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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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それぞれの状況

 セレーネが目の前から消えてダンジョンの中に飛ばされたカノンは、即座に耳に意識を集中した。


(お嬢様の感覚は下の方……周囲に聞こえるのは魔物の鼻息……嫌な感じ。でも、迷っている暇はない。お嬢様の下に!)


 身体強化したカノンは、全速力で移動を始める。そして、目の前から歩いてくるミノタウロスを見つけた。


「ミノタウロス? ボス扱いじゃなくて通常徘徊の魔物で出て来るのか」


 カノンは速度をそのままに手に魔力を集中させて圧縮する。そうして拳を魔力で覆い、頑丈なガントレットのようにしてミノタウロスの顔面をぶん殴った。ミノタウロスの首は、百八十度回転して、真後ろを向いていた。

 ミノタウロスは泡を吹きながら倒れて灰となる。カノンが受かったのは、身体強化の魔力圧縮だ。前は不安定な状態だったが、あれから鍛錬を積み、こうして安定化させる事が出来るようになっていた。

 短剣がないときのカノンの攻撃手段の一つとなっている。そのままセレーネを探すために駆け出そうとしたカノンだったが、すぐに止まる。


(ミノタウロスが常に徘徊しているのだとすれば、このダンジョンの危険度はかなり高い事が分かる。現状、フェリシア様とマリアさん、テレサ様とルリナさんが一緒にいる事は分かる。この組み合わせなら、ミノタウロスが相手でも問題は無い。問題はユイ様とメイさんだ。お二人の力量が分からない以上、救出を優先しなくてはならないのは、ユイ様とメイさんだ)


 カノンはそこまで思考してから、歯が割れるのではないかというくらいに食いしばる。


「申し訳ありません……お嬢様」


 全員の安全を考えれば、カノンの判断は間違ってはいない。だが、それはセレーネのメイドとしての判断からは逸脱しているものだった。

 それでもこの判断をした理由は、セレーネがそれを望むだろうという事を知っているからだった。カノンは再び極限まで耳に意識を集中して、ユイ達を探す。


「この階層にはいない。フェリシア様とテレサ様は、私よりも上層にいる。お二人も同じ考えに行き着くはず。私は下層を目指しつつユイ様とメイさんの捜索。最後にはお嬢様の救出を目的とする。よし!」


 行動指針を定めたカノンは、即座に行動する。その場で思いっきり足踏みをする。その音の反響で周辺地形を把握して、下へと向かう階段を探す。


「見つけた」


 カノンは、寝間着のスカートを半ばから引き千切る。動きやすさを上げるためだ。この状況で羞恥心がどうだのと言っていられる状況ではない。カノンは、即座に動き出した。


────────────────────


 空間の歪みが起こった時、フェリシアは即座に自分の杖を手に持った。同時にマリアがフェリシアの事を抱きしめて、周囲を警戒していたため、二人は一緒にダンジョン内へと飛ばされた。


「一体何が……」

「ダンジョンの生成に巻き込まれたようです。私も実際に見るのは初めてで確かな事は言えませんが、この通路を見る限りではダンジョンで間違いはないかと。セレーネは……下の方ですね。カノンさんが動いているので、合流に向けて行動しているようです」

「なら、私達は別の事をした方が良さそうね」

「はい。一番は……」


 話し合っている途中で、マリアは言葉を止めて、フェリシアの前に立つ。その正面からミノタウロスが歩いてきているのがフェリシアにも見えた。


「ミノタウロス……まさか徘徊する魔物として現れるなんて……」


 マリアは、即座に戦闘態勢に移る。それはフェリシアも同じだった。杖に魔力を通して氷の槍とする。


「私が傷を付けるわ。マリアさんは、魔術で攻撃して頂戴」

「ですが……」

「前衛と後衛に分かれるのは、戦闘の基本でしょう? 幸い、私は近接で戦う手段がある。なら、マリアさんが後衛を務めるのは当たり前じゃない」

「……分かりました。ですが、怪我を前提に戦うのは無しでお願いします。私がセレーネに怒られますので」

「分かったわ」

『ヴモオオオオオオオオオオ!!』


 ミノタウロスが大きな声で咆哮すると同時に、フェリシアが駆け出す。この時身体強化を欠かさない。掛けていくフェリシアを抜くようにマリアが雷魔術の【雷撃】を放つ。【雷撃】に撃たれたミノタウロスは、身体を仰け反らせる。そこにフェリシアが走ってきた勢いのまま、氷の槍を突き出した。通常の【氷槍】よりも頑丈な氷の槍は、ミノタウロスの身体に傷を付ける。

 そのままフェリシアが抜けていくので、マリアは【轟雷】を放ち、ミノタウロスの傷口から内部を雷で焼く。


『ヴヴヴモオオオオオオオオオオオオオ!!』


 ミノタウロスの長い断末魔が響き、そのまま灰となって消えた。マリアは即座にフェリシアの傍に移動する。


「ご無事ですか?」

「ええ。怪我もないわ。それにしても、ミノタウロスが出るというのは異常じゃないかしら?」

「はい。武器を持っていないだけマシという風にも考えられますが、相手が厄介である事に変わりはないかと」

「私達は異常なまでの魔力を持っているからいいけれど、ユイとメイさんは大丈夫かしら?」

「私も同じ事が気になりました。私達はセレーネの眷属になっているので、ミノタウロス相手でも最低限戦えますが、ユイ様とメイさんは普通の人族です。ミノタウロスと戦えるかどうか……」


 そこまで話したところで、二人はカノンの動きに変化が起きた事に気付いた。


「どうやらカノンさんもそっちを優先するみたいね」

「はい。私も今はお二人を救出すべきかと」

「ええ。私もそう思うわ」


 フェリシアとマリアは下に向かって移動していき、セレーネ達との合流を考えながら、ユイ達の捜索に出る。


────────────────────


「ルリナ、無事?」

「は、はい」


 ルリナの肩を抱きながら確認するテレサに、ルリナは少し顔を赤くしながら答えた。


「ダンジョンの生成……まさか、家を中心に起こるとは思わなかったわ。結界の魔力か私達自身の魔力か。原因が考えられないのが痛いわね。セレーネは下……カノンが動いているから、私達はユイ達を探すわよ」

「よ、宜しいのですか?」


 ルリナは、テレサがセレーネを愛している事を知っているので、セレーネを置いておいてユイ達の捜索をしても良いのかと気になったのだ。


「良いも悪いもないわ。それをセレーネが望んでいるのだからやるだけよ。ここの魔物は、ミノタウロスみたいだから、早急に探す必要があるわ」

「そ、そんな!?」


 ルリナもミノタウロスの強さは知っているので、テレサがユイ達を優先する事に納得していた。


「まずは上を捜索するは、その後は下に向かうわよ。悠長にしている暇はないわ。全開で行くわよ」


 そう言って、テレサはルリナをお姫様抱っこする。ルリナは、顔を真っ赤にして慌てる。


「お、お嬢様!?」

「これが一番早いわ。しっかりとくっついていなさい。舌を噛むわよ」


 テレサがしようとしている事に気付いたルリナは、言われた通りにテレサにくっついた。テレサは、風を纏って浮き上がり、背後で風を爆発させる事で高速移動していく。通路が広いダンジョンだからこそ使える移動手段だった。ルリナは、涙を滲ませながら、必死にテレサにくっついていた。その心臓は、恐怖とは別の意味でも早く強く鳴っていた。

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