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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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セレーネの大失態

 アカデミー生になって、一週間が経った。屋敷に研究出来るだけの設備があるセレーネとフェリシアは、アカデミーの研究室に通わずに屋敷で研究を続けていた。

 そこにテレサとルリナがやって来る。眷属の繋がりで二人が近づいて来ている事に気付いていたセレーネは、テレサが部屋に入った直後に飛びついた。


「お姉様!」


 テレサは、セレーネが扉前に待機している事を同じく繋がりで気付いていたので、危なげなく受け止める。


「本当にこっちで研究をしているのね」

「うん! 通う必要がないんだって!」

「そう。少し羨ましいわ」

「テレサ様は、私にお付き合いしてくださっていただけじゃないですか。本来であれば、テレサ様もセレーネ様とフェリシア様同様に屋敷で研究が出来ていたはずです」


 ルリナがそう言うので、セレーネはテレサの胸の中から上目遣いでテレサを見る。テレサはそんなセレーネの頭を撫でながら、セレーネが気になっている事に答える事にした。


「本当の事よ。でも、色々な復習が出来たから、研究も順調に進める事が出来たのよ。私には、ああいった講義がある方が研究がしやすいというだけ。セレーネは、カノンがいるから、そういう事に困らないでしょう?」

「うん!」


 テレサの言う通りなので、元気に頷いたセレーネはテレサの胸に顔を擦り付ける。甘えてくるセレーネを優しくテレサが受け止めている間に、ルリナがセレーネの机の周りを整理していく。


「そうだ。お姉様は、何か用事?」

「仕事でダンジョンの調査に行って来るから、それを伝えに来たのよ。少し遠出になるわ」

「新しく出来たダンジョンとか?」

「ええ、その通りよ。危険性が高いと判断されたら破壊する事になっているわ。ダンジョンはいくつあっても良いけれど、あまりに危険過ぎれば破壊する事になっているようね。ここ何十年かは危険度の高くても、それ以上にリターンが大きいダンジョンが多かったから破壊する事はなかったらしいわ」

「ふ~ん……そうなんだ。出発は?」

「明日よ」

「えぇ~、急すぎ」


 話が本当に急すぎたので、セレーネは不満そうにしていた。それを見て、ルリナが苦笑いする。


「私達も今日言われたので、大急ぎでセレーネ様に報告をしに来たのですよ」

「そうなの?」

「ええ。セレーネも知っている通り、ダンジョンの発生は本当に突然だから」


 テレサにそう言われて、セレーネは高等部二年生の時のルージュ公爵家別荘で起きたダンジョン発生事故を思い出した。あの時は、ユイがあと少しで命を落とすかもしれないという危険もあり、自分が正気を失った状態になった事から記憶に深く刻まれている。


「そっか。気を付けてね。ルリナもだよ」

「ええ」

「はい」


 報告を終えたテレサとルリナは、セレーネを一回ずつ抱きしめてから屋敷を後にした。これからダンジョン調査のために準備をしないといけないからだ。


「はぁ……」


 テレサ達がいなくなると、セレーネはテーブルの椅子に座っているスピカの元に小走りで駆け寄って膝に乗って抱きつく。

 今日は教会での仕事が休みの日なので、セレーネの部屋でセレーネ達と過ごしていたのだ。研究で色々と相談する機会やカノンが恋人になっているという事もあり、セレーネはスピカにもよく懐いている。

 テレサが離れる事を知って、セレーネが寂しがっているという事を察してスピカは、セレーネの背中に手を回して軽く背中を叩きながら揺れる。そして、セレーネの耳元で小さく歌を歌う。セレーネの心音と同調するようなテンポで叩かれて、心地の良い揺れと歌も合わさってセレーネは目を閉じて眠りに就いた。

 それから少しして、買い物から帰ってきたカノンとマリアが入ってくる。カノンは、すぐにスピカの膝の上で抱きついて眠っているセレーネを見る。眷属としての繋がりからある程度察してはいたが、予想よりも遙かに深い眠りに就いている事に気付く。


「何かあった?」

「テレサ様がダンジョンの調査でしばらく遠くに行かれるらしくて、今からちょっと寂しくなっちゃったみたい」

「ああ、なるほど。だから、さっきテレサ様とルリナさんの気配が屋敷あったのね。もしあれだったら、ベッドに寝かせてあげて」

「ううん。大丈夫。がっしり掴まれていて離れられないし」


 セレーネは眠りながらしっかりとスピカにしがみついている。


(こういうところは本当に変わらないなぁ)


 カノンがセレーネの頭を撫でると、眠っていてもカノンの手を感じるのか嬉しそうな表情をしながら、よりスピカに甘えていく。

 セレーネが甘えてきて嬉しいスピカは、セレーネを落とさないように改めて腰に手を回して深く密着する。


「それじゃあ、お嬢様が寝ている内に……」


 掃除をしようと言おうとしたところで、部屋の扉が開く。繋がりでそこにフェリシアがいる事を知っているカノンは、フェリシアを迎えようとしてその姿に目を丸くする。そこにいるフェリシアは、泥だらけだったからだ。


「はぁ……クロですね?」


 フェリシアがクロと遊んであげている事を知っていたカノンは、即座にクロが泥に突っ込んだ事を察した。


「走り回っていったところに水が溜まっていたのよ……あの子も気付いた時には止まれなかったの。許してあげて」

「分かりました。マリアさん。フェリシア様をお願いします。クロは私が」

「はい。分かりました。お着替えを持っていきますので、先にお風呂に行っておいてください」

「分かったわ」


 フェリシアは先に浴場へと行き、マリアはタオルと着替えを持って後を追った。


「スピカは悪いのだけど、お嬢様をお願い」

「うん。全然大丈夫だよ」


 セレーネをスピカに任せたカノンは、クロを洗うために庭へと向かっていった。

 部屋に残ったスピカがセレーネを抱きしめていると、セレーネが身動ぎし始めた。


(起きちゃったかな?)


 スピカがセレーネの顔を覗こうとすると、寝ぼけ眼のセレーネが顔を上げた。研究で頭を使い続けているセレーネは、スピカの睡眠導入により一気に熟睡していた。そのため短時間の昼寝でも、通常の睡眠と同じ寝起きになっていた。


「んん~……」


 現在のスピカは休日のため、少し緩い服を着ている。その緩さは首元にも出ている。結果首から鎖骨に掛けて露出している状態だった。セレーネは、そんなスピカの白い首を見て噛み付く。


「えっ!? セ、セレーネ様!?」

「んん~……」


 完全に寝ぼけているセレーネは、自分がしている事に気付いていなかった。まだ半分程眠った状態というのが正しいだろう。吸血自体はカノンからされる事もあるので、それほど嫌だと感じる事はない。だが、相手がセレーネとなると、完全に初めての事なのでどうしたら良いか分からなくなっていた。


「おいひい……」


 そう呟くセレーネに思わず笑顔になるスピカだったが、余裕を見せられたのは、その時だけだった。唐突に身体に痛みが走る。スピカは、その痛みの正体に、即座に気付いた。その事をカノンから聞いていたからだった。


「セレーネ様!? 魔力の注入を止めてください!」

「ん~……?」


 セレーネは噛み付きながら寝てしまっていた。


(えっと……どうすれば……痛みは魔術で緩和出来るけど、身体が作り替えられているのは変わらないはず。このまま無理矢理引き剥がして、それが止まると良いけど、眷属化に関する情報が少なすぎて途中で止めた場合に私の身体がどうなるのかが分からない。セレーネ様が起きてくれたら、セレーネ様から止められるはず……そうであって欲しい)


 スピカは何度もセレーネに呼びかけていく。牙を外さないようにしながら、背中を叩いたりして起こそうとするが、直前に身体の痛みが魔術による回復を超えてしまい、セレーネを起こすどころの問題では無くなっていった。

 そこにカノンが窓から入ってくる。この事態を察知して、屋敷内部を駆けるのではなく、窓を開けて入るという最短ルートを取ったのだ。


「スピカ!」

「カノン……眷属化って……途中で止めても……大丈夫……?」

「分からない……ここまでやってからだとどうなるか……でも、起こさないと眷属になっちゃうけど」

「う~ん……取り敢えず……仕方ないかな……セレーネ様を……怒らないであげて……何度か……私も一緒に生きて欲しいって……言ってたから……無意識にやっていると……思うの……」


 セレーネは、スピカの事が好きになっていたので、スピカにもずっと一緒にいて欲しいと願っていた。なので、早く目的を果たしてと急かしていた事もある。その度にスピカは苦笑いしつつも、心の中で嬉しいと感じていた。

 なので、時期が早すぎるだけで、セレーネの眷属になるのに抵抗は一切ないのだ。


(仕方ない……何とかバレないようにしながら頑張るかな……)


 そう思っていると、セレーネが目を開けて口を離す。


『あっ……』

「んん……?」


 二人が同時に声を上げて、セレーネはゆらゆらとしながら首を傾げる。少し意識が覚醒していくと、自分の口の中に広がる血の味とスピカから感じる自分との薄い繋がりに気付く。


「んん……? えっ……」


 事態を把握したセレーネは、すぐに青い顔になっていく。自分がやらかした事を理解し、それが取り返しの付かない事だという事に気付く。


「ご、ごめんなさい……」


 辛うじて出た言葉は、最初に思考して出て来た謝罪しなきゃという想いだった。だが、すぐにこれが取り返しの付かない事だという事に気付いているので、どうすれば良いのかという思考が堂々巡りになっていき、自責の念がいっぱいいっぱいになった結果、涙として決壊した。

 それからしばらくの間、セレーネは泣きながら謝罪し続け、スピカはセレーネを抱きしめて頭を撫でながら赦し続けた。

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