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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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完全な眷属化

 スピカの状態を確かめるべく、カノンはリーシアとミーシャを屋敷に招いた。フェリシアには、一時的にマリアの部屋に行って貰っている。マリアもフェリシアの側に控えている状態だ。この現状で二人に出来る事はなく、セレーネを落ち着かせるためにも一旦離れて貰う事にしたのだ。

 セレーネがスピカにしがみついて泣きじゃくりながら謝っているのを見たリーシアは、ミーシャに目配せする。リーシアの伝えたい事を察したミーシャは、セレーネに近づいていく。


「セレーネ様。少し落ち着くために、一旦別の部屋に行きましょう」


 ミーシャは優しくセレーネの手を触って、ゆっくりとスピカからセレーネを剥がす。そして、泣きじゃくるセレーネを抱き上げると、別の部屋に連れて行った。今のままだと、セレーネの心が保たなくなるとリーシアが考えたためだ。

 リーシアは、スピカの前に椅子を持って来て座る。そして、ジッとスピカの事を見ていた。


「どうですか?」


 カノンは、リーシアにスピカの状態を訊く。リーシアは、最後にスピカの身体を上から下に見ていく。


「そうですね……かなり珍しい事ですが、半眷属化というところでしょう」

「半眷属化ですか……?」


 それがどういう状態か分からないので、カノンは聞き返す。


「はい。眷属としての力はあります。それはカノンさんも感じていますね?」

「はい。本当に微弱ですが、繋がりはあると思います」

「ですが、それでも半分はまだ人間のままなのです。眷属化に抗いましたね?」


 リーシアは、スピカに確認する。


「はい。回復でどうにか抵抗出来ないかと」

「そのせいで眷属化の進みが遅かったのでしょう。そして、セレーネが目を覚まして牙を外した事で眷属化が中途半端で終わってしまった。今はバランスが取れている位置にいますが、その均衡が崩れれば身体がどうなるのか私にも分かりません。悪い事は言いません。このまま眷属化するべきです」


 リーシアはそう結論付けた。

 眷属化が半端に行われて、人と眷属の狭間の細い線の上で揺れている状態になっているスピカが安全な状態だとは言い切れなかったからだ。現状の均衡が崩れたとすれば、その身体がどうなってしまうのか予想も付かないのだ。それなら安定した眷属になっている方がマシという考えである。


「分かりました」

「スピカ……」

「大丈夫だよ。教会の改革は、大分進められているから。後は私が歳を取らない事をバレないようにして、あっさりと引退すれば良いだけだよ」


 スピカは笑いながらそう言う。教会内で根回しをしているスピカは、順調に味方を増やしており、教会内の腐敗を取り除きつつ、古い体制を改めつつあった。その中には、聖女としての条件なども含まれている。

 スピカの考えでは、既に教皇などの耳にも入っていると思われるので、ここからの妨害の有無によって変わってくるだろうという待ちの状態にあった。


「最悪私が聖女になれなくても、教会の改革が止まる事はないと思いたいかな。それに今のままだと身体が壊れるかもしれないなら、セレーネ様の眷属にして貰った方が良いから。私もセレーネ様に仕えられるのは嬉しいしね」


 これらはスピカが本当に思っている事だった。セレーネに気を遣った訳では無いという事を長い付き合いのカノンは理解していた。なので、これ以上の確認は必要ないと判断し、カノンは黙った。


「では、後の問題はセレーネですね。現状のセレーネでは、スピカさんを眷属にするという事に抵抗感を覚えている可能性が高いです。ミーシャも私と同じ結論に至っている可能性が高いので、ある程度は言い聞かせていると思いますが」

「大丈夫です。私から直接話しますので」


 スピカはそう言って立ち上がる。


「分かりました。私がここにいますので、眷属になりましたら来て下さい。心臓に処置を施しますので」

「分かりました。カノン。案内してくれる?」

「分かった」


 セレーネとの繋がりが薄いスピカでは、どこにセレーネがいるのか分からない。なので、カノンの繋がりを活かして貰ってセレーネがいる部屋まで案内して貰った。

 スピカが部屋の扉をノックすると、


「どうぞ」


 というミーシャの声がした。それを聞いて、スピカは部屋の中に入る。そこでは、セレーネがミーシャに抱きつきながら泣きじゃくっている姿があった。かれこれ十分程泣き続けている。それだけ自責の念が強く感情が抑えられない状態という事だった。


「セレーネ様」


 スピカはセレーネに声を掛けると、セレーネの身体がビクッと跳ねて、ミーシャにしがみつく力が強くなる。そして、ミーシャの肩に顔を押し付けてしまった。今はスピカに合わせる顔がないという状態なのだ。同時にスピカの怒った顔を見たくないという想いもある。その辺りは、まだまだ子供だった。

 そんなセレーネに、スピカは後ろから手を回してミーシャから引き剥がした。


「よいしょっと!」


 身体強化もしているため、セレーネはあっさりと引き剥がされてしまっていた。そのままセレーネを抱っこするが、セレーネはボロボロと涙を零している。そんなセレーネの頭をスピカは優しく撫でて微笑む。


「ちゃんとお話を聞いて下さいますか?」


 セレーネはしゃっくりをあげながら頷く。


「今の私の身体がギリギリのところで均衡が取れている状態らしいのです。このままだと、ふとした拍子に均衡が崩れて身体がどうなるのか分からない状態という事です」


 それを聞いたセレーネは、更に顔をくしゃくしゃにさせていく。


「ごめ……っく……なさ……っく……」

「そうですね。セレーネ様には寝起きの悪さをどうにかして頂かないといけませんね」


 スピカは笑いながらそう言って、セレーネの頭を撫でる。セレーネは何度も頷いて答える。


「それはそれとして、セレーネ様には、私を完全な眷属にして頂きたいのです」

「えっ……でも……」


 セレーネはスピカの目的を知っている。その目的は眷属になると達成しにくくなるという事も。だからこそ、セレーネはここまで自分を責めており、スピカに対して強い負い目を抱いているのだ。


「そうしなければ、私の身体が壊れてしまうかもしれませんから。それに最悪聖女にならなくても目的は達せられます。やり方を大きく変える必要がありますが」

「っく……うん……」


 スピカの命に関わる事と言われれば、セレーネも頷かざるを得ない。スピカの肩に噛み付いて血を飲みつつ魔力を流す。その間、スピカは痛みに耐えつつセレーネの背中を軽く叩きながら頭を撫でる。そして、小さく歌を歌っていく。

 スピカを眷属にしていく間に、セレーネは少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。

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