アカデミー
アカデミーの建物の前に来たセレーネは、その高さに驚いていた。その隣にはフェリシアとカノンとマリアがいる。
「おぉ……でかいね」
「そうね」
フェリシアも隣でアカデミーの建物を見上げている。二人の前に聳え立つアカデミー魔術研究科の建物は、全二十階建てとなっている。ただ、魔術研究科の建物はそれだけではなく、他にも学園と同じような大きさの建物も存在する。
高い建物は本棟と呼ばれて、授業をする教室や講師が滞在する研究室がある建物となっている。
学園のような建物は別棟と呼ばれて、アカデミー生達の自由研究室として使われている。アカデミー生であれば、申請するだけで使える部屋という事だ。
アカデミー生の全員が自宅に研究室を持っているわけではないため、アカデミー側で用意する事で、更なる魔術の発展に繋げようという事だった。
セレーネ達は、アカデミーの入学式に出席する。高等部を首席で卒業したセレーネだが、入学の挨拶は辞退していた。理由は目立ちたくないというもので、アカデミー側もセレーネの身体に刻まれている紋様を見て、色々と事情を察した結果、別のアカデミー生が新入生の挨拶をしている。因みに、セレーネがやらないのなら、自分もやらないと言ってあるためフェリシアではない見知らぬアカデミー生だ。
入学式を終えたところで、セレーネとフェリシアは、自分達のクラスを確認しに向かう。だが、そこには他のアカデミー生が集まっており、背が小さいセレーネでは、跳びはねてもぎりぎり見えなかった。フェリシアもそこまで小さいわけではないが、それはフェリシアの年齢での話で、自分達よりも三歳以上離れたアカデミー生達と比べれば小さく人垣を挟んでは見えなかった。
「むぅ……」
「お二人とも特別クラスのようですよ」
困っているセレーネとフェリシアの側にカノンが来て伝える。カノンは、二人よりも背が高く目も良いので、二人のクラスを見る事が出来ていた。
「特別クラスって、授業免除の?」
「はい。入学の案内に書いてあった通りです。授業が免除され、研究により単位を取るクラスです。必須知識を持っていると判断された生徒に割り当てられるものですね。お嬢様とフェリシア様は、高等部で論文を出していますから、それを満たしていると判断されたのだと考えられます」
特別クラスには途中から入る事もでき、研究に集中して取り組ませるためのクラスになっている。そのため必要単位を研究で稼がないといけないという少し難しいクラスになっていた。
「特別クラスって、どこに行けば良いんだっけ?」
「確か別棟の前ね。基本的に研究しかしないから、主に授業を行う本棟は関係ないって事かしらね」
「ふ~ん……まぁいいや。行こ」
「ええ」
セレーネとフェリシアは手を繋ぎながら歩いていく。カノンとマリアは、その後ろに付いて行った。
セレーネとフェリシアの仲良し姿を見たアカデミー生達は、微笑ましい気持ちになっていた。セレーネの魔術武闘会での一件と学園での普段の姿から発足したファンクラブは、アカデミーでも続々と会員を増やしていく事になるのだが、当の本人は一切気付いていなかった。
セレーネ達が別棟に着くと、他にも数人のアカデミー生が来ており、既に説明を受けたのか即座に解散していった。セレーネ達に見向きもしないで帰って行く。
そんな姿を見て、説明をしていたであろう若い男性講師がため息をついた。
「はぁ……またコミュニケーションに難ありか……研究者として優秀なのかもしれないけど、もう少し協調性を持って欲しい……」
そんな事をぼやきつつセレーネ達を見て、講師は目を丸くしていた。その理由は、セレーネ達があからさまに十五歳ではないからだった。
「あっ、そういえば飛び級の子が来るって言ってたっけ。じゃあ、君達が」
「セレーネ・クリムソン」
「フェリシア・ウルトラマリンです」
「はい。確認出来たよ。それにしてもクリムソン侯爵家の子か……テレサさんと少し似ているかな」
「ん? お姉様を知ってるの?」
セレーネはテレサの名前が出た事によって、少し興味を抱いていた。
「うん。元同級生だから。まぁ、向こうは僕を認識していなかったと思うけど……」
講師は遠い目をしながらそう言う。それを聞いて、セレーネは眉を寄せる。
「えっ……ストーカーか何か?」
「ち、違うって! 同じクラスだったから知っているってだけだから!」
「ふ~ん……まぁ、いいや。お姉様にはルリナがいるし。それで、説明をしてくれるの?」
「ああ、うん。そうだね。取り敢えず、これが説明を紙に書いたものだから」
そう言って講師が出す紙を受け取る。そのまま説明が始まるのをセレーネとフェリシアが待っていると、講師は涙を流し始める。唐突な事にセレーネはフェリシアの腕を取って引いていた。
「まさか説明をちゃんと聞いてくれる子がいるなんて……」
「良いから、さっさと説明して欲しいんだけど」
「ああ、そうだね。ここはアカデミー生が使える研究室が入った別棟です。この別棟の研究室は、本棟にして使用申請をして使う事が出来ます。いくつかの研究室は、ずっと使い続けている状態が続いていますが、そういった事も本棟の申請時に分かります。
研究室の中には魔術薬を作る事が出来る研究室や錬金術を行う事が出来る研究室もありますので、自分達の研究に必要な器具や道具がある研究室を選ぶようにしてください。
研究室の扱い方に関しては、なるべく綺麗にお願いします。備品を破損した場合には、すぐに報告してください。場合によっては弁償となります。
別棟に関しては、このくらいで続いて単位について説明します。単位は研究のレポートによって、加算されていきます。自分が書いた研究がどの分野のものなのかによって提出する先の講師が変わりますので、そこはお気を付け下さい。
講師が下す評価によって単位数が異なります。良いレポートを仕上げれば、それだけ単位になりますし、論文にすれば更に単位が手に入ります。定期的に中間レポートを出して小さく稼ぐのが良いかもしれません。
必要単位数は、卒業までの四年間で二十となります。一年間に五の単位を稼げば良いという事です。単位が足りなければ留年となりますのでお気を付け下さい。
説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
そう訊かれて、セレーネはすぐに手を上げて質問する。
「研究は、家でやっても良いの?」
「はい。施設があればですが」
「提出する先の講師は、本棟にいるの?」
「はい。それぞれの研究室の前に提出箱があります」
「共同研究の場合単位はどうなるの?」
「人数によって変わってきます。二人なら最大二。三人以上なら最大一になります。一人での研究であれば最大三ですね」
「単位を貰えないって事はある?」
「あります。レポートとして提出するような内容じゃなかったりすると、そうなる事が多いです。細かい中間レポートが良いですが、細かすぎればレポートとして認められないという事です。一定の成果または成果に繋がりそうな過程が必要とお考えください」
「自分のやっている研究を研究している講師がいなかったら、どこに提出すれば良い?」
「総合研究の講師に提出し意見を貰うのが良いでしょう。大抵は研究をしている講師がいますが、そんなにマイナーな研究なのですか?」
「情報処理魔術」
「え? あ、いや……高等部からあがってきた論文で読んだ……って、そうか! その論文の著者が君か!」
講師は、素の口調になって頷いていた。セレーネが出した論文は、それだけアカデミーにも衝撃を与えたものだったので、頭の片隅にあったのだった。
「うん。それで、情報処理魔術を研究している講師っている?」
「さすがにいませんね……寧ろ、君に講師になってほしいくらいだと思います」
「それは嫌だ。じゃあ、その総合研究の講師に提出する事にする」
「はい。そこから意見を貰ってください。他に質問はありますか?」
「ううん。もう良い。フェリシアは?」
「大丈夫です」
「では、皆さんのこれから研究が大きく実ることを祈っています」
講師の説明が終わったので、セレーネとフェリシアは、カノン達を連れて帰っていく。
「今日は本邸に行くんだっけ?」
「はい。旦那様と奥様が入学祝いをしたいと」
「卒業祝いをしたばかりなのにね」
「そういうものよ」
そんな話をしながら離れていくセレーネ達を講師はその場に立って見送っていく。
(やっとまともに説明を聞いてくれるアカデミー生が来てくれた……とても優秀な子達っぽいし、魔術界の躍進が期待出来そうだ。まぁ……当然の如くため口だったのは、侯爵令嬢だったからなのかな……まぁ、気にしてないけどね……講師としての威厳とか……てか、自己紹介するの忘れたな……はぁ……)
唯一の失敗を思い出し、内心深々とため息をつく講師なのだった。




