情報処理の重さ
レイアー達に報告してから数日経ち、夏季休暇が終わった。学園での授業が再開して、元の生活が戻ってくる。そんな中で、フェリシアはミルズに中間報告を出していた。
「ほう……なるほどな。周囲の温度を自分に与える事で、周囲の温度を下げつつ自分は体温を落とさないか……下手をすれば、熱で自分がやられると思うが、それを周囲の温度で相殺すると……実際に出来たのか?」
「はい。調整を間違えれば危険ですが、そこは危険域まで行かないように調整しています」
「魔術陣に組み込んでいるのは上出来だ。安全域で使ったとして効果の程はどの程度だ?」
「氷魔術の発動までの時間が半分になります。ただ常時展開型の魔術なので、魔力が常に消費されてしまうデメリットがあり、短期決戦向けの魔術になります」
「なるほど。魔力が豊富な種族は常時展開での長期使用が可能になるだろうな。後は、もう少し魔術陣を整える必要がありそうだな。それが終われば論文にして提出だな」
「はい」
フェリシアの研究もミルズに認められ、後は最終調整を残すのみとなった。その最終調整が一番大変なので、もうしばらく論文として提出する事は出来ない。
「今日はもう帰っても良いぞ。セレーネも待っているだろ」
「はい。失礼します」
中間報告を終えたフェリシアは、教室に残るセレーネの下に帰ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「後は最終調整だけ」
「そこからが長そうだね。それじゃあ、帰ろうか」
「ええ」
セレーネ達は、そのまま屋敷に帰っていった。そして、それぞれの研究を進める。フェリシアの方は最終調整のみなので、セレーネの研究を覗き見しながら進められる。
「どのくらい完成したのかしら?」
「う~ん……半分くらいかな? 一応、このままでも情報処理自体は出来るよ。その機能は完成してるからね。これを魔術と組み合わせる方法を模索してるところ。今のところ多重魔術陣が一番良さそうだけどね。それと気付いた事があるんだけど、これダンジョンコアの魔術陣に似てるんだよね」
「え?」
フェリシアは、セレーネが取り出した魔術陣のメモと情報処理魔術の魔術陣を見比べていく。
「確かに似ている場所があるわね。情報処理魔術……もしかして、あの本ってダンジョンコアの魔術陣から着想を得ていたりするのかしら?」
「多分そうかもね。大分昔の本だったし、ダンジョンコアを壊して見つけた結果作り出したものという可能性はあると思う。つまり、この情報処理魔術で人の居場所を見つけ出して転移させていたんじゃないかな」
「なるほどね。情報処理魔術……もしかして、ダンジョンに意思があるような感じになっているのは、情報処理魔術で制御されているからかしらね」
「あっ、なるほどね。ダンジョンの存在自体が、これで制御されている……じゃあ、ダンジョン生物説はないかな」
「どうかしらね。ダンジョンコアを壊した時の転送手段だけを制御していて、魔力を扱うのはダンジョン本体かもしれないわよ」
「まぁ、そこは考えても仕方ないか。取り敢えず、これを完成させないと」
セレーネは情報処理魔術の調整をしつつ、結界魔術を【空間探知】と合わせるために調整をしていく。最適化作業をする際にしていた【空間探知】を魔力に制限して使用するという事を利用して、同時並行で作業を続けていく。
セレーネのマルチタスク技能は、着実に育っていた。
「情報処理魔術って、機械に使えないかな?」
「機械に? 自分で動くようにするみたいな事かしら?」
「うん。そうしたら、機械の幅も広がるんじゃないかなって」
「なるほどね。機械にどう使えるかが問題だけれど、情報公開をしたら、機械に使う人が増えるかもしれないわね」
「そっか。それでお金とか貰えないかな?」
「一応、そういう商品として使う場合には、お金を入れる必要があるわね。そうすると、定期的にお金が入って来るわ。作る度に払う事になるから。これは開発者が亡くなるまで続くわね」
フェリシアの説明を聞いて、セレーネは一つ気付いた事があった。
「それって、私の場合ほぼ永遠にお金を貰えるって事?」
「そうね。死亡届を出される事はないし、定期的に生きている事を知らせられるように行動しておけば、定期的にお金が手に入ると思うわ」
「ふ~ん……じゃあ、良いかな。まぁ、公開するかは先生と話して決める事になるから、本当に公開するかは分からないけどね。良し! 出来た!」
セレーネは多重魔術陣にした【空間探知】を使用する。すると、セレーネの目の前に結界で作られた地図が出て来た。セレーネの屋敷の間取りが立体で現れる。反復発動のために、定期的に放たれる【空間探知】で人の形をした部分がコマ送りのように進んでいく。
頭痛などはないが、魔力がどんどんと減っているのをセレーネは感じていた。
「……消費魔力がヤバい。反復発動……いや、情報処理部分で消費が増えている感じかな」
セレーネが悩みながらしばらく使い続けていると、消費魔力が落ち着いてくるのを感じた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「消費魔力が落ち着いてきた。なんで?」
「さすがに、私には分からないわよ。どこか機能が止まっているとかはないの?」
「うん……今のところ正常に動いてる……何だろう? こういうところで分析魔術を使いたいよね……えぇ……」
セレーネは何度も魔術陣と正面に映し出されている地図を確認する。だが、どこにも異常がないので、セレーネは眉を寄せて困っていた。
「分かんない!」
セレーネは、どこに異常が出ているのかが分からず、近くにいたフェリシアに抱きついて頬を膨らませる。フェリシアはセレーネの頭を撫でながら受け止めていた。
「そうね。何も異常がないという事は、最初に異常が出ていたか……そういえば、情報処理魔術って、どのくらいの魔力消費なの?」
「ん? 初めて使ったからよく分からない。でも、【空間探知】を地図に出来てるから、ちゃんと動作はしているはずなの」
「そう……情報処理っていうのが、まだちゃんと理解出来てないのだけれど、処理する情報の量で消費する魔力が増えていく可能性はない?」
「あ」
セレーネは、その可能性を考え始める。
「確かに、最初だけ消費魔力が多いのは地図に反映する時の情報量が大きいから。一度、処理しちゃえば、後は既存の情報を更新し続けるだけになるから、その分消費魔力が少なくなる? 処理する情報が少なくなるから、その可能性は高いかも」
セレーネは地図を消して、再び地図を出す。すると、さっきと同じように地図が表示されて少し時間が経つまで消費魔力が多くなっていた。
「やっぱりそうかも。これもなるべく解決したいなぁ……」
「完成までは、まだ時間が掛かりそうね」
「その分楽しいけどね」
セレーネはメモをするために机に向かっていく。それを見送って、フェリシアも自分の研究に戻っていった。




