別荘到着
移動時間四時間。本当にそれでルージュ公爵家の別荘に着いた。セレーネは魔動車から降りると、大きな別荘……ではなく、周囲の自然に注目していた。青々と生い茂る夏の葉は、見るだけでも心が洗われるような光景だった。
「おぉ……」
「別荘周りは、綺麗になっているのね」
「当たり前でしょう。別荘の近くまで森にしていたら、本当に魔物が来た時に気付きにくくなるもの。別荘周りは五十メートル程、伐採しているわ」
フェリシアが注目していたのは、別荘周りだった。別荘から囲っている塀までは二十メートル以上あり、その塀から外は木が伐採され、五十メートル程開けた土地が広がっている。
魔物が来たとしても確かに見えやすいようになっている。
「魔物除けの結界……随分と手の込んだ結界ね。私も初めて見たわ」
テレサは周囲を見ながら呟いていた。テレサがそう言ったので、ルリナは周囲を見回す。
「全然分かりませんが……」
「ルリナは何でも鼻に頼りすぎよ。この結界は公表されているのかしら?」
「えっと……皆が知らないのなら、公表されていないと思うわ。お父様は、基本的に秘密を持つ事を好むし、不思議ではないけど」
「ねぇ、分析して良い?」
「やめなさい、セレーネ。他家の秘伝を探るのは無駄な諍いを生むだけよ」
「は~い」
仕組みが気になったセレーネだが、テレサから止められたので大人しく頷いた。
「今度お父様に訊いてみるわ。許可が出たら、魔術陣を送ってあげる」
「本当? やった! 面白い内容だと良いなぁ」
ユイが結界の魔術陣をくれるかもしれないというので、セレーネは喜んでいた。それを見たメイは、内心戸惑いを覚えていた。
(魔術陣に面白い内容とかあるのかな……いや、セレーネ様なら、そういうものを見出せるのか)
ユイと一緒にセレーネと接していたメイは、セレーネがどういうものに興味を抱くのかを知っているのでそう考えていた。それでも魔術陣を見て面白いと感じる事が出来ないメイには、セレーネの気持ちはあまり理解出来ていなかった。
「では、皆さんの居室にご案内します」
そう言って、メイが全員の居室を案内する。セレーネとカノン、フェリシアとマリア、テレサとルリナという部屋割りだ。それぞれメイドと一緒にいるのは、慣れない環境になるので、それを考慮した結果だった。ユイもメイと一緒の部屋になっている。
そして、大きなリビングがあるので、基本的には皆そこに集まる事になる。
「これお姉様の荷物ね。こっちはフェリシア」
セレーネは、【空間倉庫】から二人の荷物を出す。その荷物の中には、それぞれマリアとルリナの荷物も含まれていた。カノン、マリア、ルリナ、ユイは、それぞれの主人の荷物を開けるために、それぞれの部屋に向かっていった。
その中でセレーネ達はリビングでゆっくりとしていた。
「本当に便利ね。その魔術」
「基本的に知っている人の前でしか使えないけどね。先生達に人に見られないように言われてるし」
これはミルズとレイアーから常に言われている事だった。セレーネはそれを守っているので、基本的に研究室と屋敷内でしか使っていない。
「折を見て発表するって聞いたけど」
「その折がどこになるかだね。これの駄目な部分って、【空間接続】があるからだし」
「ああ、強盗に使えるからよね。座標が分かれば良いから、割とハードルが低くなるのよね」
「そう。だから、そこの対策が出来るまでは駄目ってね。まぁ、発表したところで、エルフ族か吸血鬼族の真祖と眷族くらいしか使えないけど……」
「本当にね」
ユイも挑戦したが、そもそも多重魔術陣の構築と魔力圧縮で躓いたので、発動する事すら出来なかった。
「フェリシアは使えるのよね?」
「一応使えない事はないけれど、魔術陣を見ながらじゃないと無理ね。詠唱が完成すれば、普通に使えるでしょうけど」
「そうなの。まぁ、あんな複雑な魔術陣を無詠唱で使えるのは開発者くらいよね……そういえば、詠唱は作らないの?」
「詠唱ってどうやって作るの?」
「さぁ?」
セレーネ達は詠唱の作り方を習っていない。基本的に、詠唱は無詠唱を使えない人達が開発していくものなので、セレーネ達にはあまり縁のない事だからだ。それでも少しは習っているかもしれないと思い、セレーネ達はテレサの方を向いた。
「基本的に魔術の開発と同じよ。地道に詠唱する事で描かれる魔力線から作り上げていくの。だから、詠唱開発の現場は基本的にぶつぶつと人の声が聞こえ続けるわ。学園七不思議にある呪詛が聞こえる教室は、ここから生まれたのよ」
「学園七不思議って初めて聞いたけど、何それ?」
「学園内にある七つの不思議ね。怪奇現象と呼ばれるものよ。基本的には、今みたいな魔術研究の中で出て来るものが含まれているわね」
「へぇ~、先生達に訊いてみよ。それで、詠唱って、そんな言葉の違いで変わるの?」
「変わるみたいね。そもそも詠唱で魔力線が描かれる原理自体は、あまり解明されていないの。だから、どの言葉がどの魔術に使えるのかを調べて行く必要があるのよね。かなり面倒くさいもの。私は面倒くさいから、無詠唱で済ませるわね。魔術陣を覚えれば良いだけだから」
「私もそう思う」
テレサの話にセレーネ同意見だった。最初こそ詠唱魔術から入ったセレーネだが、無詠唱魔術に慣れた現在では、魔術陣を覚えれば簡単に発動出来る無詠唱魔術の方が楽だと感じていた。因みにフェリシアも二人と同意見だった。
その中で、ユイだけが苦笑いしていた。
「その記憶力が欲しいわ……」
記憶力が悪いという訳では無いが、それでもユイはしっかりと覚えるのに時間が掛かってしまう。なので、何度か見ただけでほぼ完全に魔術陣を覚えているセレーネ達には感服していた。
「覚えられるだけユイも良いでしょ。本当に覚えられない人もいるだろうし」
セレーネはそう言いながらテレサのところに向かい、テレサが座っているソファの下に敷いてあるカーペットを叩く。それだけでセレーネの言いたいことを理解したテレサは、カーペットに正座する。セレーネはテレサの膝枕でゴロゴロとし始めた。
そこに荷物の整理を終えたカノン達が帰ってくる。
「お嬢様。余所様の屋敷内ではしたないですよ」
「皆知り合いだから良いでしょ。久しぶりにお姉様と一緒に居られるんだもん」
「全く……」
「気にしないで良いわよ、カノン。普段通りにしてくれれば私も嬉しいわ」
「ユイ様がそうおっしゃるのでしたら」
ユイからも許可を貰ったセレーネはテレサに甘える。
(セレーネって魔術研究以外は年相応よね……この落差が可愛さに繋がるのかな。私もこういうのを意識したらウケが良いかな。いや、これはセレーネだからよね)
ユイはセレーネの事を見ながら、自分の魅力を引き上げる事が出来るのかと考えたが、これはセレーネの魅力だと判断して取り入れる事を止めた。
その日は、一階のテラスでバーベキューをして過ごしていった。山旅行の本番は二日目からである。




