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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
アカデミー

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魔力万能物質論

 翌日。セレーネはベッドで寝転がりながら論文を読んでいた。そこで一つ気付いた事があった。


「何かお姉様に聞いていた話と違う気がする」

「ん? 何が?」


 机で理論構築をしていたフェリシアが振り返って訊く。


「もっと忙しそうだったでしょ? これだと大分暇にならない?」

「テレサ様は、特別クラスじゃなかったみたいだから、講義と研究をやらないといけなくて忙しかったのでしょう? セレーネが暇に感じるのは、講義がないからじゃない?」

「なるほど。講義かぁ……下手な講師よりもカノンの方が分かり易いし、態々受けなくて良いのは良いのかも」

「講師の方々に失礼だから外では言っちゃ駄目よ。後は、私達が行う研究が単位として認められるかられないかで忙しさも変わってくると思うわよ。生半可な研究だと一単位にすらもならないみたいよ」

「ふ~ん……」


 セレーネには生半可な研究というものがどういう研究を指すのか、いまいち理解出来ていなかった。真面目に研究しておけば、そんな研究にならないだろうと考えているからだ。


「そういえば、フェリシアは何の研究をしてるの?」

「【低温空間】の発展よ。もう少し利便性を良くしようと思って、結界魔術と組み合わせようかと思ってね。まぁ、結界じゃなくて空間魔術でも良いのだけれどね。より低温にして自分の体温を保ちたいのよ。ついでに言えば、自分の体温も上げすぎないというのが理想ね」

「贅沢」

「一番贅沢な考えで魔術を作っている子が何を言っているのかしらね」

「むぅ……」


 セレーネは頬を膨らませながらも、論文から目を離していなかった。フェリシアがその論文の表紙を覗いてみると、そこには『魔力万能物質論』と書かれていた。


「またそれを読んでいるの?」

「うん。面白いよ」


 セレーネが読んでいる『魔力万能物質論』は、リンドが褒美としてくれた論文集の中にあったものだった。セレーネはかれこれ五十回は読んでいた。なので、内容の全部を把握している。それでもまた読もうと思ってしまう程に、セレーネを惹き付けるものがあった。


「魔力は、魔術などを使う時にあらゆるものに変化する。それは物質だけではなくエネルギーなどの現象にもなり得る。フェリシアの【低温空間】もこれを見て改良してたじゃん」

「まぁ、そうね。エネルギーを渡す導線にしているわ」

「そんなものにもなるし、私みたいに魔力を空間に変える事も出来る。ここから【空間倉庫】がなんで無限の空間になれないのかが分かった。魔力一粒で生じさせる事が出来る空間には限りがあるから、それ以上に広げようとすれば破綻するって事だった。これを知っているから知らないかで、進むべき道に看板が立つんだよね。だから、何度も読んで刷り込みたいの」


 魔力万能物質論。書いてある事は考えてみれば当たり前の事。それ以外に考えられる訳がない理論。


 魔術に使用する魔力とは一体何なのか。火になり、水を作り、風を起こし、雷を生じさせ、土や石を動かし、光になり、闇を生む。果ては、斬撃になり、振動を起こし、空間を作り、知覚するための導線になる。

 魔術なのだから、そんな現象を引き起こせて当然と考える者が多く深く考えられる事は少なかった。そもそもそんな魔術を使うのに何故魔力が必要なのか。

 魔力を消費する事で魔術を発動させているが、魔力を消費するだけで何故そのような現象を引き起こせるのか。当たり前に起こる事象は、それだけでそれについて考える事をやめさせてしまう。

 では、魔力とは? 現象を起こすために必要な対価。本当にそうだろうか。

 水魔術を例に出す。基本的に【水球】は周囲の水蒸気を水に凝縮する事で生み出している。だが、十分な量の水蒸気がなければどうなるのか。【水球】が発動しないという事はほぼない。消費する魔力が多くなり、【水球】は問題なく発動する。

 ここから考えられるのが、魔力が水へと変化したという事だ。消費魔力が多くなる理由は、水となる魔力と水へと変化させる魔力の二種類が必要になるからと考えられる。

 魔力Aは、水へと変わるためだけに存在する。魔力Bは、魔力Aを水へと変えるために存在する。

 何故魔力Aが直接自分を水に変えないのか。それは魔力を変化させるという現象を引き起こすために魔力が必要になるからだ。つまり、自分を水に変えようとすれば、その現象を起こそうとして自分を消費し尽くして消えてしまうのだ。

 なので、魔力を水に変えるという経路は多くの魔力を消費する事になる。対して、水を凝縮させるというだけなら、一種類の魔力だけで良いので消費魔力は少なくて済むのだ。

 これらは、他の属性でも同じ事が言える──

──これならの事から魔力はあらゆるものへと変わる万能物質だと言えるだろう。


 この内容から、セレーネは魔術研究のために色々と考えていた。消費魔力に関する認識なども変わっているので、そこから【空間倉庫】等の消費魔力を軽減させるための最適化に繋げていた。

 そんなセレーネが次に考えている魔術は、ダンジョンコアにあった空間転移である。似たようなものに【空間接続】があるが、それは空間を繋げてあるだけで移動出来るというのは副産物のようなものでしかない。

 空間を転移するとなれば、自分が態々移動する必要もなく飛ぶ事が出来る。魔術道具に変えれば、色々な場所と繋げる事も出来るだろうと考えている。そのための魔力量の問題なども含めて考えており、現実的にするには魔術結晶が必要だろうと見込んでいる。

 そのための相談もミーシャとシローナにしており、色々な準備が着実に進んでいるので、問題の転移するための魔術陣の構築をしているところだった。今はそれの休憩時間である。

 さらに、この研究の片手間に自立思考魔術の構想と眷属化の研究もしていた。三つの研究を同時並行に進めているが、どれも難航している状態なので、特に問題は無かった。授業がない分、研究の思考に一日使えるので嬉しいくらいなのだ。


「【高速演算】使うね」

「ちゃんと時間制限付けなさいね」

「は~い。三十分で良いかな」

「二十分、十分休憩にしなさい」

「は~い」


 三十分連続使用でも吐いた経験があるので、フェリシアは二十分稼働の十分休憩にしろと言う。それに対してセレーネは素直に頷いてから、机に向かって思考を補助しつつ考えた事をメモしていく。セレーネの研究は毎回雑多な思考を書き殴って整理するところから始まる。既にあるメモと同じ内容を書いたとしても大して気にはしない。自分の思考を纏めるための儀式的なものだからだった。

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