魔術武闘会閉会
そのまま試合は進み、再びセレーネの番がやって来る。セレーネの相手になるはずもなく、すぐに試合は終わった。続く三試合目、準決勝でも同じようにすぐに試合が終わる。セレーネの攻撃を避ける事が出来ずに、即座に結界が割られていくが、セレーネが高速で魔術を構成するので、観客達はその技術を見て歓声を上げていた。
そんな中で、セレーネは物足りない様子で控え室にいた。
「張り合いがない」
「セレーネ様は、少々強くなりすぎたのかもしれませんね」
「でも、私って弱い方でしょ?」
「そうですね。ですが、セレーネ様の年齢から考えれば強すぎる事になります。セレーネ様の周りには、年上が多いので、ご自身が弱く思えてしまうかもしれませんが、学生としてはトップクラスです。フェリシア様も同じですね」
セレーネの周りには強い大人が多いため、セレーネ自身は自分の事を、まだ弱いと評価している。実際、まだまだ弱くはあるが、それは戦闘に繋げるための知識などが不足しているからであり、経験のなさによるものだった。
だが、それでもセレーネとフェリシアは、他の学生よりも経験がある。シローナとの稽古が、その経験の差を大きなものとしていた。
「てか、さっきから天才天才うるさいんだけど……」
「また言われたのね」
ぼやくセレーネの頭をフェリシアが優しく撫でる。対戦相手に、『天才に勝てるわけねぇだろ……』『天才が……』などと立て続けに言われて、セレーネは、若干不快な気持ちになっていた。
「努力を天才の一言で片付けられるのって、思ったよりもムカつくって事が分かった」
「確かに、セレーネ様は小さな頃から努力されていますから」
小さい頃から魔術を教えていたレイアーは、学園に来る前からセレーネが努力している事を知っている。だからこそ、セレーネが不快に思っている事も納得出来ていた。
「本当に失礼しちゃうよね」
セレーネはそう言いながら、フェリシアにくっついて英気を養う。そうして時間が過ぎていき、試合の時間がやって来た。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
フェリシアとレイアーはセレーネに手を振って送り出す。セレーネも手を振り返してから試合に向かった。
会場の熱気はかなり高い。それだけ、セレーネの試合が楽しみにされているという事だ。相手の男子生徒は先に待機しており、緊張しているが目に見えて分かった。
セレーネは、男子生徒から視線を外し、カノン達を見る。視線に気付いたカノン達が手を振ってくれるので、セレーネは嬉しい気持ちになる。そして、会場を一周見てみるが、リーシア達の姿はない。
(二試合目も三試合目も準決勝もリーシアちゃん達はいなかった……やっぱり見に来にくいのかな。学園の教師として入って来ても、他の教師とか生徒と関わっていないみたいだし)
リーシア達にも見てもらいたいと思っていたセレーネは、少し残念に思いながら、もう一度対戦相手と向き合う。
「では、決勝戦開始!」
セレーネがリーシア達を探している間に口上が終わり、試合が開始された。セレーネに向かって火魔術の【火弾】が放たれる。円錐型の火が次々に飛んでくる。
セレーネは、水魔術の【水壁】を使って、大きな水の壁を生み出す。【火弾】は【水壁】に命中して消失していく。ただし、【水壁】も次々に放たれる【火弾】によって蒸発していき、少しずつ小さくなっていた。
「う~ん……一気に蒸発する事はないのか……いや、でも、水の温度は上がってるかな。このまま蓄積していったら、蒸発する速度が上がっていくかな。う~ん……知りたい気もするけど、今は試合かな」
セレーネは、このままどのくらいで完全に蒸発するのか知りたいという気持ちになりながらも試合を優先する決意をして、自分の周囲に【氷槍】の魔術陣を広げる。そこに少しだけ改良を加えて放った。
対戦相手は、氷の槍を何とか避けたが、唐突に腕に水が絡みついた事に気付いた。
「な、何だこれ……?」
氷の槍は、次々に飛んでいくが、対戦相手は何とか避けていた。その度に身体に水が纏わり付いていく。そして、身体全体が水に包まれた。
「な……ごぽっ……」
「そこまで!」
対戦相手が対処出来ないと判断した審判が決着を宣言したので、セレーネは魔術を解く。
「ごほっ! ごほっ!」
水から解放された男子生徒は、咳き込みながら空気を吸う。そんな男子生徒に近づいていったセレーネは、男子生徒の服に染みこんだ水などを【水球】とする事で乾かす。自分の服が乾いた事に男子生徒は驚いたが、セレーネを見て納得したような表情をする。
「これが天才か……」
その呟きを聞いたセレーネは、苛立ちで眉間に皺を寄せる。
「あのさ。そうやって人の努力をただの才能だけで身に着けたものにするのやめてくれる?」
「え?」
セレーネの苛立ちの籠もった言葉を聞いた男子生徒が顔を上げる。そこには、本当に怒っているという雰囲気のセレーネが仁王立ちしていた。
「何でもかんでも、自分より優れている人がいたら、天才だ才能だって、私がしている努力も知らないくせに」
「ど……りょく……?」
「何? 天才はしてないって思った? 馬鹿にするのもいい加減にしてくれる? 授業が終わったら調べものしたり、家に帰ったら魔術陣を弄ってみたり、魔術に触れている時間を多くしているし、色々な人に習おうとしてる。あなたは何をしたの? 何をしてるの? ちゃんと努力してるの? 時間を魔術に使おうと思ってるの? 自分の努力不足を相手に才能があるから、天才だからで言い訳しようとしてない? こうして負けたのが悔しいなら、次に勝てる方法を考えれば? 私が使った魔術が何だったのか考えれば? そんな相手に格を付加して、自分を慰める暇があるなら、前に進むための方法を模索すれば?」
「そんな……誰もがお前みたいに正しい努力の仕方を知っているわけじゃないだろ……」
男子生徒は少し目を逸らしながら、そんな事を言う。セレーネに言われた事が胸に突き刺さっているものの素直に認めたくないという捻くれた子供の思考をしているのだった。対して、セレーネはただただ冷徹に見下ろしていた。
「馬鹿じゃないの。正しい努力って何? 無駄な努力にしているのは、あなたでしょ? どうして、その場で絶対に役に立たないといけないの? あなたが蓄えた知識と技術は、その一つにしか役に立たないものなの? 他に使えるものを模索はしなかったの? 自分で無駄だったで切り捨てたら、本当に無駄になるっていうのが分からないの? 学びを活かすのも殺すのも自分次第なんだよ? もう一回一から学び直してくれば?」
セレーネは苛立たしげにそう言うと、控え室の方に歩いて行った。残された男子生徒は、ぽかんとしながら見送る。そして、会場も静まり返っていた。その理由は、優勝者インタビューをしようとしていた審判の教師によって、振動魔術の【拡声】が使われており、セレーネと男子生徒の会話が会場全体に広がっていたからだった。
そのためセレーネを知る者達は、皆苦笑いをしていた。
特にカノンは、
(そうとう苛立っていたみたい……フェリシア様が機嫌を直してくださると良いけど……)
と思っていた。そんなカノンの考え通り、セレーネはフェリシアに甘える事で機嫌を戻していた。
何はともあれ、魔術武闘会は終わり、セレーネは優勝者として表彰される。先程のセレーネの言葉があっても、セレーネが表彰されると、会場が熱気と歓声で満たされた。
そして、この魔術武闘会があってから、学園での生徒の授業への意欲が強まるという嬉しい変化があった。これがセレーネの言葉によるものなのかは定かではない。




