血はセレーネの身体に吸い込まれていき、また紋様となった。
セレーネは、今までと変わらない紋様を見て首を傾げる。
「これで変わったの?」
「はい。紋様はあまり変えていません。強いて言えば、少し濃くなったくらいです」
「ふ~ん……そうなんだ」
全身の紋様を見ているセレーネに、カノンが服を着せていく。
「これで眷属化出来ないようになったの?」
「はい。規定値以下の魔力は通らなくなりました。なので、眷属化自体は出来ます。かなりの量の魔力を使用しなければ、牙から魔力を送り出すという事が出来ませんので、寝ぼけて眷属化するという事はほぼなくなるでしょう」
「それってどのくらい?」
「セレーネの魔力の三分の一程です」
「それなら大丈夫かも……」
リーシアとしては、完全に眷属化を封じる事は反対だった。これから共に添い遂げたい相手が増えた時に困るだろうと考えたからだ。
「これからは気を付けるようにしてください」
「うん。ありがとう」
「いえ。可愛い子孫のためですから」
リーシアはセレーネの頭を撫でてから部屋を出て行く。ミーシャもセレーネを抱きしめてから部屋を出た。こうして、セレーネの眷属化の発動条件は厳しいものとなり、スピカのような被害が出る確率は格段に減ったのだった。




