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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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セレーネの沈静

 カノンはダンジョンの中を駆け続ける。風魔術で通路に風を流し、その音で下り階段を把握。道中のミノタウロスは、邪魔になるものだけを頭を砕いて進んでいる。


(お嬢様……)


 セレーネの異常事態を察知した瞬間、カノンはセレーネの救出を第一に考えて、即座に行動を始めた。本来であれば、床を砕いて進みたいが、それが不可能な事を知っているので、焦燥感に駆られながらも最短ルートを模索して進んでいる。

 そうして、一時間掛けてセレーネがいる階層まで降りてきた。カノンは、振動魔術の【拡声】を使う。


「お嬢様!!」


 カノンの大声が【拡声】により、更に響き渡る。カノンの呼び掛けに気付いたセレーネが勢いよく近づいてくるのが、カノンにも分かった。ダンジョンの地形を把握していないので、カノンはその場でセレーネを待つ。

 すると、片腕が中途半端に再生している状態のセレーネが駆け寄ってくるのが見えた。その髪は銀色になり瞳も赤く光っている。口周りにも赤い血が付いているので、ここで吸血していた事が分かる。


「カノン! カノンカノンカノン!」


 カノンは、セレーネの言動がおかしくなっている事に気付いた。その瞬間、過去リーシアと吸血衝動について話した事を思い出した。


『あの子が私の血を濃く受け継いでいるのなら、戦闘中の吸血衝動には注意した方が良いかもしれません。戦闘と吸血衝動による興奮に加えて、血を吸う事の昂揚感が、あの子の理性を失わせる可能性があります。恐らく慕っているカノンさんなら、あの子を落ち着かせる事が出来るかもしれません。その時は優しく迎えてあげてください』


 それを思い出したカノンは、両手を広げる。すると、セレーネは目を輝かせながらカノンに飛び込む。


「カノン! カノン!」

「はい。お嬢様。もう大丈夫ですよ」


 カノンはその場に正座して、セレーネを膝の上に乗せる。セレーネは興奮した様子でカノンに抱きついて、首元に顔を擦り着けていた。セレーネの理性のほんの一欠片が、勝手に血を吸ってはいけないと抑えつけている状態だった。


「吸って大丈夫ですよ」


 カノンは胸元を緩ませて、首元を大きく出す。許可を得たセレーネは、迷わずに牙を埋めて、カノンの血を飲む。いつもならゆっくりと飲むセレーネだが、興奮状態のセレーネは水音を立てながら飲んでいた。


(魔力大きく消費する何かがあった……冷静さを取り戻したら、しっかりと確認しないと)


 カノンはセレーネの頭を撫でつつ、背中を軽く叩く。


「もう大丈夫ですからね。ゆっくり、ゆっくり落ち着いていきましょう。私が傍にいますよ」


 セレーネの耳元で声を掛けていくと、段々とセレーネの血を吸う速度が落ち着いていく。セレーネの髪の色が徐々に金髪に戻っていき、目の光が収まっていく。


「カノン……?」

「はい。カノンですよ。セレーネお嬢様の従者であるカノンです。落ち着きましたか?」

「…………っ!」


 正気に戻ったセレーネは、ここまでの言動を思い出して、顔を真っ赤に染める。そして、カノンの肩を押し付けて顔を隠す。そんなセレーネの頭をカノンは優しく撫でる。


「うぅ……」

「お身体に違和感などはありませんか?」

「身体? あっ、腕」


 セレーネは再生途中の腕を見る。すると、カノンの血を飲んだ事で、腕の再生速度が早まり、元の状態に戻っていた。


「大丈夫みたい。そうだ! ユイ達を見つけたの!」

「どちらに?」


 カノンはセレーネを抱えて、立ち上がる。すぐにユイ達の下に移動するためだ。


「【空間倉庫】」

「既に匿われた……いえ、そういう事ですか」


 カノンは、セレーネが【空間倉庫】を使った理由が自身の吸血衝動によって、二人を害さないためだという事に気付いた。ちゃんとその理性を残していたセレーネを褒める意味で、セレーネの頭を撫でる。


「メイが大怪我をしてたの。治癒薬は使って良いって言ったけど……」

「なるほど。お嬢様も魔力はどうですか?」

「もう大丈夫。開けるね」


 セレーネは【空間倉庫】の入口を開ける。カノンに抱かれたまま入ると、床で眠っているメイと心配そうな表情をしているユイの姿があった。ユイは、セレーネとカノンの姿に気付くと、目を輝かせた。だが、その直後にセレーネの服に付いた大量の血痕と引き千切られた袖などを見て、顔を曇らせる。


「セレーネ……」

「大丈夫。外は安全だよ。ボスっぽいのも倒したし。それより、メイは大丈夫?」

「え、ええ……治癒薬の治療で、意識を失っただけだから。ちゃんと治っているから大丈夫なはずよ」

「良かった。それじゃあ、私とカノンでここら辺を調べてみるから、二人はここにいて。安全な場所に出たら出すから。そこら辺の食料とかは食べて良いよ。メイは治療で体力を使い切ってるだろうから」

「ええ……ありがとう」

「ううん。無事で良かった」


 セレーネがそう微笑むと、カノンはユイとメイに頭を下げてから【空間倉庫】を出た。セレーネは自分達が出た後に入口を閉じた。


「ボスを倒したとは本当ですか?」


 外に出た走り出したカノンは、セレーネに確認する。


「多分。大剣を持ってるミノタウロスがいたの。他よりも大きかったし。向こうの方」


 セレーネが指を差す方に向かって、カノンは駆けていく。そこには、ミノタウロスが使っていた大剣とミノタウロスの角が残っていた。


「なるほど……これまで素手のミノタウロスしか見ていませんので、このミノタウロスがボスだった可能性はありますね。これは仕舞っておきましょう」

「うん」


 セレーネは、【空間倉庫】に角と大剣を仕舞う。突然倉庫の端っこに大剣と角が転がってきたので、ユイは肩を跳ね上げて驚いていた。それをセレーネが知る由もない。

 セレーネは、魔力の補給のためにカノンの血を飲む。カノンは、その状態のまま走ってボス部屋を探していく。


「ありました」


 カノンはボス部屋を発見する。セレーネをしっかりと抱き抱えたまま、ボス部屋を覗き音に集中して、内部の様子を完全に把握する。


「いませんね。やはり、お嬢様が倒されたミノタウロスがボスだったようです。徘徊型のボスだったのでしょう」

「そんなのいるの?」

「話には聞いた事があります」

「ふ~ん……あっ、お姉様」


 セレーネはテレサが近づいている事に気付いた。それはカノンも同じだった。その場で止まって待っていると、テレサが身体を浮かしながら飛んで来た。


「セレーネ!」


 テレサは、セレーネの服の状態などを見て、セレーネに何があったのか察したテレサは、ゆっくり近づいてセレーネの頬に手を添える。


「ひとまずは無事なのね」

「うん。カノンが血をくれたから大丈夫。お姉様も頂戴」

「ええ。良いわよ」


 テレサは、カノンからセレーネを受け取って抱き抱える。寝間着のため胸元が緩く、セレーネも血を吸いやすかった。


「ルリナさんは、フェリシア様の護衛に?」

「ええ。一人の方が速度が出るから。それに、フェリシアとマリアだと盾がいないでしょう?」

「なるほど。それはルリナさんが心配していそうですね」


 カノンは、置いて行かれたルリナの気持ちを容易に想像出来た。互いに自分の主人を敬愛しているが故だ。


「まぁ、そこは後でフォローするわ。それよりこの奥はダンジョンコアよね?」

「はい。ここの価値がどれほどか分かりませんが、全員の無事を確保するためにも破壊します」

「賛成よ。ユイ達は?」

「【空間倉庫】の中に避難済みです」


 テレサは、カノンの報告とセレーネの状態で、セレーネが二人を助けたのだという事を察した。


「それなら全員無事ね。セレーネ。ダンジョンコアを破壊するからよく見ておきなさい」

「は~い」


 テレサは、セレーネが気になっているだろうと考えて血を吸うのを止めさせて、観察に集中するよう言った。セレーネは大人しく従って、テレサの腕の中からジッとダンジョンコアを見る。


「では、破壊します」


 カノンは、蹴りでダンジョンコアを粉砕する。その光景をセレーネは目に焼き付けた。

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