セレーネのやりたい事
それから二週間が経った。普段の授業でも色々と知識を蓄積して、魔術薬や魔術道具などの作り方を学んでいったセレーネは、やりたい事がどんどん増えていったため、やりたい事リストを作る事にした。
・空間魔術の研究
・情報処理魔術の研究
・眷属化の研究
・魔術結晶の研究(消費魔力が多い魔術の利便性向上のため)
・魔術道具などに情報処理魔術を利用
・魔力圧縮のその他利用法
・魔術薬の研究(眷属化などの研究に繋げるため)
・亜人学の勉強(眷属化などの研究に繋げるため)
・ダンジョンの攻略(ダンジョンから得られる魔術武具などから新しい魔術陣を学ぶため)
・複合魔術の研究(戦闘の幅を広げるため)
現状で、セレーネがやりたいと思う事は以上だった。基本的には今やっている研究と眷属化の研究を進めていきたいと考えているが、眷属化の方はまだまだ知識が不足しているため、余り進んでいない。
そのため今も情報処理魔術の研究に打ち込んでいた。
「情報処理魔術の特性が分かってきたよ」
「そうなのですか?」
今日はフェリシアがマリアと一緒に槍の稽古に行っているので、カノンと二人だけだった。ルージュ公爵家別荘で起きたダンジョン生成事故の件から、もっと戦闘に関する力を身に付けたいと思っていたため、槍の稽古を受けるようになったのだ。
「うん。最初に膨大な量の情報を処理すれば、そこからは基本的に消費魔力は少なくなる。でも、問題はそれが一回一回起こってしまう事。だから、処理した情報を保存するものが欲しいって感じ。人の脳が記憶するみたいに、情報を記録するの。記録媒体の一つになるのかな?」
「なるほど。記録したものから情報を得る事で新しく処理する情報を減らすと」
「うん」
「記録したものから読み込む点で、情報の処理が大きく発生しそうですが、本当に消費魔力を減らせるのでしょうか?」
「私の想定だと、記録した場所と重なる部分は処理をしなくて済むはず。地形が変わったなら、変わった地形が更新されて、情報処理していない新しい空間を追加するみたいな」
セレーネの考えは、既に【空間探知】で調べた内容は保存されて、新たに探知した場所がそこに追加されるだけ。そのために同じ空間で何度も探知しても追加される部分の処理しかされないだろうという考えだった。
「では、その記録は物質で行うのでしょうか? それとも魔術で行うのでしょうか?」
「う~ん……物質だと持ち歩く必要が出て来るし、どれにどの情報が入っているか分からなかったりするよね?」
「しっかりと管理すれば大丈夫だと思いますが、お嬢様は苦手ですから厳しいでしょう」
「むぅ……」
軽く刺されたセレーネは、頬を膨らませて不満を伝える。そんなセレーネの頬をカノンは軽く突いて笑う。
「お嬢様がしっかりされれば大丈夫ですね」
「カノンがいるもん」
セレーネはそう言って、カノンに抱きつく。昔からしている事なので、ほとんどセレーネの癖のようなものだった。
カノンはセレーネを受け止めて、一緒にベッドに転がる。
(お嬢様も成長されたけど、まだまだ小さいなぁ)
セレーネを抱きしめて頭を撫でているカノンは、昔を比べてセレーネが成長した事を感じて感慨深くなっていた。セレーネは、そのままカノンに甘えるように抱きついたままだ。
その状態でカノンとの相談を続ける。
「記録媒体って紙でも良いのかな?」
「通常記録媒体と呼ばれるものは紙などを指しますので、そう考えてしまいますが、魔術により処理された情報がどのような形で残るのかによって変わってくるかと」
「そっか……まずは記録する魔術を作り出すところからかな。そうじゃないと、紙に記録する事も出来ないし」
「【空間探知】で出来上がった地図を紙に記録するとなると、投影している結界魔術を記録する形が良いのでしょうか?」
「ああ……なるほどね。でも、悪魔で結界魔術は形を作るだけだからなぁ……記録すべきは、情報処理魔術で処理した内容だと思う。結局処理した内容はそこにしかないから。あくまで結界魔術はその内容を反映させただけだもん」
「なるほど……そうなれば、情報処理魔術の内容が変化した部分を記録するという感じでしょうか?」
「内容の変化? 魔術陣自体に変化はないと思うけど……あっ、そうなったら、反映した結界魔術の方に処理内容が移っているのかな? それだと結界魔術の方を記録する事になりそう。取り敢えず、使ってみて考えよう」
セレーネはそう言って、【空間探知】を使う。魔術陣をジッと見て、細かな変化が起こっている部分を探していく。
「う~ん……魔術陣が複雑だから、割と分かりにくいんだよね……」
「情報処理魔術のこの辺りが細かく変化しています」
「あ、本当だ。最適化する前でごちゃついていた場所だから、前は気付かなかった……ここは処理の計算をしている部分だから、細かく変化するのはそのせいかな……」
「なるほど。では、この処理した内容は……そのまま結界魔術の方に送り出されているのですね」
「うん。だから、ここに処理した内容を溜め込むものを挟むのが良いかな。挟んだ内容は……そうだ! 【座標記録】! あれを情報処理魔術に変えて作ればどうにかなるかもしれない」
【座標指定】で指定した座標を記録する【座標記録】の存在を思い出したセレーネは、それを情報処理魔術に落とし込む事によって、情報を記録出来るようになるのではと考えた。
「早速作ってみる!」
そう言ってセレーネは一度カノンに強く抱きついてから机に向かい、ペンを折るかのような勢いで紙に構想を書いていく。
ベッドから起き上がって、シーツを整えたカノンは、その姿を見て微笑む。
(本当に魔術がお好きなんだよね。それもこれもレイアー先生のおかげかな。あの歳で、あそこまで打ち込めるものがあるというのは、素晴らしい事だけど、もう少し遊んで良い気もするんだよね)
カノンがそう思っていると、クロが近づいて来てカノンに頭を擦り付ける。
「クロ? どうしたの?」
「にゃ~」
「う~ん……今は厳しいかな。完全に集中モードに入っていらっしゃるし。その代わり、私が遊んであげるから。外に行こうか」
「にゃ~!」
セレーネと遊びたがっていたクロだが、カノンが一緒に遊んでくれると知り、嬉しそうに頷いた。本命はセレーネだが、取り敢えず誰かと一緒に遊びたかったからだ。
カノンも部屋の掃除などは終わらせており、後はセレーネの世話をするだけだった。そのセレーネは机に齧り付いているため、少し離れても問題はない。何かあれば、自分とクロの耳が感じ取れるので、クロと一緒に遊んであげる事にしたのだった。
セレーネの研究は少しずつ着実に進んでいた。




