新しい研究
メモに戻ったセレーネは、すぐに集中モードに入ってのめり込む。
(処理を別にするのなら、脳を模倣する方が良い。人間の脳みたいな働きを求めるから。それで映し出す方法。水? 水で地図を作り出して行く。
いや、それならやっぱり空間魔術でそれらしいものを作った方が構造がシンプルになる。空間魔術で四角い箱を作って、それを地図の形に変形するようにするとか?
いや、分かりづらいか。それに、私が知覚した地図は、かなりでかい。それを考えると、【空間倉庫】みたいにして色々な方向から立体的な地図を見られるようにした方が良い。つまり地図は結界魔術で作る。
幸いそのための知識と技術は【空間倉庫】で磨いてある。他の問題で言えば、魔物や人の構築。自分の脳を使わないなら、ある程度実時間処理で進めたい。そのために必要な事を考えないと。常に探知するというよりも定期的に読み取る空間を飛ばす方が良いよね。
振動魔術の【音響定位】みたいに定期的に打ち出す方式かな。あれもあれで使いにくいんだよね……読み取りが上手くいかないから)
セレーネはそう考えながら、自分の本棚に向かって振動魔術の本を読み始める。
(【音響定位】は、音波を生み出して返ってくるまでの時間から周囲の地形を把握する知覚系統の振動魔術。結局これも【風探】と同じで頭に送る必要があるし、その音波の読み取りをしっかりとしないといけない。
これの弱点は、【風探】と違って本当に自分の周囲しか分からない事。通路が多いところで使っても、通路の先が分かる保証はない。それなら【風探】の方が正確性は高い。でも、反復発動は活用出来たら大きい。
仮設計で作るとしたから、こんな感じかな)
セレーネは、空中に魔術陣を描く。それを見た後、すぐに魔術陣を消す。
(駄目だ。こんなの発動しない。最初からバラして考えていこう)
セレーネは、【空間探知】【風探】【音響定位】の魔術陣を空中に出す。【空間探知】をバラして、【風探】【音響定位】の一部を使って改良していく。
(駄目。駄目。駄目。駄目。駄目)
組み合わせを何度も試していく。
(う~ん……そのまま使うのは無理か。でも、使う部分は分かっているから、それを抜き出して一旦それ単体の魔術として作るか)
セレーネは、それぞれの要素を単体の魔術陣としたものをメモに転写していく。
(反復発動と知覚術式。【空間探知】は、知覚術式を組み込んだ空間を放つ事で知覚する。これを反復発動するから、知覚術式と反復発動を組み合わせる形が無難か)
セレーネは反復発動と知覚術式を掛け合わせる。何度もやっている事なので、こうした組み合わせもセレーネは慣れたものだった。
(【空間探知】に組み込んで……最適化作業かな。最適化作業も自動化出来ないかな……それは求めすぎかな……取り敢えず、【座標指定】を私を中心に半径一メートルに設定。知覚術式を魔力を感知するように設定。これで、私の周りにある魔力が分かるようになる。
魔力探知と似たようなものだけど、私の魔力を探知対象にする事で、空中の魔術陣の形を知覚出来る。反復発動も組み込めば、常に魔術陣の形を更新出来る。これで魔術陣を見ないでも魔術陣の最適化作業を、魔術陣を見ないで出来る)
理想的なのは、勝手に最適化作業をしてくれるようなものだが、そのようなものはないので、こうして手動で行うしかない。それでも見ないでも最適化作業が出来るというのは大きい。
(次は、情報処理魔術を作る。そもそも情報処理魔術って何? さっきも考えた通り、理想は人の脳を魔術で作る事。脳……脳? 脳って何だろう?)
セレーネは自分の本棚を見ていくが、脳に関する書籍はない。ほぼ全てが魔術に関する論文などを纏めたものだからだ。
そんなところにカノンが戻って来た。
「あっ、カノン。脳の本頂戴」
「脳ですか? 脳の原理はあまり解明されていないので、そこまで詳しいものはありませんよ?」
「げっ……そうなの? じゃあ、どうしようかな……分析系統の魔術の本は?」
「お嬢様の本棚にないのでしたら、この屋敷にはないかと」
「あっ、じゃあ、私が買ってこようか? 分析系統なら何でも良い?」
「うん。魔術陣が分かるような本が良い」
「了解」
話を聞いていたマリアが本を買いに出掛けていく。その間に、セレーネは複数の魔術陣を出して最適化作業を進める。その様子を見ていたカノンは、呆れたような表情になっていた。
「セレーネ、そんな同時に作業して頭が痛くならないの?」
「ならないよ。【空間探知】を発動させているわけじゃないから」
「いや、ある意味では知覚系統魔術を常に使い続けているのだから、その分処理する情報は増えている訳でしょう? 普段は、自分に見える範囲でやっているけど、今は後ろでも魔術陣を広げている訳だし」
「なら、範囲が狭いからかな。それに探知する対象を限定しているし」
「辛くなったら止めるのよ?」
「うん」
フェリシアは、セレーネを時々見守りながら自分の研究を進めていく。
セレーネは、最適化作業をしながらも気になった事があれば、すぐに本を読んでメモを取っていく。
(お嬢様は並行作業のレベルが高い。まぁ、それでも異常な光景だけど……)
カノンもセレーネの作業を見てそう考えていた。そこにマリアが帰ってくる。
「セレーネ。買ってきたよ。分析魔術の論文を三冊と分析魔術の基礎を纏めた一冊。教科書よりは詳しいかな」
「やった! 早く! 早く!」
セレーネがベッドに座って足をぱたぱたとさせるので、マリアは買ってきた本をベッドに並べてから、セレーネの頬を引っ張る。
「お礼は?」
「あいあおう」
「はい。どういたしまして」
ちゃんとお礼を言えたセレーネの頭を撫でてから、マリアはメイドとしての仕事に戻る。セレーネは、そんなマリアを見送る事なく、本に目を通していく。
(分析魔術の分析結果は、基本的に紙転写か知覚系で頭に送る……ただし、分析魔術の分析結果を理解出来るだけの知識が必要になるか……紙転写なら他の人にも見せやすいって感じか。結構面倒くさい魔術だな……そもそも分析対象の選定は……視界か【座標指定】か。取り敢えず使ってみよう)
セレーネは、【座標指定】を自分の前に設定して、分析魔術【成分分析】を発動する。そうして得た大気中の成分を頭に映し出して、頭痛に襲われる。
「おえっ……」
「セレーネ!?」
頭痛と同時に流れる成分の情報量にセレーネは吐き出してしまった。即座にフェリシアが駆け寄り、背中を摩る。
「ごめん……」
「良いわよ。でも、どうしたの?」
「情報量を全部に設定しちゃった……」
セレーネが吐き出した原因は、分析する成分の種類を最大で行ってしまった事にあった。成分を細分化して頭に送ったため、空間を知覚するのとは違う種類の情報が頭を駆け巡ったために吐き気が我慢出来なくなったのだった。
すぐにカノンが吐瀉物の処理をしていく。
「お嬢様。既存魔術を試す時には、しっかりと本を最後まで読んでからにしましょう」
「は~い……」
カノンの言う通りなので、セレーネは素直に返事をした。今日はこれで研究を終える事になる。




