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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
先祖返りの真祖

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突然の訪問

 カノンに叱られた結果、そこそこの速さで走る事になった。それでも、セレーネにとっては楽しいと思うのに十分だった。因みに、大黒猫の糞問題は、庭の一角に埋めるのであれば可という事になった。


「問題は、掘った後の土汚れなどですね」

「にゃ~」

「はぁ!? 魔術が使えるぅ!? あなた、どんだけ頭が良いの!?」

「この子達の中では普通とかじゃないの?」

「いえいえ、とんでもありません。確かに大黒猫は頭が良いですが、魔術を使える程の知能はないと言われています。この子が異常なまでに頭が良過ぎるのです」

「にゃにゃ~」

「簡単な魔術くらいだって? それでもおかしいから」

「凄いんだね」

「にゃ~」


 セレーネに褒められて、大黒猫は嬉しそうに鳴いた。自分の常識が覆されて、カノンは小さくため息をつきつつ、セレーネのベッドを粘着カーペットクリーナーで掃除する。その間、セレーネは大黒猫から降りて、互いに追いかけっこをして遊んでいく。

 そんな風に過ごしていると、カノンと大黒猫が扉の方を向く。そこから五秒後、部屋の扉が勢いよく開いた。そこにいたのは、長い茶髪と茶色の瞳をした少女だった。ここまで走ってきたのか、軽く息が乱れていた。


「マリア……」


 セレーネが驚きながら呟くと、マリアがセレーネを見る。すると、マリアは涙を滲ませながらセレーネに近づき抱きしめた。


「セレーネ……良かった……」

「マリア、何で、ここにいるの?」

「セレーネの身に何かあったのが分かったから……急いで、魔動列車に乗ってきたの。セレーネが死んでいないのは分かっていたけど、心配で……」

「そうなんだ……ありがとう、マリア。でも、後ろでサマンサが怒ってる」

「はっ!?」


 マリアがサッと振り返るのと同時にサマンサによる拳骨が振り下ろされた。


「あなたは何をしているの!?」

「うっ……いや、だって、セレーネが危なかったら駆けつけたいと思うのは普通でしょ!? これでも眷属なんだもん!」

「なんだもんじゃありません! 学園は!?」

「休むって言ってきたから大丈夫」

「大丈夫じゃありません! お嬢様に仕える以上、高等部は卒業するという約束でしょう!」

「うっ……せ、成績的には問題ないし……高等部は後二年で卒業出来るし……」

「それは言い訳になりません! お嬢様と少し話したら、すぐに戻りなさい! 良いですね!?」

「…………は~い」


 渋々頷いたマリアに、サマンサは小さくため息をつく。


「はぁ……お騒がせして申し訳ありません」


 サマンサは、セレーネに頭を下げる。


「ううん。私は、マリアが来てくれて嬉しいよ」

「それは良いですが、それとこれとは話が異なります。マリアのためにもこれは必要な事ですので」

「うん。よく分からないけど」

「はぁ……取り敢えず、奥様には報告しておきます。帰りの便の切符も購入しておきます。今日中に学園に戻りなさい。良いですね?」

「は~い」


 サマンサは、セレーネとマリアが話す時間を設けるために、ある程度遅めの切符を買いに向かった。ここはセレーネとマリアを二人きりにすべきだろうと判断したカノンは、大黒猫を連れて部屋の外に出る。

 二人きりになったところで、マリアは再びセレーネを抱きしめる。


「本当に無事で良かった。一体何があったの?」


 セレーネは、昨日今日起きた事をマリアに伝える。すると、マリアは拳を握る。


「そう……無事とはいかなかったのね」

「うん……でも、私は生きているだけマシだと思う。命を奪われた人もいるから」

「そうだね。それじゃあ、セレーネはその人達の分も生きないとね」

「その人達の分も……うん。そうだね。ねぇ、マリア。マリアに……訊きたい事があるの」

「何?」

「マリアは……」


 セレーネは、ここで言葉に詰まる。自分がずっと気にしていた事。これを訊いても大丈夫なのか。ここで拒絶されてしまうのではないか。そんな事が頭の中で渦を巻いていた。

 先程のマリアの言動などを考えれば、そんな事にはならないと考えられるが、絶対という事はない。だが、ここで訊かなければ、ずっともやもやとして過ごす事になる。だからこそ、セレーネは改めて決心した。


「マリアは、眷属になって良かった?」

「うん」


 マリアは、間髪入れずに答えた。そのためか、セレーネはその答えを飲み込むまでに時間が掛かった。


「え? 良かったの?」


 思わず、聞き返してしまう。それに対しても、マリアは頷く。


「うん。まぁ、最初は驚いたし、人と違う存在になってどうしようとか思っていたけど、吸血鬼や眷属について調べるにつれて、このままでも良いかって思うようになったの。私がいなくなったら、セレーネが一人になるかもしれなかったしね」

「でも、マリアのやりたい事も出来なくなるかもしれないんだよ?」

「別に眷属になったからって、やりたい事が出来ないとは限らないでしょ? セレーネの傍に常にいないといけないわけじゃない。それは、不本意だけど、今回の事でも分かった。本当にやりたい事があったら、セレーネに許可を取ってやればいいだけの話なんだよ。まぁ、私は、セレーネに仕えるつもりだけどね」


 マリアはそう言って微笑む。それだけでもマリアが本心を語ってくれているのだろうと考えられる。

 セレーネは、自分とその力を受け入れてくれていたと知り、自然と涙が零れてきた。


「あらら、泣かないで。私はセレーネの眷属になれて良かった。本当にそう思ってるよ」

「うん……ありがとう……」


 セレーネは、しばらくの間マリアの胸の中で泣き続けた。一分程泣いてから、セレーネは離れる。まだ鼻を啜っているが、新しい涙は出て来ていなかった。


「そういえば、さっきのメイドさん。あの人も眷属にしたの?」

「えっ? 分かるの?」

「セレーネの眷属なら、ある程度はね。あっちも何となく分かったんじゃないかな」

「うん。カノン。私のメイドなんだけど、昨日の夜に色々あって眷属になって貰ったの。あっ! け、喧嘩しちゃ駄目だよ? 二人とも大事な人なんだから」

「ん? うん。喧嘩なんてしないよ。同じ眷属なら、ちゃんと挨拶しないとなぁって思っただけだよ」

「それなら良いけど……」


 セレーネの心配は、眷属同士の諍いだった。もしかしたら、新人眷属をいびるなどもあり得るのではと不安になったのだ。だが、マリアにそのつもりはなかった。セレーネが選んだ相手なら、大丈夫だろうという信頼があったからだ。

 カノンについて訊いたのも、マリアが言った通り、挨拶はしておかないと失礼になるかと考えたからだった。


「カノン!」


 セレーネが少し声を張ってカノンを呼ぶと、即座にカノンと大黒猫が部屋に入ってきた。大黒猫は、すぐにセレーネの傍に来て丸くなる。


「お呼びでしょうか?」

「マリアが挨拶をしたいって言うから」


 それを聞いたカノンの脳裏に、様々な考えが流れていく。


(何だろう……私が何かしちゃった? いや、待って……私、お嬢様の眷属になったよね……マリアさんが同じ眷属である事は何となく分かる。私に分かるって事は、マリアさんも分かっているはず。つまり……新人いびり……! この職場ではなかった事だけど、まさか、ここで経験する事に……)


 カノンは少し緊張しながら、マリアと向き合う。そんなカノンに対して、マリアは軽くお辞儀をする。


「初めまして。私は、マリア・バーミリオン。ご存知でしょうが、セレーネの眷属をしています。よろしくお願いします」

「は、初めまして。カノン・アガットです。セレーネお嬢様のメイドをしています。眷属としては新参者ですが、よろしくお願いします」


 思っていたよりも友好的な挨拶だったので、カノンは少し安堵していた。マリアとしても、友好的な挨拶をしようとしていたので、すれ違うこと無く済んでいた。


「そうだ。マリアは、サマンサの子供なんだよ」

「あっ、そうですよね。同じ家名ですから」

「はい。バーミリオン子爵家の長女です」

「え? 子爵家?」


 カノンは、目を白黒させながら驚いていた。サマンサも含めてバーミリオン家が子爵位を持っている事を知らなかったからだ。


「はい。バーミリオン子爵家は、代々クリムソン侯爵家に仕えていますから、あまり知られていないかもしれないです。お母さんも普段は一メイドとして働いているだけですから。レッドグラスの管理も本来はバーミリオン家がやっているのですが、セレーネの事情もあり、一旦こちらにいた方が良いだろうと判断されて、一時的にミレーユ様が管理されているのです。なので、お父さんは王都にて、別の仕事をしています。一応、ミレーユ様から報告書が届くので、街の状況は把握していますね」

「な、なるほど……」


 これに関しては、クリムソン家の当主であるラングリドが決めた事だった。ミレーユが行くのなら、管理をミレーユに任せて一時的に王都で補佐をして貰う。そこで更なる経験を積んでから、レッドグラスに戻るという育成を兼ねたものになっていた。


(お嬢様のメイド……私で良かったのかな……?)


 元々子爵家がセレーネの世話係をしていたと知り、平民である自分がメイドで良かったのかと本気で気にするカノンだった。

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