新しい眷属
湖から上がったセレーネ達は、セレーネの【水球】で服の水分を取った。取った水分は、湖に返す。
「【水球】も使いようによっては、こんな事が出来るのね……魔術武闘会でもやっているのを見たけれど、こうしてやって貰えると驚くわね」
「そう? 錬金術でも使うよ。普通に錬金した方が楽な事もあるけど」
「そうなのね」
ユイは自分の服を触って、セレーネがしっかりと乾かしてくれた事を確認した。身体のどこを触っても濡れている箇所はない。メイもそれを確認していた。
「……お洗濯に使える。布とかで使い方は変わりますか!?」
「弱い素材だと引っ張る勢いで破れるかも。【水球】を形成する速度は、しっかりと考えないと駄目かな」
「なるほど……そういうところに気を遣わないといけないのですね……繊細な操作が求められそうです」
「慣れたら簡単だけどね。魔術を器用に使えるようになるかもね」
メイは洗濯の効率が良くなるかもしれないと考えて、魔術を勉強しようかと考え始めた。
「まぁ、洗濯機の乾燥機能とか使った方が纏めて洗うときは楽だけどね」
「あっ……」
一枚一枚洗濯する事がほぼないという事に気付いたメイは、若干落胆する。
「こういう時だけ役に立つ技術だね。基礎を磨くと、こういう風な応用が出来るから、魔術を勉強するのは良いと思うよ」
落胆するメイにセレーネはキラキラとした目でそう言う。メイを元気づけるというよりも、魔術好きを増やそうという気持ちが強かった。
「そう……ですね。少し勉強をしてみようと思います」
セレーネは満足したように頷いてから、カノンの方に向かった。そこではカノンが魔物の解体をしていた。テキパキとした作業で、次々に解体されていく魔物をテレサが洗うので、それを【空間倉庫】に収納していく。
「これで全部ですね」
「こっちの方が、魔物が多かったんだね」
セレーネは仕舞う肉や素材の量がさっきよりも多いので、カノンが倒した魔物の数がさっきよりも多いという事に気付いた。
「はい。魔物除けの結界のおかげで、屋敷近くには魔物が近づきませんので、こちらの方が多くなっていたようです。大分減らしたので、しばらくは増えすぎるという事はないでしょう」
「そっか。じゃあ、帰ろうか」
セレーネは、【空間接続】を発動する。全員が通っていくと、そこはルージュ公爵家の別荘だった。【座標記録】で別荘の座標を記録していたので、簡単に戻ってくる事が出来たのだった。
「いつの間に……」
「山登りをするから、念のためね。ここの記録をしておけば、遭難しても戻ってこられるから。でも、魔力使いすぎた……カノン」
「はい。お部屋に行きましょう」
セレーネはカノンから魔力を補給するために、カノンに抱き抱えられながら部屋に向かう。ユイは、どういう事か一瞬理解出来なかったが、すぐにセレーネが真祖である事を思い出して血から魔力を吸収するためだという事に気付いた。
フェリシア達はリビングでセレーネ達が降りてくるのを待つ。
魔力を回復したセレーネは、カノンを連れて戻ってくる。
「そういえば、今日手に入れたお肉って、どうするの?」
「熟成させるのも良いですが、今日食べてしまっても良いと思います。せっかくですので、ステーキにして食べましょうか。量が量ですので、早めに食べておいた方が良いでしょう」
「熟成……」
セレーネは、カノンから熟成という言葉を聞いて、頭の中で考えが巡っていく。
「熟成庫も作るべきなのかな……」
「キリがないわよ」
【空間倉庫】に新しい部屋を作るか考えるセレーネにフェリシアがツッコむ。
「でも、熟成するなら、もう少し温度とか環境を調整しないといけないでしょ?」
「そうね。美味しい肉にするのなら、必要になるかもしれないけれど、それを【空間倉庫】内でやる必要はないでしょう?」
「う~ん……まぁ、そっか。家に熟成庫作れば良いもんね。ミーシャちゃんに相談してみよっと」
魔術道具を作るのならミーシャに相談するのが一番なので、セレーネは旅行が終わったらミーシャの元を訪ねる事に決めた。
それはそれとして、大量に手に入れた肉の一部を使って、豪勢なステーキを夕食にする事が決まった。カノン達が調理してくれている間に、セレーネ達はテレサの付き添いの下、お風呂を済ませていく。広めの浴槽なので、のびのびと入る事が出来るが、セレーネはテレサを背もたれにして入っていた。
(仲良し姉妹だなぁ)
テレサも一切注意する事なく、セレーネを動かさないように手を回しているので、ユイからは仲良し姉妹という風に見えていた。実際仲良し姉妹なので間違いではない。
(セレーネが泳がないように拘束しているだけなのよね……)
ユイが考えている事を読み、フェリシアは心の中で苦笑いしていた。セレーネが楽しそうにしているので、ユイからは全く分からないが、テレサがセレーネを拘束している理由は、フェリシアの考えている通りだった。
セレーネ達がお風呂から上がると、夕食が並んでいた。セレーネ達がお風呂から出て来るタイミングを把握していたように焼きたてが並んでいる。山登りと湖遊びをしていたセレーネ達はステーキを平らげていった。
そうして満腹になり、リビングでのんびりとしてから、それぞれの部屋に戻っていった。二人になったところで、明日の支度をしているカノンに抱きついていた。カノンは、セレーネの好きにさせながらも、手を止めずに支度を進めていった。そこで扉がノックされる。
「どうぞ」
セレーネが答えると、テレサとルリナが入って来た。
「お姉様!」
セレーネはすぐにテレサの方に抱きついていく。その間に、カノンは支度を進める手を早めた。
「どうしたの?」
「ちょっとセレーネに用事があったのよ」
「何々?」
セレーネはテレサの胸に顔を擦り付けながら訊く。
「ルリナを眷属にしてくれないかしら?」
「ルリナを?」
セレーネは、擦り付ける頭を止めて、ルリナを見る。ルリナは、恐縮そうにしながらセレーネを見ていた。
「良いけど、ルリナが望んでるの?」
「は、はい! テレサ様を最期までお支えしたいのです!」
ルリナは、顔を真っ赤にしながらそう言う。それがルリナが眷属になりたい理由だった。最初か自分が最期までテレサを支えられれば良いと思っていたが、年月を重ねる毎に、自分の想いが大きくなっている事に気付いていた。それでもセレーネに迷惑は掛けたくないと思い黙っていたのだが、テレサと酒を飲んだ際、酔っぱらって、胸の内を曝け出してしまったのだった。
それを覚えていたテレサは、タイミングを見てセレーネにお願いしようと考えていた。この旅行が丁度良いだろうと判断したのだ。
「ふ~ん……じゃあ、やろうか」
テレサから離れたセレーネは、ルリナの手を引っ張ってベッドに座らせる。目を瞬かせているルリナの膝に座る。
「やるよ?」
「は、はい!」
セレーネは、ルリナのメイド服をはだけさせて、首の付け根に噛み付いた。そして、ルリナの眷属化を始める。
「んんん!!」
唐突な痛みに、ルリナは思わずセレーネを抱きしめる。それでもセレーネは気にせずに眷属化を進めた。痛みに耐え続け、ルリナはセレーネの眷属になる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
消耗したルリナは、そのままベッドに倒れてしまった。
「寝ちゃった」
「連れて帰るわ。ありがとう、セレーネ」
テレサはセレーネの頭を撫でる。セレーネは嬉しそうに笑った。
「えへへ。あっ! ルリナにもちゃんとリーシアちゃんの施術受けさせてね」
「ええ。分かっているわ。私もこの子がいないと駄目だから、本当に助かるわ」
「うん! 私もルリナ好き!」
「そうね。じゃあ、また明日」
テレサは、セレーネの額にキスをしてから、ルリナを背負い部屋を出て行った。ルリナが眷属になっている間に、寝間着に着替えていたカノンが、セレーネの傍にやって来る。
「良かったのですか?」
「うん! ルリナが一緒にいるの嬉しいもん!」
「そうですか。では、今日はもうお休みしましょう」
「うん!」
セレーネは、カノンに抱きついて眠る。そんなセレーネの頭をカノンが優しく撫でながら眠りに就く。
カノンとしては、セレーネの決定に反対はしない。ルリナが眷属になるのなら、テレサの身の回りも安全になるからだ。それにルリナにはセレーネが懐いているというのもある。セレーネが幸せになるのなら、カノンには一切の文句はなかった。




