ルージュ公爵家の別荘へ
夏季休暇も順調に過ぎていき、ルージュ公爵家の別荘があるルージュ公爵領へと旅行に行く日がやって来た。セレーネ達は、屋敷前に止まった魔動車に乗り込んだ。
セレーネ、フェリシア、テレサ、カノン、マリア、ルリナが乗り込んでも魔動車には席が空いていた。カノンは、運転を交代する可能性を考えて、助手席に座っている。
魔動車に乗り込んですぐにテレサはユイに挨拶をしていた。
「お初にお目にかかります。クリムソン侯爵家長女テレサ・クリムソンと申します。妹がお世話になっております。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「初めまして。ユイ・ルージュよ。もっと気楽にして頂戴。今は親の爵位なんて気にしないで良いわ。セレーネ達にも同じようにさせているから」
「……分かったわ。今はセレーネの姉として接する事にするわ」
「ええ。それでお願い」
ユイはテレサにも、爵位を気にせずに接するように命令した。そうでなければ、この旅行が窮屈なものになると考えたからだ。セレーネに友人として接させているのに、テレサに公爵令嬢と侯爵令嬢として接しろというのもおかしいと考えたというのもある。
そんなテレサとユイの会話の中で、セレーネは魔動車に興味を抱いていた。
「前に乗った魔動車よりも大きくない?」
「旅行に行くからね。セレーネ達の荷物がないというのも大きいわ。お父様が、旅行に行くならこれくらい必要だろうと用意したものだからというのもあるかな」
「ふ~ん……ここで暮らせそう」
セレーネがそう思う程、その魔動車は大きな魔動車だった。三列あるシートの先頭にセレーネとユイ、二列目にフェリシアとマリア、三列目にテレサとルリナが座り、魔動車が動き出す。
「どのくらい掛かるの?」
「大体五時間くらいかな。飛ばせば、もっと早く着くけどね」
「安全運転で行きますので、四時間くらいだとお考え下さい」
「一時間も短縮出来るの?」
「安全運転でも、そのくらいの速度は出せますので」
「へぇ~」
魔動車は、王都を出た途端に速度が上がった。そこで、セレーネは揺れが少ない事に気付いた。
「あまり揺れないんだ?」
「ええ。最新式の魔動車で、バネを仕込む事で揺れを最低限にしているのよ。詳しい原理までは知らないのだけどね。操縦もしやすくなるみたいよ」
「へぇ~、お姉様知ってた?」
「知らないわ。うちでも購入はしていないわね」
「そっか。お父様におすすめしようかな」
「小さいものがあれば良いかもしれないわね」
今魔動車に乗っている中に、魔動車に精通している者は誰もいないので、全員詳しい原理までは分からない。そのため魔動車に関する会話は、それで終わった。ほとんど全員が魔術に精通している事もあり、話題は研究に関するものになっていく。
「じゃあ、セレーネはまだ新しい研究の内容を決めてないのね」
「うん。基礎魔術を見直す事にしてるけど、複合魔術の研究もしてみたいかなって考えてるの。氷魔術よりも複雑な複合魔術を調べたくてね。氷魔術みたいに名前が付いていれば分かり易いけど、水と雷の複合魔術とかは名前が付いてないから、調べるのに苦労するんだ」
「へぇ~」
「ユイは?」
「私も決まっていないわ。いざ研究となると難しいわね。私が得意な魔術は火属性だから、そこを研究したくはあるわね」
「火属性か……」
セレーネは、火属性魔術について少し考える。
「火属性……私が一番使うのは、氷魔術とか冷蔵庫とかかな」
「熱操作よね?」
「うん。そこら辺の研究も面白いかなって思ったけど、大体研究され尽くしているかな」
「難しそうね。でも、得意なものから調べて行くのは良いかもしれないわ。旅行が終わったら取り寄せてみる」
「私はあまり使わない魔術の研究をしてみるかなぁ。闇魔術とか」
「闇魔術は危険だから、研究するなら気を付けてしなさい」
眼を瞑りながら二人の話を聞いていたテレサが、そこでだけ口を出して注意した。セレーネは素直に頷く。
「は~い。そういえば、お姉様の研究は進んでるの?」
「そこそこね。空を飛ぼうと考えていたのだけど、やっぱり身体を打ち出すしか出来ないわね」
「それってシローナちゃんが言ってた風魔術を得意としている人なら誰でも出来るやつ?」
「それはよく分からないけれど、身体に風を纏って高速移動するものよ。進行方向と逆方向に風を噴射する事で身体を打ち出すのよ。身体への負担が大きくなるから、本当に使いこなせないと難しいわね」
「風を纏う……フェリシアの研究と似てるね」
セレーネはフェリシアに話を振る。
「そうね。私の研究は自分の周囲の温度を低くして、氷魔術の発動速度を上げようというものだから」
「それって、そこまで変わるものなの?」
いまいち分かっていないユイが質問する。
「ええ。環境によって、魔術の発動速度は影響してくるわ。論文にもあったけれど、乾燥地帯での水魔術の発動速度は遅くなり、気温の低い場所で使う氷魔術の発動速度は早くなっていたの。これは、私も実証しているわ。セレーネに協力して貰ってね」
「それだけ分かっていても研究は進んでいないのね」
ユイは、ミルズとの会話を思い出してそう言う。
「これを研究しようと思ったのは、最近だからというのもあるわね。自分の周囲の温度を調節する事は出来ているけれど、寒すぎれば低体温症になってしまうし、それに対策するために自分の周りを温めると、周囲の温度にも影響してくるから。だから、結界を使って温度を感じないように遮断する方法も考えたわ。そのための結界を研究中よ」
結界を研究していた事もあり、フェリシアは順調に研究を進められていた。また同じく結界魔術を得意としているスピカの助力も得られていたので、一人で研究するよりも早く内容を詰める事が出来ている。
「そういえば、闇魔術の研究をしてみようって言ってたけれど、何か候補はあるの?」
「特にはないかな。吸収と消滅の特性を利用したいくらい? ん? 吸収……」
ユイの質問に答えたセレーネは、自分で言って一つ思い付いたものがあった。
「何か思い付いたの?」
ユイもそれに気付いて訊く。それに対して、セレーネは頷いてから答える。
「うん。吸収の特性を【空間接続】に付けたら、掃除機になりそうって」
「それなら消滅を……って、間違って吸い込んだときが困るわね」
「うん。今の掃除機でも誤って吸い込む事は多いみたいだしね」
これに対してマリアは頷いていた。メイドとして掃除をしているマリアだからこそ分かる事がある。この場にいるのは、メイド以外全員令嬢なのだから。
そんな風に魔術の研究に関する話をしながら、移動時間が過ぎていく。




