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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
先祖返りの真祖

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15/38

帰り道での遭遇

 翌日の朝。セレーネは身体を揺り動かされて目を覚ます。視界にカノンの姿が入る。カノンは、綺麗なメイド服を着て、普段通りの状態になっていた。


「お嬢様。そろそろ出発するお時間だそうです」

「ん~……」


 セレーネは身体を起こしてベッドから降りる。そこに、カノンが机を持ってきて、桶を置く。


「一度顔を洗って、すっきりしましょう」

「ん……」


 セレーネの顔を桶の前に持っていき、カノンは魔術で生み出した水でセレーネの顔を洗っていった。その後、タオルで水を拭き取る。そこまでされて、ようやくセレーネの意識が完全に覚醒した。


「う~ん……」


 身体を伸ばして、動く準備をする。その間に、カノンの方も支度を調えていた。そこまで綺麗にしておく必要はないもののメイドとしての生活をしていく上で、勝手に身についた事だったので、無意識に動いていたのだった。


「カノン……身体は?」

「身体ですか? ああ、大丈夫です。十分に寝たおかげか、万全の状態になっていますよ。眷属に変化した事で、ちょっとだけ感覚がおかしいですが」

「おかしいの?」

「良い意味でです。いつも以上に研ぎ澄まされているような感じですね。では、下に参りましょう」

「うん」


 カノンと手を繋いで、セレーネは下の階へと降りていく。下には、リーシア、ミーシャ、キリルと共に複数の騎士が待っていた。


「お嬢、もう出発しますぜ」

「うん。歩きで帰るの?」

「森の中では馬も使えないっすからね」

「お嬢様は、私が抱っこするので大丈夫ですよ」


 そう言って、カノンがセレーネを抱っこする。


「もし疲れたら言って下さい。私が代わりますので」

「そんな! リーシア様にそんな事をさせられませんよ!?」


 子供と言えど、セレーネは五歳。短時間であれば抱っこしながら移動するのも問題ないが、長時間となると辛いところがある。そのためリーシアが交代すると言ったのだが、さすがにリーシアの立場を考えると、カノンも断らざるを得なかった。


「そうですか? ですが、いつでも代わりますので言って下さい」

「はい。もしそうなった時はお願いします」


 固辞し続けるのも失礼に当たるので、その時が来たらお願いするという話になった。カノンにその気はないが。


(リーシア様……完全に孫を抱きたいお祖母ちゃんですね。あの時と同じ顔をしています)


 ミーシャは、心の中で苦笑いしていた。セレーネはリーシアの子孫なので、リーシアの気持ちを抱くのも無理はなかった。

 そんなやり取りをしてから、セレーネ達は出発する戦闘にキリル。セレーネ、カノン、リーシア、ミーシャを囲むようにして騎士達が配置されている。セレーネを守るための布陣だ。昨日の内に、女性達の遺体は街へと運ばれている。残りはセレーネ達の護衛だけだった。


「……何か来ますね」


 リーシアがそう言うのと同時に、キリル達の前に黒い大型の猫が着地した。


大黒猫(おおくろねこ)。珍しいですね」


 大黒猫。体長二メートル。尾を含めれば三メートル近くある。体毛は名前の通り黒。この個体は黄色と水色のオッドアイだった。大黒猫は、ジッとセレーネを見ながら周囲を回っていく。


「刺激しないように。大黒猫は、基本的に頭が良いです。無闇に攻撃してくる事はありません」


 リーシアの指示で、全員剣に伸びた手を戻す。騎士達が大人しくリーシアの指示に従った理由は、リーシアがクリムソン家という事もあるが、一晩でリーシアの強さを理解していたからだった。


「この子は何で私を見てるの?」

「セレーネが珍しい……いえ、セレーネに用があると言ったところでしょうか」

「じゃあ、私が近づけば良いよね。カノン」

「危険です」

「カノン」


 食い下がろうとしたカノンだったが、セレーネの目を見て一瞬逡巡した後、大人しく従う事を選んだ。カノンから降りたセレーネは、大黒猫に近づく。その間に、リーシアはミーシャに目配せして警戒するように伝える。それにミーシャは小さく頷いて答えた。


「どうしたの? 私に用があるの?」


 ゆっくり近づいていくセレーネに大黒猫は、平然と近づいた。セレーネに敵意がないという事を見抜いているのだ。そして、セレーネの首や身体を嗅いでいく。そして、周囲を見回してから首を傾げる。


「……誰かを探しているの?」

「にゃ~」


 セレーネの質問にその通りと返事をするように大黒猫は鳴いた。そして、セレーネに顔を押し付ける。大黒猫の頭は、セレーネの上半身とほぼ同じくらいの大きさなので、押し付けられると尻餅を付いてしまう。


「おわっ……」

「お嬢様!」

「大丈夫。ねぇ、誰か探してるなら、一緒に来る? もしかしたら、街の方にいるかも?」

「にゃっ!」


 大黒猫はそう鳴いて頷いた。そして、身体を伏せさせると、首を振って背中に乗るように促した。


「乗って良いの?」

「にゃっ!」


 大黒猫がそう返事をするので、セレーネはその背中に乗った。


「お嬢様!?」

「大丈夫だよ。ね?」

「にゃっ!」


 大黒猫はセレーネを乗せても普通に立ち上がった。そして、そのままカノンの傍に移動した。セレーネとカノンの関係から、カノンの傍にいる事が正解と判断したのだ。カノンは、大黒猫と目線を合わせるためにしゃがむ。


「良いですか? 絶対にお嬢様を連れ去ってはいけません。私の傍を離れないように」

「にゃ」


 大黒猫が普通に頷いて答えるので、カノンは短く息を吐く。そして、大黒猫を加えて、全員で移動を始める。騎士達は念のため、


「はぁ……普通は、ここまで頭が良いわけじゃないのですが……」

「カノンも知ってるの?」

「はい。これでも猫人族ですから。猫型の動物とは交流を持っています。確かに人の言うことを理解する知能を持っていますが、基本的に奔放な性格のはずです」

「確かに、この個体はかなりの知能を持っていますね。こればかりは個体差があるので、この個体の知能が高いというだけでしょう」


 セレーネを乗せている大黒猫は特別知能の高い個体という風に結論付けられた。


「この子が誰かを探しているって事は、この子の飼い主か誰かが近くにいるって事だよね?」

「そうですね。恐らくは、あの被害者の方々の誰かでしょう」

「にゃ~ん……」


 大黒猫が悲しげに鳴く。それを聞いてセレーネが大黒猫の頭を撫でる。


「ごめんね。皆、私を守ってくれたの……本当にごめんね」

「にゃ~……」


 大黒猫は、首を横に振って答える。それは気にするなと言っているようにも見えた。大黒猫がセレーネを乗せてくれている事で、移動速度は格段に上がった。どんどんと進んでいき、一時間程でレッドグラスへと着くことが出来た。レッドグラスに着いたところで、セレーネは大黒猫から降りる。


「それじゃあ、ここまでで良いよ。運んでくれてありがとうね。探している人の元に行ってあげて」

「にゃ~」


 大黒猫はセレーネに顔を擦りつけた後、そのまま走ってレッドグラスの中に入っていった。


「あの子放して大丈夫だよね?」

「ええ。大黒猫は、猛獣扱いはされていません。飼い猫としても選ばれる事があるくらいなので。まぁ、あそこまで堂々としている個体は少ないですが」

「そうなんだ」

「セレーネ!」


 リーシアとそんな話をしていると、ミレーユが走ってきていた。その後ろをサマンサと他の使用人が追いかけている。


「お母様!」


 ミレーユを見つけた事で、セレーネも駆け寄った。飛びつくセレーネをミレーユがしっかりと受け止める。


「ああ、セレーネ……無事で良かった……」

「うん。一回死んじゃったみたいだけど……」

「えっ!?」


 ミレーユは、セレーネを放して、身体全体を触っていく。そうして、セレーネが五体満足である事が分かる。


「はぁ……そうなの……」


 ミレーユは、もう一度セレーネを強く抱きしめる。セレーネが吸血鬼族の真祖で無ければ、こうして温かい状態で抱きしめられなかった。その事を強く実感していた。そのままセレーネを抱き上げて、今度はカノンの方を見る。カノンは、直ぐさま頭を下げる。


「お嬢様を守る事が出来ませんでした。どのような罰でも受けるつもりです」


 そう言うカノンに対して、ミレーユは拳骨を振り下ろす。思いもしなかった衝撃を受けて、カノンは頭を押えながら、目を白黒させていた。


「これはセレーネを守れなかった罰ではありません。そもそもカノンの業務にセレーネの護衛などありませんので。これは、貴方が無茶をした罰です。報告を受けた後の調査で、貴方も怪我をしたという事が分かりました。そして、それを自腹で買った治癒薬で治し、そのまま追っていった事もです。貴方が死んでいたかもしれないのですよ? セレーネを助けようとしてくれた事は感謝しています。ですが、それと同じくらい貴方の命も大事にしなさい。良いですね?」

「は、はい……」


 そんな説教を受けるとは思っていなかったカノンは、大人しく頷いた。

 これはミレーユの本音だが、一つだけ嘘がある。それは、カノンを護衛と考えていなかったという点だ。カノンを雇う際に、カノンの学園での成績などは全て目を通している。そこから、いざという時にセレーネを守れるかもしれないと考えた結果、カノンの雇用が決まったのだ。だが、それは暴漢など小さなトラブルに対しての事。ここまで大きなものを想定して雇ってはいなかったのだ。


「では、帰りますよ。キリルは報告書をまとめて提出してください」

「はっ!」

「騎士の方々もお疲れ様でした。今回の報酬は、次回の給与に加える形で払います。本当にありがとうございました」


 現在ここの街を管理しているのは、ミレーユである。そんなミレーユから頭を下げられて、騎士達は一瞬戸惑ったものの、すぐに右手を握りしめて左の胸の前に持っていく敬礼で答えた。騎士達が解散していったところで、ミレーユ達も屋敷への帰路についた。

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