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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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掘り出し物

 それから三日間、セレーネは【空間探知】の最適化を行いつつ、情報処理魔術の開発に勤しんでいた。最適化作業は終えているので、現在は情報処理魔術の開発に集中している。


「う~ん……難しい……」

「当たり前よね。ある程度の骨子があった空間魔術と違って、今回のは本当に一から考えなければならないわけだから」

「むぅ……情報の処理ってどうやれば良いのか全然分からない……人の脳から着想を得たら、多分反復発動が必要になると思うんだよね。知覚系で受け取った情報を分析に回すって方法で行けると思ったんだけど、分析自体も人の脳を頼っているみたいなんだよね。【成分分析】も紙転写する前に頭を通しているから」

「頭で処理して情報を分析しているという事ね」

「うん。情報処理に知識が必要な理由は、その成分を知っていないと意味がないというよりも分析しても答えを出せないって事みたい。こっちの論文に書いてあった」


 セレーネは、マリアが買ってきてくれた論文を持ち上げて言う。

 分析魔術を使用した場合、その情報を処理するのは自分の頭となる。その情報を数値化するにも知識が必要となり、その成分を知っていなければ、謎の成分としてしか理解出来ない。その状態で事細かく分析しようとすれば、理解出来ない情報を分析しようとしてしまい、セレーネのように気分を悪くして吐き出してしまう。下手すれば、意識を失う事もあり得た。

 そこまでは論文に書いてある事だった。


「つまり、科学者がよく使う魔術という事ね」

「うん。カノンの授業で少しだけ知識があったから、私はマシだったみたい。分析魔術を使いこなすには、知識が必要って事。分析魔術に情報処理魔術を重ねたら、どういう知識から分析する事になるんだろう?」

「……自分の知識と繋げるには、結局頭を通す必要があるわよね。でも、処理自体は魔術が行うから、そこで頭が痛くなる事はないかもしれないわよ」

「あっ、なるほど」

「あるいは、情報を保持する魔術を作るとかかしら」

「情報を保持? 記憶や記録をする魔術って事? そうなると記録出来る容量がどのくらいかが気になるなぁ」

「まぁ、それも作ってみないと分からないわね。取り敢えず、セレーネが開発したい情報処理魔術を進めてからでしょう?」

「うん! でも、どうすれば良いんだろう? 情報処理……やっぱりまずは計算かな。分析魔術をバラして整えて……う~ん……」


 セレーネは悩みながらベッドから上体を出して床に頭を付ける。ほとんど逆さまの状態になっていた。セレーネの悪い癖で、本当に悩み始めると変な体勢になる事が多いのだった。

 洗濯を終えて戻って来たカノンが、セレーネの身体を持ち上げてベッドに寝かせる。


「情報処理魔術は完成しそうですか?」

「う~ん……いっそ頭を分析して、その構造を魔術的に再現するみたいな感じに出来ないかな?」

「脳の分析ですか……【座標指定】と組み合わせてやってみますか?」

「カノンの頭?」

「はい。お嬢様自身の頭にやるのは心配ですので」

「えぇ~、分かった。やるよ?」

「はい」


 セレーネはカノンの頭に【座標指定】をして分析魔術【構造分析】【運動分析】【熱量分析】を使う。それぞれ構造と内部の運動とエネルギーを分析する魔術だ。三つ同時に発動したセレーネが青い顔をしたので、カノンは即座にエプロンを広げてセレーネの吐瀉物を受け止める。


「おえ~……」

「お嬢様……分析魔術の同時使用はおやめください。横着すればそうなりますよ」

「むぅ……ごめん……」

「取り敢えず、洗濯をしてきますので、それまでお預けです」

「は~い……」


 カノンが洗濯と着替えをして帰ってくると、改めて一つ一つの分析をしていき、分析結果を紙に転写していった。


「う~ん……エネルギーに偏りがあるのは使っている部分が違うって事かな。エネルギーの種類は電気系と……運動は特にない。エネルギーの移動も熱量分析で分かるから、こっちは本当に意味なしかな。構造は単純に脳の形とカノンの頭の形が分かるだけだ。カノンの頭ってこんな形してるんだね」

「本当ね。一応頭の耳も横の耳と繋がっている感じなのね。より大きな音を拾うという機能が猫の耳なのかしら」


 分析結果を覗いていたフェリシアもセレーネに同意していた。カノンは、少し恥ずかしく思い顔を赤らめている。


「私の頭の構造は良いでしょう。問題は、頭の動きが分かったかどうかです。如何ですか?」

「うん。よく分からないから、再現が難しいって事が分かった。だから、やっぱり脳に拘らないで、分析魔術の組み合わせで作ってみようと思う。これだと使える範囲が狭まるけど仕方ないかな」


 セレーネは情報処理魔術を広い範囲で使いたいと思っていた。それこそ、これが完成すれば最適化作業も自動で出来るかもしれないと考えたからだ。だが、それが現状難しいと判断して、【空間探知】に特化した情報処理魔術を作り出す事にした。


「そうですね。現状であればそれが良いかと」


 若干不満を覚えているセレーネは頬を膨らませながら少しずつ構築していく。そこに買い物から帰ってきたマリアがやって来た。


「セレーネ。分析魔術の本を買ってきたよ。ちょっと分析ってよりも計算的な要素が強いものだけど」


 諦めていたセレーネに光明が差す。セレーネはマリアに飛びついた。


「ありがとう! 読ませて!」

「はいはい」


 飛びついてきたセレーネを受け止めて少し頭を撫でてから購入してきた本を渡す。セレーネはベッドに寝ながら、本を読んでいく。そこに分析魔術の中でも計算に特化した魔術が書かれていた。


「【演算分析(えんざんぶんせき)】? でも、この魔術って……未完成じゃないの?」

「うん。本屋の掘り出し物の中で見つけたんだけど、随分と昔のものみたいでね。正直、実際に出来るものなのかも怪しいかな。でも、セレーネがやっている事に合ってるかなって思ってね」

「ふ~ん……そっか……」


 セレーネは本に穴が空くのではという程見入っていた。余りにも本に近いので、カノンが本から少し頭を離させる。


「うん……うん……うん……これなら仕組みは分からないけど、内容は分かった。この【演算分析】を通せば分析がしやすくなる。情報処理の一端を担っている魔術だ。これが完成していないのは、そもそもこれだけで完成しない魔術だから。分析魔術と合わせる魔術なんだ。なるほどね……これを挟んで調整すれば……でも、これだと魔力の消費量が激しいな……最適化でどこまで落とせるか……うん! 取り敢えず、組み立てよう!」

「はい。ですが、夕飯のお時間です」


 セレーネがやる気を出して立ち上がるのと同時にカノンがそう言った。外は大分暗くなっており、夕飯の時間が迫っていた。このままで、セレーネが研究にのめり込んで夕飯を食べなくなると考えて先に声を掛けたのである。


「えぇ~……」

「えぇ~じゃありません。ちゃんとご飯は食べてください」


 カノンは駄々をこねそうになるセレーネを抱き上げて、食堂まで連れて行く事にした。

 難航するかに思えたセレーネの研究は、マリアのおかげで大きな一歩を踏み込む事が出来たのであった。

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