ダンジョンの仮説
お昼過ぎになると、メイが目を覚ました。その知らせを受けたセレーネは、すぐにユイとメイの部屋に来た。
「メイ、大丈夫?」
「セレーネ様。はい。問題ありません。セレーネ様の【空間倉庫】から治癒薬を使わせて頂いたという話を聞きました。私などにそのような高価な物を使用して頂き、本当にありがとうございます。代金は、王都に戻り次第すぐにでも……」
「ううん。自分で作ったものだから気にしないで良いよ。メイが無事でいてくれる事が一番だから」
「そのように思って頂ける事感謝します。ですが、これは私のけじめのようなものです。別のものでお返しする事をお許しください」
「そう? じゃあ、お金以外ならいいよ」
セレーネがそう言うと、メイは内心安堵した。もしかしたら、セレーネが受け取ってくれないという事もあり得たからだ。セレーネとしては、お金を取るようなものではないが、メイの気持ちを無下にするのはメイが気にするだろうと考えて、物で取引する事にしたというだけだった。
「ひとまずメイさんは、今日一日安静にしてください。ユイ様も含めて、お世話は私とマリアさんでしますので」
「すみません。お願いします」
メイも自分の現在の体調で十分にお世話が出来るとは思っていなかった。なので、素直にカノン達に頼む事にした。ユイはしばらくメイと一緒にいる事にした。
なので、セレーネは部屋に戻って、メモの続きをしていく。元々記録していたメモと比べて、違いなどがないかの確認などやる事は多い。
「う~ん……」
「どうかしたの?」
同じ部屋にいたフェリシアが、セレーネの唸りを聞いてそう言う。
「いや、前にメモしたやつが割と間違ってたからさ。やっぱり結晶の中にあって屈折して見えていたんだと思う」
セレーネは過去にダンジョンでメモしたダンジョンコアの魔術陣と今回破壊した際に見えた魔術陣を見比べて、間違いが複数箇所ある事に気付いた。その間違いが、色々な空間魔術のヒントになっていたので、結果オーライではある。
「なるほどね。それで空間を入れ替える魔術は見つかったの?」
「ううん。【空間接続】に似ている感じがするけど、それは空間を二点指定する仕組みが似ているだけだった。それにさ、一つ疑問があるんだ」
セレーネはそう言いながら、メモ用紙ではなくフェリシアの方を向く。
「ん? 疑問?」
「フェリシア達は、ダンジョン内にいたけど、私達と同じように転移したでしょ?」
「ああ……」
セレーネの疑問に、フェリシアも気付いた。セレーネ達はダンジョンコアの近くから転移した。だが、フェリシアはダンジョンの中から同じように転移した。これは紛れもない事実だった。
「つまり、ダンジョン内の人だけを選択して転移させた。座標設定じゃなくて、対象設定が組み込まれているという事ね」
「うん。ダンジョン全体から対象を探し出すから、相当な魔力が必要になる。ダンジョンを構成している魔力を使ってるとは思うんだけど、問題は何でそんな設定があるのって事」
「ん?」
「だって、ダンジョンからしたら、私達の無事なんて考える必要ないでしょ? 壊されたら私達を外に出さないといけないなんて決まりがあるのは違和感じゃない?」
「それもそうね……」
これにもフェリシアは納得する。ダンジョンは自然に出来上がるものなので、攻略する人達に配慮したシステムがあるという事自体が、おかしいという風に捉えられる。
そこでフェリシアも少し考えて一つ思い付いた事があった。
「整合性の維持かしら?」
「整合性?」
「ええ。私達がそのままダンジョンを構成している空間にいると何かしら都合の悪い事が起きるとかね」
フェリシアの考えにセレーネは眉を寄せながら考えていく。
「う~ん……都合の悪さ……空間の整合性……ないはずのものが混入する事によるもの……ちゃんと空間が畳めなくて空間そのものが壊れるとか?」
「恐ろしいわね……」
仮にそれが起こったとすると、どうなってしまうのかフェリシアには見当も付かなかった。だが、それでもセレーネはあまり納得出来なかった。
「う~ん……【空間倉庫】は機能しているけど、あれは空間の維持をしているから、ダンジョン崩壊とは違うし……もしかして、ダンジョン自体が生き物とか?」
「新しい説ね。生き物だから、異物を排除してから逃げるという事かしら?」
「うん。それだと説明が出来るでしょ? ダンジョンコアは、自分の身が危険という警報の役割があるんじゃない? ダンジョンコアの破壊がそのままダンジョンの命の危機みたいな」
セレーネの考えに、フェリシアは大分納得がいっていた。それならある程度の説明が出来そうだったからだ。ただそれに関してもいくつか疑問があった。
「あり得なくはないわよね。でも、ダンジョンの生成条件とかは?」
「ダンジョンの卵みたいなのがあって、それが魔力を集めているとか? だから、私達が意図的にしているような魔力の圧縮が発生するとか」
セレーネは、ダンジョンが魔力の濃い場所で生まれるという点からそれ自体がダンジョンの卵がやっている事だという風に考えた。
「ダンジョンの卵が魔力を圧縮して、自分が大きくなれるようにするって事かしら?」
「うん。目に見えないくらい卵になるかな。私達がここにダンジョンが出来るって分からなかったって事は、怪しいものがなかったって事だもん」
セレーネは周囲がおかしくなっている事に気付いたが、それでも何か異物があるという事を明確に理解していたわけではなく、変な感じがするという曖昧なものだった。
「そうね。カノンさんの耳とルリナさんの鼻をすり抜けているという事も加味すると、地面の中とかにいたりするのかしらね」
「地面の中か……土魔術はそこまで詳しくないんだよなぁ……」
「何にせよ、証明出来るものがない以上、全部仮説よ?」
「分かってるって。でも、仮説の一つとして纏めておこうかな。フェリシアが気付いた事があったら教えて」
セレーネはダンジョンに関する仮説を纏めるために、自分が気付いた事をメモしていく。フェリシアは特に何も気付かなかったので、あまり言う事はなかった。
そこにマリアがやって来る。
「その仮説何十年か前に出ていたと思うよ」
「えっ!?」
セレーネ達の話を聞いたマリアが衝撃の事実をぶっ込んだ。セレーネは驚愕して固まる。
「まぁ、否定されたけど。生物として考えるには、異質過ぎるからって理由でね」
「ふ~ん……でも、吸収が消化とか考えれば?」
「呼吸は?」
「う~ん……魔力の吸収?」
「なるほどね。体内に宝箱を餌におびき寄せつつ、中に飼っている魔物で殺して食べると。そうなると、生物っぽいかもね」
「でしょ!? よし! 先生に出してみよ」
「そうだね。じゃあ、王都に帰ったらその論文を取り寄せようか」
「うん!」
セレーネは、レイアーに見せるためのメモを丁寧に書き上げていく。その中で、【空間探知】に関するメモもしていく。器用に同時並行しているセレーネを見守るようにフェリシアは部屋の中にいたのだった。




