旅行終了
翌日。セレーネ達の元に騎士団を連れたテレサ達が帰ってきた。騎士団の中には、ライルとベネットの姿もあり、状況分析のためにナタリアも同行していた。
「お姉様。もう帰って来られたの?」
「ええ。報告のせいで一日掛かってしまっただけよ。本当なら、もう少し早く帰ってこられたわ」
抱きついてくるセレーネを抱えあげたテレサは、そのままライルの下に向かう。
「最低限の調査はカノンがしてくれた。俺達は、調査範囲を広げてダンジョンが一時的に生成された結果起きた変化がないか探す。何もなければそれで良し。何かしら細かい変化があれば報告しろ」
『はっ!』
騎士団が動き出したところで、ライルはユイの方を向き跪く。
「調査の間、この屋敷を拠点として使うようルージュ公爵より命を受けました。そのためユイ様には、王都に戻るよう言伝も預かっております」
「分かりました。此度の件はあなたに任せます。食料の一部は冷蔵庫等に置いてあります。騎士団の食料として使ってください」
「はっ! 有り難く頂戴します」
ユイはライルとの会話を終えるとメイと一緒に戻るための準備をするために屋敷に戻った。ユイが去ったところで、ライルはセレーネ達の方を向く。
「セレーネ。父上が顔面蒼白になっていたぞ」
「うげっ……帰ったら面倒くさそうだなぁ……」
「そう言うな。吸血衝動が起きるような事態に陥ったと聞けば、誰でも心配する。今は問題ないのか?」
ライルは、セレーネの頭を撫でながら訊く。見た目的には何も問題ないが、吸血衝動が起きる程の消耗をしたという事は体調にも影響があると考えてしまうのだ。
「大丈夫。カノンとお姉様の血を飲んだから、元通りだよ。お兄様は、ここに長くいるの?」
「ああ。ダンジョンが破壊されたが、その余波でこの辺りの地形に変化が起きている可能性があるからな。先程カノンがナタリアに伝えていた内容から考えても地形は僅かに変化している。下手すれば、どこかで地滑りなども起きている可能性や起きる可能性がある。そういった調査だ」
「ふ~ん……そういえば、ダンジョン壊しちゃった事は怒られない?」
セレーネは、資源を得られる可能性があるダンジョンを破壊した事で叱られる可能性があると思っていたので、そこが少し心配になっていた。
「ないな。今回は緊急事態だった。特にユイ様の身を守った事で評価されるだろう」
「じゃあ、それはお姉様にあげて。私は面倒くさいからいらない」
そう言うセレーネにライルは呆れた目をしていた。
「お前が助けたからお前が受け取るんだ。正当な評価はしっかりと受けておけ。今後のためになる。まぁ、実際に何か表彰されるかは分からないがな。内々という可能性もある」
「えぇ~」
「ユイからの感謝だと思って受け取りなさい」
「は~い……」
二人からそう言われてしまえば、セレーネも駄々をこね続ける事が出来なかった。ただあまり気が乗らないというアピールのために、テレサに甘えるように抱きつく。
「セレーネ達も帰る準備をしておけ。ユイ様とご一緒に帰るわけだからな」
「は~い」
セレーネはテレサに連れられて屋敷に入っていった。
その間、カノンはナタリアを話していた。
「なるほどね。ダンジョン発生時に違和感を覚えたと。それで空間が歪んで、気付いたらダンジョン内にいたのね?」
「うん。お嬢様が気付いたのだけど、音に変化はなかったし、ルリナさんの鼻でも違和感はなかったって。だから、本当に急に変化したみたい。一応、地図で言えば、この円周上で地形が変化していた痕跡みたいなのがあったから、直接的な変化は、ここら辺に出てると思う」
「了解。こうなるとダンジョンが地下に直接出来ていないのは有り難いかな。問題は地上部分の変化で起きた地形変化及び魔力の変化による魔物の変化か。屋敷に変化は?」
「どこにも。屋敷全体は範囲内にすっぽりと入っていたから、そこに問題は起きなかったみたい」
「そう。なら、ここを使っても問題はなし。ふぅ……ダンジョンを壊す事なんて、ここ何十年もなかったみたいだから、色々と調査が大変そう……」
「頑張って」
壊した張本人であるカノンは、ただそう言う事しか出来なかった。カノンもセレーネ達と一緒に帰る事になっているからだ。今回は調査を任命されていないので、残るという選択肢はない。
「はぁ……カノンはスピカと一緒になっちゃうし……新しい恋を始めようと色々と探していた途中だったのになぁ」
「あははは……まぁ、ナタリアには長い時間があるから、ゆっくり探せば良いんじゃないかな」
「本人に言われると辛い……まぁ、二人が幸せなら良いけどさ。それじゃあ、報告は十分だからお嬢様のところに行ってあげな」
「うん。ありがとう」
カノンはナタリアに手を振って、セレーネの部屋に向かって行く。それを見送ったナタリアの下にベネットが来た。
「お前が押さないのは珍しいな」
「さすがに付き合っている二人の間に入ろうとは思わないから。それで二人を幸せに出来るならまだしもね。さてと、ベネットには働いてもらうからね。何徹も出来る人は貴重だから」
「徹夜させない方向で調整しろよ……」
「こういうのは時間で変化が大きくなって、大惨事に繋がりかねないから。ほら、行くよ」
「へいへい」
ナタリアはベネットを護衛に付けて、調査を始めていく。
セレーネの部屋に来たカノンは、セレーネが帰りの支度をしているのを見て感動していた。
「お嬢様……とうとう自分で動けるように……」
「いや、【空間倉庫】にぶち込んでるだけなんだけど……中の整理はカノンに任せるよ」
「それなら最初から整理しましょう」
感動から一転真顔になったカノンは、セレーネの【空間倉庫】に入って、中の物を整理していく。本当に適当に放り込んだだけになっていたので、説教する事が決まった。
「全く……お嬢様は整理整頓をしっかりとしてください。だから、魔術のメモを毎回探す事になるのですよ?」
「カノンが見つけてくれるもん」
「私だって、選択や掃除で常に傍にいる訳では無いのですから、自分でも分かるようにしておいてください。良いですか?」
「むぅ……」
セレーネは頬を膨らませながらカノンに抱きつく。
(全く……こういうところはまだ子供なんだから)
カノンは内心そう思いながら、口元では笑みが溢れていた。準備を進めてフェリシアやテレサの荷物も【空間倉庫】に詰め込んで、全員魔動車に乗り込んだ。運転は、カノンが務める。
「じゃあ、お兄様またね」
「ああ。気を付けて帰るんだぞ」
「は~い」
セレーネはライルに手を振って別れてから、フェリシアに寄り掛かる。
「う~ん……楽しかったけど、疲れたなぁ」
「まぁ、最後があんな事になったのだから仕方ないわよ」
「だね。帰ったら、シフォン達のお墓参りもしなくちゃ」
「そうね」
こうしてセレーネ達の旅行は幕を閉じた。想定外な出来事なども起きたが、旅行を久しぶりに楽しむ事が出来たセレーネは、大分満足げだった。




