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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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時は流れる

 二週間掛けて四つの論文を仕上げたセレーネは、同じく論文を仕上げたフェリシアと一緒に提出した。内容を一通り読んで、ミルズから承認されたため、セレーネ達は帰路に着いていた。


「フェリシアも何か長引いてたね」


 セレーネは、自分よりも早く提出すると思っていたフェリシアが、ここまで掛かった事を意外だと思っていた。机と向かっている時間が長かったので、何かしら悩んでいたのは分かっているが、深くは聞いていなかった。


「ええ。ちょっと気になるところが出来て、そこの調整に時間を掛けていたのよ。セレーネの気になり癖が移ったのかもしれないわね」

「ふ~ん、まぁ、気になる事を解するのは良い事だよね。私も気になる事が多すぎて、二週間掛かったし。【高速演算】を使ってたから、大分早く終わったけどね」

「でも、吐き戻すなら、使うのは時間をおきながらにしなさい。カノンさんに何回怒られたの?」

「えっ……五回くらい……?」


 セレーネは目を逸らしながら答える。


「いいえ。八回です」


 セレーネの間違いを、カノンが即座に訂正する。

 論文を書くのに【高速演算】を使っていたセレーネは集中しすぎてしまい、長時間使用を繰り返して何度か嘔吐をしていた。その度にカノンが掃除するので、カノンから怒られていた。八回目にして、ようやく吐き戻さなくなったもののそれでも油断すれば集中しすぎる可能性は残っていた。


「スピカさんから叱られても変わらないもんね。セレーネは、もう少し集中をコントロール出来るようにならないとね。それかいっそのこと魔術自体に時間制限でも付ければ?」

「えぇ~……どうやって?」

「時間で終わる魔術から持ってくるしかないかな。頑張って」

「むぅ……」


 具体的な助言がないので、セレーネは頬を膨らませてマリアに不満を伝える。そんなセレーネの頬を揉むことで、マリアは誤魔化していく。


「それで、次の研究は何をするの?」

「う~ん……情報処理魔術の研究かな。ダンジョンコアにも使われていそうだし。後は魔術結晶の研究がしたいかな。ただミーシャちゃんと一緒に作る事は出来たけど、まだ空間魔術を閉じ込める事は出来てないから、シローナちゃんの素材待ちかな」

「なるほどね。そうなると、新しい論文とかは要らないかな。空間魔術で新しいものが出てたら買ってくるね」

「うん」


 情報処理魔術は、セレーネが開発者になるため、先行研究をしている論文などはない。そのため、情報処理魔術の研究を中心とするのならば、参考に出来そうな論文はない可能性が高くなる。

 普段買い物に行く途中で、本屋に寄って確認しているマリアは、次からは空間魔術の論文を見ていく事に決めた。セレーネが一番得意な魔術というのが理由だ。


「後は、魔術薬の成功確率を上げたいんだよね。リーシアちゃんは経験あるのみって言ってたから、魔術薬も定期的に作るようにしないと」

「そうね。授業でも最近は失敗続きだから、自主練はしておいた方が良いかもしれないわね」


 リーシアが片手間で簡単に調合しているのを見ているので、尚更自分達が劣っているのだと思わされてしまう。それを解決するために、リーシアに言われた通りの事をしようとしているのだった。


「そういえば、ユイって、今どんな研究してるんだっけ? 最近会えてないんだよね」


 セレーネが論文を仕上げるために屋敷に籠もっていたという事もあり、ユイと会える機会が少なかったのだ。


「確か魔術陣の共通項に関する研究じゃなかったかしら。セレーネが最適化作業をしているのを見て、特定の魔術に共通する形を見つけて、何故共通するのかを考える研究よ」

「へぇ~、じゃあ、こっちで知ってる情報を渡した方が良いかもね」

「もう渡してあるから大丈夫よ。セレーネならそう言うと思ったから」

「ありがとう。ユイの研究楽しみだなぁ。基礎化の効率化に繋がるし、最適化作業に組み込める内容が多かったら有り難いし」


 セレーネの【最適化演算】の一部は、セレーネの知識に依存する。なので、ユイの研究で自分の知識が整理されるかもしれないと思うと楽しみで仕方ないのだった。


「早く帰って研究したいなぁ」

「本当に研究が好きね」

「うん! でも、一番はフェリシアだよ」


 セレーネはそう言って、フェリシアの腕を取る。フェリシアは、そんなセレーネの頭を慈しむように撫でる。


「私もよ」

「えへへ」


 セレーネは子供のように笑うとフェリシアと寄り添うようにして屋敷へ帰っていった。そんな二人を見て、カノンとマリアも微笑ましい気持ちになっていた。


────────────────────


 時は流れていく。十二歳になったセレーネは、高等部の残り時間を研究と技術磨きで過ごしていった。セレーネの現在の研究は、情報処理魔術の独立。情報処理魔術自体が自分で考えて記録していくような状態に持っていく事だった。かなり難航しており、卒業まで完成する事はなかった。

 フェリシアの方は特に新しい研究が思い付かず、使える氷魔術の幅を広げていく事に集中していた。そのおかげで、戦闘面ではかなり強くなっている。

 そんなセレーネとフェリシアの卒業式が行われる。他にも卒業する生徒達が並び、次々に送り出されていく。セレーネ達も卒業証書を受け取ってから、研究室に来てミルズとレイアーにお礼を言いに来ていた。


「先生! 見て見て! 卒業した!」

「はい。おめでとうございます。ご立派になられて、私も嬉しいです」

「ふふん!」


 レイアーに撫でられると、セレーネは嬉しそうに胸を張っていた。だが、すぐに悲しげに目を伏せる。


「でも、アカデミーからは、先生はいないんだよね……」


 レイアーはあくまで学園の講師であり、アカデミーでは教鞭を執る事はない。そして、研究室に関しても学園の研究室であり、アカデミーではこの研究室に来る事はない。つまり、ミルズとレイアーとはここでお別れになるという事だった。


「先生と一緒が良い」

「そうおっしゃっても、私がアカデミーに行くことはありませんよ。それに、それに私はまだ王都にいますから、会おうと思えば会えます。また成長したお姿を見せてくださいね」

「うん!」


 セレーネはレイアーに抱きついて頷いた。そこにミルズがやって来る



「セレーネもフェリシアも、かなり優秀な生徒だ。この研究室から出せた事誇りに思うぞ。アカデミーでは、魔術研究科に入るんだったな?」

「うん」

「はい」


 セレーネとフェリシアは、アカデミーの入学試験を余裕で突破しており、魔術研究科に所属する事が決まっていた。


「より深く魔術を学べる良い機会になるだろう。精進していけ」

「うん」

「はい」

「よし。なら、今日はさっさと帰って、アカデミーに行く準備をするんだな。お前達の名前の論文が出るのを待っているぞ」


 そう言われて、セレーネとフェリシアは送り出された。研究室を後にしたセレーネ達の下にユイがやって来る。


「卒業おめでとう」

「ユイ。ありがとう。ユイも来年アカデミーに来るの?」


 セレーネはユイに近づいて訊く。


「そうね。どこかしらの科には入ると思うわ。魔術の可能性が高いけれど」

「じゃあ、また一緒に研究出来るかもね!」


 嬉しそうにそう言うセレーネに、ユイは自然と笑顔になる。


「新学期からは、一人になるのね……ちょっと寂しいわ」


 ユイの後輩は基礎魔術研究室に入らなかったので、結局三人のまま研究室が続いていく事になった。その結果、新学期に入らなければ、ユイ一人となる。


「う~ん……大丈夫じゃない? 割と実績を残してるし、後輩達も入るかもよ」

「そうなる事を祈るわ。それじゃあ、二人ともまた何かがあったら会いましょう」

「うん。またね」

「身体には気を付けて」

「ええ」


 ユイとも別れを済ませたセレーネ達の下にカノンが戻ってくる。カノンは、学園の中等部に入学している弟と妹から呼び出されて色々と話していたのだった。


「カノン! もういいの?」

「はい。ご一緒出来ず申し訳ありません。新学期はアカデミーに行くからか会いたいとせがまれてしまい……」

「ううん。良いよ。カノンに会いたい理由は分かるもん」


 セレーネはそう言ってカノンに抱きつく。カノンの胸辺りにセレーネの頭頂部が来る。そのセレーネのつむじを見て、カノンはセレーネの成長を実感する。


「それではそろそろ戻りましょう。本日は本邸にてお祝いがありますので」

「うん!」

「ええ」


 セレーネ達は、カノンとマリアを連れて屋敷に戻っていく。その日の夜は、リーシア、ミーシャ、シローナも一緒に祝いの夕餉となった。セレーネ達が卒業した事で、リーシア達の教師としての契約も終わる。そのためこれからは元通り王都を拠点としつつ、動き回る生活に戻る事になる。いつでも会えるわけではなくなるので、セレーネは不満そうにしながらリーシアに甘えて過ごしていった。

 来月の初めからは、アカデミーでの生活が始まる。新たな環境で、新たな研究の始まり。それだけは楽しみにしているセレーネとフェリシアであった。

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